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morimoriさん
morimori
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 日本で一番早く開通した地下鉄銀座線。多くの男たちの物語が地中に眠っている。
大学卒業後、南満州鉄道に就職した徳次は、中央官庁のひとつ鉄道員に席をうつしたが役人勤めが性に合わず、栃木県佐野鉄道、大阪府高野登山鉄道の再建に尽くした。東武鉄道や南海鉄道の経営陣に名を連ねていたかもしれなかった徳次だが、「何かしらこの世で最初の仕事がしたい」という大望を持ち続け、ロンドンへ行った。ロンドンで、徳次が「賭けるに値する」と目をつけたのが、誰もがあたりまえのように利用していた地下鉄道だった。

 地上では市電が走っている大正時代、「電車を乗るのにわざわざ下ったり上ったり、誰が使うか」とまで言われても徳次は、白豆と黒豆を持って銀座へ出かけ、人の動きを観察した。交通量調査の結果を持って訪ねた先が、渋沢栄一。鉄道院総裁と東京市長に取り次いでもらうことになるのだが、鉄道院総裁の後藤新平より、腹心に接触するのがよかろうと紹介されたのが、五島慶太だった。五島慶太は、鉄道院にいた頃、肩たたきにあい「人生終わった」と思った時、早川からの声がかかった。このことで、五島は早川に恩を感じていた。

 いよい本格的な工事開始になると、大倉土木株式会社現場総監督・道賀竹五郎以下腹心
坪谷栄、木本胴八、奈良山勝治、松浦半助、与原吉太郎が登場し、工事の模様が描かれる。地下鉄の工事着工までもなかなかスムーズには行かなかったが、現場もそう簡単にはいかない。ビル建設ともトンネル工事とも違う、地下鉄道建設は誰もが未経験。

 まずは浅草上野間の開業を目指した工事だった。そこから、新橋まで開通させるまで神田川、日本橋川、京橋川、汐留川といくつもの難題があった。普段何気なく乗っていた地下鉄が、こんなにも大変な工事の末に開通したことを知ると、頭が下がる思いである。銀座駅には早川徳次の胸像が置かれていると書かれていたが、そう確かに見たことがあった。しかし、当時は「誰なの?」と思っただけで素通りしていた。新橋まで開通したものの、その後五島慶太の株売買により事態が思わぬ方向へと展開していく。昭和になって銀座線と命名されたその地下鉄は、日本で一番早くから建設されかつ、渋谷ー浅草間を走る便利な交通路線になった。

 「何かしらこの世で最初の仕事がしたい」という野心を叶えた早川徳次の計画が、実現したのはもちろん彼の熱意もあるだろうが、多くの人たちが地下鉄工事に関わったことも事実だ。この小説は、その部分も興味深く描かれているので読んでいて、本当におもしろかった。今度銀座線に乗る機会があったら、心して乗ろうと思う。そういえば、リニューアルして電車も明るい黄色に変わったんだった。
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morimori
morimori さん本が好き!1級(書評数:951 件)

多くの人のレビューを拝見して、読書の幅が広がっていくのが楽しみです。感動した本、おもしろかった本をレビューを通して伝えることができればと思っています。

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