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星落秋風五丈原
レビュアー:
消え去ることすらできず 無様にのたうち回る紳士たち
 ガイ・クラウチバックが戦地アフリカから帰国すると、ロンドンはドイツ軍の空襲下にあった。新たに編成されたコマンド部隊に配属されて訓練地の島へ向かったガイは旧知の面々と再会し、同僚アイヴァ・クレア大尉の紳士らしい超然とした態度に感銘を受ける。やがて旅団長に復帰したリッチー=フック准将の下、部隊はイギリスを出発、ケープタウン経由でエジプトに到着するが、現地で合流するはずの旅団長は行方不明で、待機中の部隊の士気は下がるばかり。そしてついにガイの所属する隊にもクレタ島への出動命令が下った。

 冒頭からガイとロンドン市民との齟齬が描かれる。未だナチスドイツが優勢だった頃、灯火管制が敷かれ、煙草の火さえ憚られたのに、帰還したばかりのガイ達にはその感覚はわからない。空襲で町が破壊されていても「酒樽が零れて溝に酒が溢れてる」笑い話に関心が向く。結構年齢がいっているにも関わらず軍隊に加えられたガイの違和感は、戦争中もずっと続いている。そして第三者が感じる違和感を当人が最も分かっていない居心地の悪さも続く。その無関心は父親譲りなのか、ガイの父も「できることなら軍隊の手を使ってでも部屋を空けて金がとれる下宿人を入れたい」家主の思惑をどうしても理解できずに彼等を苛立たせる。

 TVドラマ『ダウントン・アビー』は初めての世界大戦によって貴族階級と庶民の垣根が崩れ、社会の構造が変化していく様を描いていた。世界の誰もが二度目はなかろうと思っていた大戦が始まった時、まだ残っていた英国紳士階級もまた、滅びゆく運命にあった。なぜなら、爆弾は紳士と庶民を区別しない。戦車、戦艦、軍用機を巧みに操り、いかに多くの敵を倒せるかが優れた兵士の条件であり、昔ながらの紳士らしき振る舞いに拘っていては戦争に勝てない。カッコばかりで実戦に弱いガイ達紳士階級は持て余され、かえってガイが嫌っていたトリマーが誤解も含めて出世していく様が痛烈な皮肉に満ちている。

 後半のクレタ島攻防戦は戦記文学と言っても良い。あまり語られないが第二次大戦初期でドイツが優勢だった頃、グレート・ブリテン=イギリス軍がギリシャの民兵達を置いて撤退せざるを得ないほど壊滅的に敗北した戦いである。実際の戦いの様子が時系列で後書きに書かれているので参考に。

イーヴリン・ウォー作品
『ヘレナ』
卑しい肉体 (20世紀イギリス小説個性派セレクション)
イーヴリン・ウォー傑作短篇集 (エクス・リブリス・クラシックス)
回想のブライズヘッド〈上〉
回想のブライズヘッド〈下〉
愛されたもの
『スクープ』
黒いいたずら
大転落
つわものども:誉れの剣1 (エクス・リブリス・クラシックス)
無条件降伏:誉れの剣Ⅲ (エクス・リブリス・クラシックス)
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2321 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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