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星落秋風五丈原
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異聞ハムレット シェイクスピアの妻はどんな女性だったのか
 シェイクスピアの四大悲劇『ハムレット』のモデルはユトランド半島のゲルヴェンディルの子ホルヴェンディルと、デンマーク王腕輪投げのローリク(すごい二つ名だ) の娘ゲルータとの間に生まれたアムレートとされている。彼は父を殺した伯父に復讐するため狂気を装い、見事復讐を成し遂げて二人の妻をめとり、戦いで死んでいる。オリジナルはハッピーエンドなのだ。

 ではなぜシェイクスピアはわざわざ悲劇に変えたのか?本編では「ハムレットは亡き息子ハムネットの名をアレンジしたもの」説を取っている。実際シェイクスピアにはハムネットという息子とジュディスと言う双子がいたが、ハムネットはわずか11歳で亡くなっている。

 本編でクローズアップされるのはシェイクスピアの妻アン・ハサウェイだ。アーシュラ・ル・グウィンが『ラウィーニア』で語らぬヒロインに声を与えたように、マギー・オファーレルも本編で、後世研究すらされない文豪の妻に個性を与えた。よく知られていないにも関わらず、なぜか彼女は悪妻イメージが強い。トルストイの妻ソフィアといい、文豪の妻は夫をアゲるために悪妻設定されるのだろう。本編では、彼女の名はアンではなく、父親の遺書に書かれた名前であるアグネス=(神の子羊という意味)になっている。二人が結婚した時、既にアグネスは長女スーザンを身ごもっていた計算になることから、「でき婚」でシェイクスピアが田舎娘の責任を取るよう迫られた説が信じられ、これも悪妻説を後押しする理由とされる。ところが本編では、若者の単なる失敗ではなく、アグネスの計算ずくだったことになっている。ではなぜ、家業を失敗した家の息子なぞに持参金をたくさん持つアグネスが嫁ごうと決めたのか?これまで関心を持たれなかった彼女の生活や心理状態が余す所なく描かれると、ロンドンで一旗揚げようと働く夫を支え、父親不在の一家で子ども達を守りながらも、自分のやりたい事はきっちりやる、というスーパーウーマンが出来上がる。そもそも国王すら離婚するために教会を作る国なのだ。本当に悪妻で離婚したければ方法はいくらでもあったはず。それでも長年添い遂げたからには彼女自身に魅力がなければ始まらない。さてその魅力とは?本書を読んでお確かめを。

マギー・オファーレル作品
ルクレツィアの肖像
    • 17世紀のデンマークの写本に描かれたアムレート
    • シェイクスピアが主人公の英国ドラマ「アップスタート・クロウ」よりシェイクスピア夫妻
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2325 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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