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星落秋風五丈原
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甘いマスクの男達が提供する ビタースウィートなものがたり
 甘いものが何よりも好きなエリート警察官僚、芥川。高校時代、服装規定に従わなかった漆原と、内心は彼女に同意しながらも集団から外れる勇気を持たなかった伊東。ミドル・ストロー級世界チャンピオンの神田エイジ。そして高校時代、「早く死ね このホモ!」と級友小野裕介を振った橘圭一郎。数年後、彼等の人生は、骨董品ものの食器で洋菓子を提供する店『アンティーク』で交錯する。

 「ケーキ屋っていうよりホストクラブみたい」な主要人物4人は、それぞれ弱みを抱えている。リングのジャニーズと呼ばれたエイジは、捨てられる事に怯えている。自他共に認める「魔性のホモ」裕介は女性恐怖症。器用で何でもできる橘は、幼少時のトラウマに今でもうなされる。「カッコ良すぎて鼻血出そう」な外見の千影は、とにかく不器用。過去のある一点から現在へと、一気に飛んだ初回は、いわば彼等の顔見せ。2巻〜3巻では、彼等がそれぞれを想いやり、補いあいながら、一つのイベントを乗り越えてゆく様子が描かれる。そして、今まで登場しなかった「空白の過去」が並行して描かれ、以下の答えを提示する。将来を嘱望されたボクサーが、なぜパティシエ見習いになったのか。エリート官僚はなぜ閑職に追いやられたのか。決していい別れ方をしたとは言えない小野と橘は、どのように和解したのか。イノセントに無神経で不器用な千影が、橘にとって何故必要な存在なのか。現在の物語が先行し、後から明かされる過去によって、最初に登場した現在に、新たな意味が加味される。よしなが作品では、本作品のようなこの手法が、よく使われている。

 リフレインを効果的に使い、内面をより深く描き出した好例でを挙げてみる。2巻の1挿話で、小野の人生を決定づけたあの台詞を吐く直前が登場する。これを読んだ読者は、橘のあの言葉は、「八つ当たり」だったのだと理解し、とばっちりを食らった小野に同情する。ところが4巻目で再度このシーンが繰り返される。その時実は、あの時橘の感情を支配していたのは、「怒り」でなく、「恐怖」という、全く逆の感情であった事がわかる。謝る芥川達に、「自分の引き起こした結果の全てに責任を取れる人間なんてどこにいるんだろう?」と呟いた橘は、再び自らの過去と対峙する。

 様々な葛藤を経て、それでも尚、前へと進んでゆく。人間は、そうやって生きていく。「思い出せねぇし忘れられねぇし怖い」過去を抱えながらも、「メシ食ってケーキ売りに行く」未来へ踏み出す足のアップで終わるラストシーン。心もお腹もいっぱいになって、満足感で店を出る客の一人になった気分にさせてくれた、余韻が心地よい作品。

よしながふみ作品
こどもの体温
愛すべき娘たち
彼は花園で夢を見る
大奥
環と周
きのう何食べた?(22)
きのう何食べた?(23)
きのう何食べた?(24)
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2340 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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