ゆうちゃんさん
レビュアー:
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まさに英国の伝統的な推理小説。田舎を舞台にした綿密なプロット設定の本格推理小説である。このシリーズの翻訳が2作に留まったのは誠に惜しい。
フィンチ首席警部シリーズの日本語訳その2(本国では、15作目に当たり、翻訳も実はこちらが先だった)。
冒頭で、前作「追憶のローズマリー」の事件処理の場面が登場する。その後、警察に行方不明の弟ハル・ディクスンを探して欲しいとやってきた老婦人キティ・ディクスンに、フィンチ首席警部が同情する場面から事件は始まる。通常、この程度の行方不明事件では警察は動けない。だが、フィンチ首席警部は公式に引き受けたと言質をとられないようにキティから事情を聞く。弟ハルはキティに欠かさず誕生カードを送っていたそうだが、今年は来ないし、弟の下宿先からも本人が長期の旅行に出て、家賃の滞納と荷物の引き取りを求められていると言うのがキティの心配の根拠だった。
舞台は、ハウレットと言う小さな町のアストン家に移る。アストン家は本書のヒロインとも言うべき若い女性クローディア・バーンの曽祖父が、農機具販売で財を成した地元の名家だった。しかしクローディアの祖父エドガーの時代には早くも凋落し屋敷も荒れ果てた。クローディアはエドガーが危篤だと聞いてイタリアから駆け付けた。クローディアの母ロウィーナはジャマイカに行き、外交官の父も忙しい。クローディアは祖父エドガーのところに行く前にエドガーの親友ローランド・サクスビーのところに寄って行った。彼は9年前に投資のことでエドガーと喧嘩し、絶縁状態だった。クローディアは、ローランドに祖父の危篤を伝えアストン家に行った。アストン家にはエドガーの妹コンスタンスとその再婚相手テディ・ニュージェント、テディの連れ子バージルが来ていた。そこにローランドが危篤のエドガーと和解したいとやってきた。テディとバージルは反対したが、コンスタンスは一晩泊って明日の朝少しだけ面会するようにと言う。実は若かりし頃、ローランドはコンスタンスに結婚を申し込んだことがあり、ふたりはそれだけ長い付き合いだった。
泊って良いと言われたローランドはクローディアに頼み込み、付き添いの看護婦の許可も得たのでエドガーと5分だけ面会させた。だが、クローディアが見たところ、エドガーの部屋から出てきたローランドの表情は冴えず、主治医のカレンダー医師に会いたいと言う。医師は明日の朝にならないと来ないと言われ、ローランドはコンスタンスに会いたいと言いだした。だが、コンスタンスは入浴中だった。そのことを伝え、クローディアは風呂に入り、寝る前にローランドの部屋をうかがった。寝息を聞き安心し、自分も就寝した。
翌朝、クローディアはアストン家の家政婦イーディにエドガーが亡くなったと知らされる。このことをローランドに伝えようと彼の寝室に行くとローランドも亡くなっていた。クローディアは前夜、自分が整えたローランドのベッドの枕が変わっていることに気づいた。アストン家は、エドガーの葬儀の準備にかからねばならず、忙し家族にこのことを話すのは躊躇われた。彼女はカレンダー医師にこのことを告げ、カレンダー医師は自分が発見したことにして警察に通報すると言ってくれた。エドガー、ローランドふたりとも自然死なのだろうか?
本書も時間軸を中心に非常に綿密に組み立てられた推理小説である。事件の発端となる偶然は、バーバラ・ヴァインの「階段の家」を彷彿とさせるが、小説のプロットは全く異なる。フィンチ首席警部の捜査の中心は、前作は人間関係だったが今回は物的証拠である。エドガーの死は自然死としか考えられない。ローランドの死の謎が興味を最後まで引っ張る。検死と言うルーチンワークでローランドの死の解明はそれほど時間がかからない筈だが、その謎を最後まで引っ張っても、それは事件解決までたった2日(クローディアがローランドの死を発見した日とその翌日)に絞っていることから、説得力を持つ。
ヴァン・ダインのファイロ・ヴァンス・シリーズと同じく、本書も警察の分担捜査が活写されている。現場写真はマッコーラム、指紋はワイリー、検死はパードウ医師と言う具合である。きっとシリーズ全てで彼らが活躍するのだろう。なお、未訳のどこかでパードウ医師の代わりに検死をした女医マリオン・・クリーヴがフィンチ首席警部の恋の相手である。一般に探偵役の恋や家庭生活は探偵小説の興趣を殺ぐのだが、本作では雰囲気を盛り上げている。
残念なのは、非常に稀が偶然を、事件のきっかけとなる事実と解明と二度も使っていることで、推理小説の評価としてはこの点が辛くなる。しかし、翻訳が2作だけでは惜しいと言う感想は変わらない。
冒頭で、前作「追憶のローズマリー」の事件処理の場面が登場する。その後、警察に行方不明の弟ハル・ディクスンを探して欲しいとやってきた老婦人キティ・ディクスンに、フィンチ首席警部が同情する場面から事件は始まる。通常、この程度の行方不明事件では警察は動けない。だが、フィンチ首席警部は公式に引き受けたと言質をとられないようにキティから事情を聞く。弟ハルはキティに欠かさず誕生カードを送っていたそうだが、今年は来ないし、弟の下宿先からも本人が長期の旅行に出て、家賃の滞納と荷物の引き取りを求められていると言うのがキティの心配の根拠だった。
舞台は、ハウレットと言う小さな町のアストン家に移る。アストン家は本書のヒロインとも言うべき若い女性クローディア・バーンの曽祖父が、農機具販売で財を成した地元の名家だった。しかしクローディアの祖父エドガーの時代には早くも凋落し屋敷も荒れ果てた。クローディアはエドガーが危篤だと聞いてイタリアから駆け付けた。クローディアの母ロウィーナはジャマイカに行き、外交官の父も忙しい。クローディアは祖父エドガーのところに行く前にエドガーの親友ローランド・サクスビーのところに寄って行った。彼は9年前に投資のことでエドガーと喧嘩し、絶縁状態だった。クローディアは、ローランドに祖父の危篤を伝えアストン家に行った。アストン家にはエドガーの妹コンスタンスとその再婚相手テディ・ニュージェント、テディの連れ子バージルが来ていた。そこにローランドが危篤のエドガーと和解したいとやってきた。テディとバージルは反対したが、コンスタンスは一晩泊って明日の朝少しだけ面会するようにと言う。実は若かりし頃、ローランドはコンスタンスに結婚を申し込んだことがあり、ふたりはそれだけ長い付き合いだった。
泊って良いと言われたローランドはクローディアに頼み込み、付き添いの看護婦の許可も得たのでエドガーと5分だけ面会させた。だが、クローディアが見たところ、エドガーの部屋から出てきたローランドの表情は冴えず、主治医のカレンダー医師に会いたいと言う。医師は明日の朝にならないと来ないと言われ、ローランドはコンスタンスに会いたいと言いだした。だが、コンスタンスは入浴中だった。そのことを伝え、クローディアは風呂に入り、寝る前にローランドの部屋をうかがった。寝息を聞き安心し、自分も就寝した。
翌朝、クローディアはアストン家の家政婦イーディにエドガーが亡くなったと知らされる。このことをローランドに伝えようと彼の寝室に行くとローランドも亡くなっていた。クローディアは前夜、自分が整えたローランドのベッドの枕が変わっていることに気づいた。アストン家は、エドガーの葬儀の準備にかからねばならず、忙し家族にこのことを話すのは躊躇われた。彼女はカレンダー医師にこのことを告げ、カレンダー医師は自分が発見したことにして警察に通報すると言ってくれた。エドガー、ローランドふたりとも自然死なのだろうか?
本書も時間軸を中心に非常に綿密に組み立てられた推理小説である。事件の発端となる偶然は、バーバラ・ヴァインの「階段の家」を彷彿とさせるが、小説のプロットは全く異なる。フィンチ首席警部の捜査の中心は、前作は人間関係だったが今回は物的証拠である。エドガーの死は自然死としか考えられない。ローランドの死の謎が興味を最後まで引っ張る。検死と言うルーチンワークでローランドの死の解明はそれほど時間がかからない筈だが、その謎を最後まで引っ張っても、それは事件解決までたった2日(クローディアがローランドの死を発見した日とその翌日)に絞っていることから、説得力を持つ。
ヴァン・ダインのファイロ・ヴァンス・シリーズと同じく、本書も警察の分担捜査が活写されている。現場写真はマッコーラム、指紋はワイリー、検死はパードウ医師と言う具合である。きっとシリーズ全てで彼らが活躍するのだろう。なお、未訳のどこかでパードウ医師の代わりに検死をした女医マリオン・・クリーヴがフィンチ首席警部の恋の相手である。一般に探偵役の恋や家庭生活は探偵小説の興趣を殺ぐのだが、本作では雰囲気を盛り上げている。
残念なのは、非常に稀が偶然を、事件のきっかけとなる事実と解明と二度も使っていることで、推理小説の評価としてはこの点が辛くなる。しかし、翻訳が2作だけでは惜しいと言う感想は変わらない。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:東京創元社
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- ISBN:9784488272067
- 発売日:1995年05月01日
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