休蔵さん
レビュアー:
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本書は群馬県の遺跡を素材に古墳時代の東国を鮮やかに描き出していた概説書。当然のことですが、奈良や大阪だけでは古墳時代を語ることはできない。本書は東国の古墳時代を知るうえで不可欠な1冊と感じた。
 古墳と言えば奈良県や大阪府が真っ先に思い浮かぶし、かつて吉備といわれた岡山県や出雲大社がある島根県、北部九州の雄である福岡県も重要地域だとわかる。
でも、本書が舞台とするのは東国で、具体的には群馬県。
もちろん、北関東に重要な古墳時代遺跡があることは認識している。
群馬県に重要古墳が集中することも知っているし、黒井峯遺跡や三ツ寺Ⅰ遺跡も有名である。
本書は群馬県の古墳や集落、居館を総合的に分析し、東国の古墳時代を鮮やかに描き出した1冊である。
本書は大きく4つの項目からなる。
まずはムラの姿をしっかりと見抜く。
もちろん、舞台は黒井峯遺跡をはじめとした、榛名山から噴出した火山灰などで覆われた集落群である。
古墳時代のムラは複数の竪穴建物で構成されていた。
それ自体は誤りではない。
でも、それに付属する平地建物や厩舎などが存在していることが火山灰に覆われた遺跡が教えてくれた。
ある家族の暮らす建物群は柵で囲われ、それぞれの敷地を道が繋ぐ。
そして、水田意外に畑も造成していたことがはっきりと判明した。
黒井峯遺跡など、群馬県で発見された火山灰などに覆われる古墳時代集落の調査成果は、全国の集落遺跡像に再考を求めるほどのものだったようだ。
もっとも、他地域では議論を深めるほどの証拠が集まることがなく、議論は発展しようがなかったようだが。
議論は渡来人にも及ぶ。
朝鮮半島から様々な文物を携えた渡来人は東国にも足を踏み入れたようで、さまざまな技術供与があったようだ。
なかでも牧の経営は、支配者に騎馬という新たな文化をもたらすことになった。
さらに冶金や治水技術も大きな影響を及ぼしたようだ。
 
そして、渡来系の新たな治水技術は、首長による農業経営にも関わってきた。
これが本論が示す3つ目の論点である。
古墳時代の地域首長にとって農業経営は非常に重要な生業だったそうだ。
各地の首長の支配領域は、なんとなく設定されることが多い印象があった。
しかし、本書で埴輪などの胎土に含まれる粘土もヒントに水系による支配領域を抽出して示してくれた。
水系を基軸にした領域は、水田の経営範囲に通ずる。
 
最後に議論は古墳そのものに及ぶ。
ここに至ると畿内との関わりも視野に入れた議論となる。
東国の前方後円墳が、畿内のどの古墳との関わりが見て取れるのか。
それは、巨大前方後円墳の築造に際して、一定の設計原理があるという前提での議論であるが、精緻な形状の巨大前方後円墳は真似てできるものではない。
もちろん、葺石や埴輪の設置という荘厳装置が共通する点も重要だろう。
 
群馬県が誇る重要な前方後円墳に保渡田古墳群がある。
隣接する3基の前方後円墳からなる古墳群である。
このうち2基は現在までに継承されていた姿を維持しているというが、八幡塚古墳だけはきっちりと発掘調査を実施して往時の姿に復元している。
それは八幡塚古墳の残り具合が悪かったという事情が関わるようだ。
その悪条件を逆に利用しての積極的な復元ということであるが、積極的な復元に対しては否定的な意見もあるという。
しかしながら、復元してくれないと築造当時の古墳の姿なんて専門家にしか分からない。
ただの小山にしか見えない。
積極的な復元は、古墳の理解に大きく寄与すると考える。
そして、本書のような良書が理解を正しい方向に促すのだろう。
 
 
でも、本書が舞台とするのは東国で、具体的には群馬県。
もちろん、北関東に重要な古墳時代遺跡があることは認識している。
群馬県に重要古墳が集中することも知っているし、黒井峯遺跡や三ツ寺Ⅰ遺跡も有名である。
本書は群馬県の古墳や集落、居館を総合的に分析し、東国の古墳時代を鮮やかに描き出した1冊である。
本書は大きく4つの項目からなる。
まずはムラの姿をしっかりと見抜く。
もちろん、舞台は黒井峯遺跡をはじめとした、榛名山から噴出した火山灰などで覆われた集落群である。
古墳時代のムラは複数の竪穴建物で構成されていた。
それ自体は誤りではない。
でも、それに付属する平地建物や厩舎などが存在していることが火山灰に覆われた遺跡が教えてくれた。
ある家族の暮らす建物群は柵で囲われ、それぞれの敷地を道が繋ぐ。
そして、水田意外に畑も造成していたことがはっきりと判明した。
黒井峯遺跡など、群馬県で発見された火山灰などに覆われる古墳時代集落の調査成果は、全国の集落遺跡像に再考を求めるほどのものだったようだ。
もっとも、他地域では議論を深めるほどの証拠が集まることがなく、議論は発展しようがなかったようだが。
議論は渡来人にも及ぶ。
朝鮮半島から様々な文物を携えた渡来人は東国にも足を踏み入れたようで、さまざまな技術供与があったようだ。
なかでも牧の経営は、支配者に騎馬という新たな文化をもたらすことになった。
さらに冶金や治水技術も大きな影響を及ぼしたようだ。
そして、渡来系の新たな治水技術は、首長による農業経営にも関わってきた。
これが本論が示す3つ目の論点である。
古墳時代の地域首長にとって農業経営は非常に重要な生業だったそうだ。
各地の首長の支配領域は、なんとなく設定されることが多い印象があった。
しかし、本書で埴輪などの胎土に含まれる粘土もヒントに水系による支配領域を抽出して示してくれた。
水系を基軸にした領域は、水田の経営範囲に通ずる。
最後に議論は古墳そのものに及ぶ。
ここに至ると畿内との関わりも視野に入れた議論となる。
東国の前方後円墳が、畿内のどの古墳との関わりが見て取れるのか。
それは、巨大前方後円墳の築造に際して、一定の設計原理があるという前提での議論であるが、精緻な形状の巨大前方後円墳は真似てできるものではない。
もちろん、葺石や埴輪の設置という荘厳装置が共通する点も重要だろう。
群馬県が誇る重要な前方後円墳に保渡田古墳群がある。
隣接する3基の前方後円墳からなる古墳群である。
このうち2基は現在までに継承されていた姿を維持しているというが、八幡塚古墳だけはきっちりと発掘調査を実施して往時の姿に復元している。
それは八幡塚古墳の残り具合が悪かったという事情が関わるようだ。
その悪条件を逆に利用しての積極的な復元ということであるが、積極的な復元に対しては否定的な意見もあるという。
しかしながら、復元してくれないと築造当時の古墳の姿なんて専門家にしか分からない。
ただの小山にしか見えない。
積極的な復元は、古墳の理解に大きく寄与すると考える。
そして、本書のような良書が理解を正しい方向に促すのだろう。
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 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 
この書評へのコメント
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- 出版社:吉川弘文館
- ページ数:0
- ISBN:9784642057943
- 発売日:2015年01月20日
- 価格:1870円
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