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morimoriさん
morimori
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幼い頃、落城によって家族を失った石工の匡介と戦によって父を失った鉄砲職人の彦九郎。矛盾したかのようなふたりの想いは泰平の世だった。
 これまで読んでいた歴史小説の主人公は、たいてい武将だった。戦国の世に石工という職人が存在したことをこの小説で初めて知った。

 主人公の匡介は、幼い頃、越前朝倉家の一条谷城の落城により家族を失った。町に楯を作るはずだったという石垣職人飛田源斎に導かれ、やがて石工職人と成長していく。匡介は、近江国穴太に代々根を張る穴太衆に属していた。石垣職人と言っても、山から石を切り出す山方、切り出した石を運ぶ荷方、そして石垣を作る積方とがある。飛田組の頭は源斎、匡介は副頭で後継者に指名されていた。源斎が造った伏見城の石垣は、地揺れにより天守が崩壊しても数か所が軽く崩れただけで無事だったという。

 石垣職人は依頼があれば、受ける。それが、戦が目前に迫っている情況下の「懸」であっても。危険な情況の中でもひたすら石を積み敵から城を守る、敵の銃撃を跳ね返すような石垣を作る職人技には感動すら覚える。水城と呼ばれた大津城、城主の京極高次から依頼を受けた匡介が、初めて京極高次と謁見する描写は愉快だ。京極高次が蛍大名と呼ばれていたことも知らなかったが、妻である初とともに好感の持てる人物に描かれている。こういう大名がいても不思議ではないよなと思った。さらに、大津城でまさかの懸となり再び戦の真っただ中で石を積む作業には、ヒヤヒヤしながら「どうにか頑張って死なないで」と祈るような気持ちだった。

 石垣だけでなく、石積櫓を使う戦略には驚いた。しかも、二度めには別の使い方で敵を窮地に追い込むのだ。鉄砲や大筒の砲撃には叶わないと思っていたが、いやいや飛田組の石垣はアッパレだ。本当に戦国時代に石垣職人がいたのか気になってネットで調べたら、今村彰悟氏は、幼い時「この石垣は野面積みやな」などと城の石垣を見て思っていたらしい。実際に穴太衆の末裔の職人さんにも取材に行かれたとか。この小説を読んでまたひとつ歴史の楽しさを知ることができたように思う。

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morimori
morimori さん本が好き!1級(書評数:958 件)

多くの人のレビューを拝見して、読書の幅が広がっていくのが楽しみです。感動した本、おもしろかった本をレビューを通して伝えることができればと思っています。

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