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三太郎さん
三太郎
レビュアー:
人のような姿をしていて人ではない「だれでもないもの」が愛をみつける物語。
2019年に出された本の文庫版です。僕がこれまで読んだ川上さんの作品としては一番新しい。文章のスタイルが変わったように感じました。センテンスが短く、簡潔で、すらすら読める感じです。文の2~3割は会話で成り立っている感じ。残りの文は主人公の一人称でできている。文庫で400ページを超える長編なのですが、これなら最後まで読めそうです。


主人公は「誰でもない者」の一人です。ある日気がついたら病院にいましたが、それまでの記憶が一切ありません。まるでその日から彼女は生き始めたかのようなのですが・・・

彼女のキャラクターは高校生の年齢の日本語が母語の美少女。それ以外はなにもありません。「誰でもない者」は実は年齢も性別も容姿も母国語でさえ安定しません。ある日突然、女から男になったり、老婆から若い女性や若い男になったりします。だから主人公には固有の名前がありません。あるのは過去と現在の取りあえずの名前だけ。

彼女はじきに同年齢の男子高校性になり、続いて二十代の男性になります。生活は病院で暮らし、生活費はなぜか病院?が出してくれます。

次に変身したのは二十代の綺麗な女性で、彼女は病院を脱走し、キャバクラで働きながらたまたま出会った、夜逃げしてきたという偽名の男と一緒に十数年暮らして、彼が病死すると次には英語が母語らしい若い女性に変身してカナダに渡ります。この辺りまでで物語はページ数の半分を費やします。

カナダから日本に一時帰国していた主人公に三十代の男が突然訪れてきて、自分も誰でもない者の一人だといいます。彼はこれまで世界中で同じような仲間に出会ったことがあるとか。そしてアルファ(α)とシグマ(σ)という誰でもない者を連れてきます。ここから本格的に「誰でもない者」の物語が動き出します。

後半は「誰でもない者」の生物としての条件、つまり「生と死」が語られます。それに「愛」も、かもしれません。

σは今は若い女ですがもう数十年も生きています。しかし最近は弱ってきて近々死ぬのではないかと思い、今は男になっているαとセックスして妊娠しようとします。そして実際に妊娠したのですが、生まれてきたのは赤ん坊ではなくてもう一人のσでした。そして二人に増えたσはさらに弱っていきます。σを助けるためにαがとった方法は驚くべきものでした。

分裂以外にも増える方法があって、海外から来日した二人の誰でもない者は、女同士で同時に妊娠し、なぜか一人の赤ん坊を生みます。このあたりは生物学の常識が通じないのでそのまま受け入れるしかありませんね。

生まれた赤ん坊はみのりと名付けられますが、この時主人公も赤ん坊に生まれ変わってひかりと名付けられてみのりと一緒に成長していきます。ひかりはみのりを愛するようになります。

ここから最期まではみのりとひかりの物語なのですが、これ以上書くとこれから読む人の楽しみを奪うので粗筋の紹介はここまでにしましょう。

佐藤正午の月の満ち欠けに梨木香歩の沼地のある森を抜けてを加えたような物語でした。主人公の「某」はどうやって生まれたのか?とか、彼らはそもそも何者なのか?など謎は多いのですが、すべてを説明しつくさないのもよいですね。読者が勝手に想像する余地があります。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:825 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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この書評へのコメント

  1. 三太郎2021-12-06 06:28

    自己レスです。

    主人公の「某」がどうやって生まれたのかは、明示されませんが、手掛かりはちゃんと書かれています。

    「某」は何者なのかは何も書かれてはいませんが、僕の空想では、数百年前に人類の中で生じた突然変異からうまれたミュータントなのではないかな。彼らは死なないと言っていますが、二百歳以上の年齢の者は見つかっていないとか。

    「某」は人類社会に寄生しながら生きている新しい生物なのかも?

  2. No Image

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