ぷるーとさん
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妖しげな辻馬車馬車を中心に描かれる明治初期の自由民権運動。
上下巻合わせての書評です。
橘屋円太郎が高座で乗り合い馬車のラッパを真似て人気を博し、逆に乗り合い馬車のことを円太郎馬車というようになったのが明治14年。その翌年の早春、山形県令でさらに福島県令も兼ねることになった三島通庸邸での宴会の場面で『幻燈辻馬車』の幕が開く。
その円太郎の師匠は、創作怪談噺で有名になった三遊亭円朝。円朝がこの宴会の余興に呼ばれ、二人は円太郎ゆかりの馬車で三島邸に来ていた。
雇った馬車は、個人営業の箱馬車で、五十近い馭者は常に小さい女の子を伴っていたため、親子馬車と話題になっている馬車だった。
余興が済んでの帰り、円朝と円太郎を乗せた親子馬車は、人力車の車夫たちが集まって鉄道馬車に反対する決起集会を開いている場面に行きあってしまい、敵の馬車めと襲いかかってきた。危うく殺られそうになったとき、女の子が「父(とと)」と叫ぶと、一陣の風が吹き、軍服を着、血を滴らせた一人の兵士が馬車から下りてきた・・・。
女の子が「父、助けて」と叫べば、西南の役で戦死した女の子の父親が姿を現し危急を助ける。この不思議な親子馬車を登場させるために怪談繋がりの円朝をもってくるとは、なんとぜいたくで凝ったつくりだろう。もちろん、二人(主に円朝)は、あとあとの話にも関わってくるのだが。
親子馬車の馭者は元会津藩士の干潟干兵衛。幕末から明治にかけての会津藩士の悲惨さは言語に尽くせるものではなく、干兵衛の息子蔵太郎が西南の役に出兵したのも、父が京都にいて留守だった会津で母ともども城立てこもりその際官軍の将に狼藉され自害した母の仇打ちのためだった。
幽霊になった蔵太郎は、父に、行方知れずになっている娘の母親を探してほしい、母の仇をとってほしい、と語った。この二つの目的のため、親子馬車は、東京の街中を走り続けているのだ。
ひょんなことから自由党の壮士と関わりができてしまった干兵衛だったが、次から次へと自由党メンバーとの関わりが増えていく。ということは、親子馬車も危ない目に遭うことが増えていくということでもあった。
大山巌、その後妻捨松、伊藤博文、三島通庸、川上音二郎、貞ヤッコ、嘉納治五郎、坪内逍遥とその妻となった花魁、田山花袋、徳富蘆花。明治の著名人たちが見せる表の顔、裏の顔。そして、自由民権を求める自由党の壮士たちの切なる思い。
物語は、明治17年に起こる加波山事件の直前で終わっている。
辻とは、もともと妖しきものが姿を現す場所。逢魔が時に走る辻馬車は、そもそもが異界と繋がる乗り物なのだ。そして、孫娘をその母親に託した干兵衛は、その異界へと向かって馬車を走らせる。
橘屋円太郎が高座で乗り合い馬車のラッパを真似て人気を博し、逆に乗り合い馬車のことを円太郎馬車というようになったのが明治14年。その翌年の早春、山形県令でさらに福島県令も兼ねることになった三島通庸邸での宴会の場面で『幻燈辻馬車』の幕が開く。
その円太郎の師匠は、創作怪談噺で有名になった三遊亭円朝。円朝がこの宴会の余興に呼ばれ、二人は円太郎ゆかりの馬車で三島邸に来ていた。
雇った馬車は、個人営業の箱馬車で、五十近い馭者は常に小さい女の子を伴っていたため、親子馬車と話題になっている馬車だった。
余興が済んでの帰り、円朝と円太郎を乗せた親子馬車は、人力車の車夫たちが集まって鉄道馬車に反対する決起集会を開いている場面に行きあってしまい、敵の馬車めと襲いかかってきた。危うく殺られそうになったとき、女の子が「父(とと)」と叫ぶと、一陣の風が吹き、軍服を着、血を滴らせた一人の兵士が馬車から下りてきた・・・。
女の子が「父、助けて」と叫べば、西南の役で戦死した女の子の父親が姿を現し危急を助ける。この不思議な親子馬車を登場させるために怪談繋がりの円朝をもってくるとは、なんとぜいたくで凝ったつくりだろう。もちろん、二人(主に円朝)は、あとあとの話にも関わってくるのだが。
親子馬車の馭者は元会津藩士の干潟干兵衛。幕末から明治にかけての会津藩士の悲惨さは言語に尽くせるものではなく、干兵衛の息子蔵太郎が西南の役に出兵したのも、父が京都にいて留守だった会津で母ともども城立てこもりその際官軍の将に狼藉され自害した母の仇打ちのためだった。
幽霊になった蔵太郎は、父に、行方知れずになっている娘の母親を探してほしい、母の仇をとってほしい、と語った。この二つの目的のため、親子馬車は、東京の街中を走り続けているのだ。
ひょんなことから自由党の壮士と関わりができてしまった干兵衛だったが、次から次へと自由党メンバーとの関わりが増えていく。ということは、親子馬車も危ない目に遭うことが増えていくということでもあった。
大山巌、その後妻捨松、伊藤博文、三島通庸、川上音二郎、貞ヤッコ、嘉納治五郎、坪内逍遥とその妻となった花魁、田山花袋、徳富蘆花。明治の著名人たちが見せる表の顔、裏の顔。そして、自由民権を求める自由党の壮士たちの切なる思い。
物語は、明治17年に起こる加波山事件の直前で終わっている。
辻とは、もともと妖しきものが姿を現す場所。逢魔が時に走る辻馬車は、そもそもが異界と繋がる乗り物なのだ。そして、孫娘をその母親に託した干兵衛は、その異界へと向かって馬車を走らせる。
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ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
よろしくお願いします。
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- 出版社:KADOKAWA
- ページ数:0
- ISBN:9784041356623
- 発売日:2010年11月25日
- 価格:748円
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