書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
クリスマスに贈りたい小さな本。
「どんなによくできた作品でも、クリスマス・ストーリーとはしょせん、願望充足の絵空事、おとぎ話にすぎない。そんな話を自分が書くなんて、冗談じゃない」
と語り手で作家の「私」は言うのだ。
そういう断りがあるから、そのあとに続くクリスマス・ストーリーがどんなに心に沁み入って来ても、まだその先に何かある……。そこのところが、きっとこの物語の肝なんだろう、と構えてしまう。
でもさ、おとぎ話ではどうしていけないの。気持ちよくおとぎ話に浸らせたくないとは、何たるつむじ曲がり。
そう思いながら読んでいたけれど……

いわゆる「おとぎ話」の語り手は、芸術家気取りのオーギー・レンという男で、「私」は、オーギーの語った物語をきいている。
オーギーがこの物語を語り出す前日譚として、彼は「私」に、自分の作品だ、といって、何冊ものアルバムをみせる。毎日、同じ通りの同じ場所を、同じ時刻に撮影した写真は、二千枚もあった。
それを、ゆっくり見ていると、だんだん最初に気がつかなかったものがみえてくる。そして、オーギーのこの作品が本当はどういうものであるか、わかってきたのだという。
たぶん、物語もそういうことなのかもしれない。
物語はひとつなのに、読んでいるうちに、印象も意味も随分変わってくる。たぶん、こういう場所に読者は案内されるはず、と高を括っていると……。

――まんまと嵌る……。
私は、嵌ったのかもしれない。「嵌る」の、入れ子細工なのだ。
そして……
「誰か一人でも信じる人間がいるかぎり、本当でない物語などありはしないのだ」
という言葉が、たくさんの言葉の羅列のなかから浮き上がって来て、すうっと胸に落ちる。
それなら嵌ってみようじゃないの、素直に。入れ子のいちばん外側で、読者としては気持ちよくつぶやこう。

タダジュンさんの少しシュールな挿絵が、物語の雰囲気にあっている。小さくて嬉しいクリスマスの本です。
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1738 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

読んで楽しい:11票
参考になる:18票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. ef2021-12-08 06:39

    これ、図書館にリクエスト中です(そろそろ順番が回ってきそう)。

  2. ぱせり2021-12-08 06:56

    efさん、そうなんですか? それはちょうどよい時に回ってきそうですね^^
    書評楽しみにお待ちしています^^

  3. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ