ゆうちゃんさん
レビュアー:
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今回は子供の行方不明事件。実は、8カ月前にも同様な事件があった。妻を亡くしたばかりのバーデン警部はその行方不明の子の母親と親しくなってゆく。主人公の周辺人物に焦点を当てたやや文学的な作品。
ウェクスフォード主任警部シリーズ六作目。
本書の前半はウェクスフォード主任警部の良き相棒でワトソン役とも言えるバーデン警部が主体である。美男で男女関係に厳しい倫理観を持つバーデンの一途に愛した妻ジーンが、この作品の事件の少し前に癌で早世したと言う設定。家にはジーンの妹グレースが来て子供の面倒を見てくれている。しかし、子供とバーデンのために自分のキャリアを犠牲にして尽くすグレースにバーデンは妻を失ったヤケクソか、ろくに感謝しない。
事件は10月、キングズマーカムの郊外に住むジェンマ・ロレンス夫人が、息子ジョンが遊びから帰って来ないと言う電話を警察にかけることから始まる。実はキングズマーカムでは2月にも少し年上のステラ・リヴァースと言う少女が行方不明になっている。警察はジョンと遊んでいた友達や公園の近所への聞き込みをし、その公園に8月から不審者が居たことを知る。バーデンは、グレースと子供がいる自分の家にあまり寄り付かず、貧乏で、生活もだらしなさそうなロレンス夫人に何故か惹かれてゆく。亡くなった妻にそっくりな点がバーデンをイラつかせるグレースと比較して、俳優崩れのジェンマ・ロレンスには何か言いようもない魅力があるのだった。バーデンは捜査と称して次第にジェンマの家に入り浸るようになり、仮にジェンマと結婚しても亡妻ジーンのきちんとした家政運営には及びもつかないとわかっていながら、彼女に囚われてゆく。そして、バーデンにとってジョンが見つかることは、ジェンマの愛情が子供に戻ることを意味し、歓迎できないこととなる。バーデンがこの事件の捜査でほぼ「唯一」と言って良い成果を挙げたのは、ジョンもステラも行方不明となったと思われる道の先にある廃墟、サルトラム・ハウスの噴水用の地下貯水槽から2月に行方不明になったステラの死体を見つけたことくらいだった。
バーデンがこのよう状態に陥って行くので、ウェクスフォードは、小説の後半ではひとりで捜査をすることになった。これまでのように、カルーセル・カフェや「オリーブと鳩」亭でバーデンと事件の議論をすることもない。バーデン警部が死体として見つけたステラの母親のロザリンド、ロザリンドの再婚相手でステラの継父のアイヴァーに会いに行く。アイヴァーは行くところ災厄をもたらす男だったが、非常に美男で、ロザリンドは夫を捨てて彼と結婚した女性である。娘のステラがアイヴァーに関心を持てば嫉妬しかねないし、娘の死を聞いても夫への愛情の方が優先であまり気にしない。ウェクスフォードはそんなアイヴァーが義理の娘を殺した可能性があるのかどうか考え始める。本書に何度か登場する小悪党マシューズが、警察の書類上は身ぎれいな筈のアイヴァーがかかり合いになった事件のことを垂れ込んで来た。ウェクスフォードはステラの死もジョンの誘拐もアイヴァーが犯人なのだろうか?と疑問に思い始め、マシューズの言う事件も本格的に調査を始めた。そしてある確信を持った。
本格物の体裁を取りつつ、かなり一般小説に近い感じを受ける。なので犯罪のプロットとしては、少々お粗末な感じ。レンデルの一連のウェクスフォード・シリーズは、人間関係の解明に重きを置いているが、その分プロット構成は弱く、ひとつの話で1個は、非常にまれな偶然が事件の核心を構成していることが多い。本書もそう言った小説のひとつであるが、一応、全ての手掛かりを読者に提供している形をとっている(ので、一字一句疎かにできない)。どうせなら、そんな本格物の体裁など捨ててしまえば、と思ったがそれだとノンシリーズのサスペンスと何も差異が出て来ないのでこれは著者のこだわりなのだろう。とは言え、本格物=犯人・事件の解明を中心に読んでしまうと評価は低くなってしまう。
シリーズにメリハリをつけるため、本書ではバーデン警部の不幸になってしまった結婚生活に焦点を当てている。バーデン警部の性格の変貌ぶりも、恋愛心理の描写も読み物のひとつである。最後の3頁でバーデンの性格が、突然、これまでのシリーズのバーデンに戻ってしまっている。これを本書の前半の雰囲気と対照を持たせるための手段と見るか、ちょっと取って付けたように感じるかも、評価が分かれるところ。
本書の前半はウェクスフォード主任警部の良き相棒でワトソン役とも言えるバーデン警部が主体である。美男で男女関係に厳しい倫理観を持つバーデンの一途に愛した妻ジーンが、この作品の事件の少し前に癌で早世したと言う設定。家にはジーンの妹グレースが来て子供の面倒を見てくれている。しかし、子供とバーデンのために自分のキャリアを犠牲にして尽くすグレースにバーデンは妻を失ったヤケクソか、ろくに感謝しない。
事件は10月、キングズマーカムの郊外に住むジェンマ・ロレンス夫人が、息子ジョンが遊びから帰って来ないと言う電話を警察にかけることから始まる。実はキングズマーカムでは2月にも少し年上のステラ・リヴァースと言う少女が行方不明になっている。警察はジョンと遊んでいた友達や公園の近所への聞き込みをし、その公園に8月から不審者が居たことを知る。バーデンは、グレースと子供がいる自分の家にあまり寄り付かず、貧乏で、生活もだらしなさそうなロレンス夫人に何故か惹かれてゆく。亡くなった妻にそっくりな点がバーデンをイラつかせるグレースと比較して、俳優崩れのジェンマ・ロレンスには何か言いようもない魅力があるのだった。バーデンは捜査と称して次第にジェンマの家に入り浸るようになり、仮にジェンマと結婚しても亡妻ジーンのきちんとした家政運営には及びもつかないとわかっていながら、彼女に囚われてゆく。そして、バーデンにとってジョンが見つかることは、ジェンマの愛情が子供に戻ることを意味し、歓迎できないこととなる。バーデンがこの事件の捜査でほぼ「唯一」と言って良い成果を挙げたのは、ジョンもステラも行方不明となったと思われる道の先にある廃墟、サルトラム・ハウスの噴水用の地下貯水槽から2月に行方不明になったステラの死体を見つけたことくらいだった。
バーデンがこのよう状態に陥って行くので、ウェクスフォードは、小説の後半ではひとりで捜査をすることになった。これまでのように、カルーセル・カフェや「オリーブと鳩」亭でバーデンと事件の議論をすることもない。バーデン警部が死体として見つけたステラの母親のロザリンド、ロザリンドの再婚相手でステラの継父のアイヴァーに会いに行く。アイヴァーは行くところ災厄をもたらす男だったが、非常に美男で、ロザリンドは夫を捨てて彼と結婚した女性である。娘のステラがアイヴァーに関心を持てば嫉妬しかねないし、娘の死を聞いても夫への愛情の方が優先であまり気にしない。ウェクスフォードはそんなアイヴァーが義理の娘を殺した可能性があるのかどうか考え始める。本書に何度か登場する小悪党マシューズが、警察の書類上は身ぎれいな筈のアイヴァーがかかり合いになった事件のことを垂れ込んで来た。ウェクスフォードはステラの死もジョンの誘拐もアイヴァーが犯人なのだろうか?と疑問に思い始め、マシューズの言う事件も本格的に調査を始めた。そしてある確信を持った。
本格物の体裁を取りつつ、かなり一般小説に近い感じを受ける。なので犯罪のプロットとしては、少々お粗末な感じ。レンデルの一連のウェクスフォード・シリーズは、人間関係の解明に重きを置いているが、その分プロット構成は弱く、ひとつの話で1個は、非常にまれな偶然が事件の核心を構成していることが多い。本書もそう言った小説のひとつであるが、一応、全ての手掛かりを読者に提供している形をとっている(ので、一字一句疎かにできない)。どうせなら、そんな本格物の体裁など捨ててしまえば、と思ったがそれだとノンシリーズのサスペンスと何も差異が出て来ないのでこれは著者のこだわりなのだろう。とは言え、本格物=犯人・事件の解明を中心に読んでしまうと評価は低くなってしまう。
シリーズにメリハリをつけるため、本書ではバーデン警部の不幸になってしまった結婚生活に焦点を当てている。バーデン警部の性格の変貌ぶりも、恋愛心理の描写も読み物のひとつである。最後の3頁でバーデンの性格が、突然、これまでのシリーズのバーデンに戻ってしまっている。これを本書の前半の雰囲気と対照を持たせるための手段と見るか、ちょっと取って付けたように感じるかも、評価が分かれるところ。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:角川書店
- ページ数:0
- ISBN:9784042541110
- 発売日:1987年01月01日
- 価格:551円
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