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darklyさん
darkly
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最初はよく味の分からない食べ物のよう。しかし読み進めて行くとその味が分かってくる。最後にはその味が癖になっている。
本書は日本文化に造詣が深い小説家のバリー・ユアグローさんとそのパートナーのコジマさんによる日本滞在時のエピソードについて虚実を交えた、というよりも毎回のように有名人の幽霊が登場するユーモラスかつノスタルジックな短編集です。

登場する幽霊は死んだ人に限らず存命の方の若き日の幽霊も登場します。小説家らしく太宰治、三島由紀夫、宮沢賢治、松尾芭蕉までも幽霊として登場させますが、小説よりも映画の方に思い入れがあるようで、黒澤明、深作欣二をはじめとして北野武、ヴェルナー・ヘルツォークのような映画監督たち、三船敏郎、志村喬、渥美清、菅原文太、宍戸錠のような俳優たちが縦横無尽に活躍します。

ところで遠い昔から日本文化に魅せられた外国人文学者はラフカディオハーンやドナルドキーンなど沢山いらっしゃいます。多分彼らは仕事等により情報も少なくよく分からない日本と言う国を知り、好奇心を持ち、研究するうちにはまり込んでいったのだと思います。つまり彼らは西洋文化で育ち大人になった後に日本に興味を持ったのだと思われます。

しかしここ最近では少し様相が変わってきている気がします。その原因はインターネットとアニメと食文化ではないかと思います。外国人を題材としたテレビ番組を見ているとかなりの方が幼少期から慣れ親しんでいる日本のアニメを通じて日本に興味を持ったと言います。そして寿司をはじめとする日本食レストランの海外進出、更に興味を持った日本に関する、以前ではなかなか入手できなかった情報を、インターネットによって簡単に入手することができるようになりました。つまり現在日本にやってくる外国人にとって日本は既にエキゾチックな存在ではなくなっています。

ではそのような外国人はどのような気分で日本に来るのか?私は日本をテーマパークのように感じているのではないかと想像します。東京、大阪、京都、福岡、北海道、沖縄、どれも独特の場所であり、東京だけみても、銀座、秋葉原、渋谷、原宿、新宿、池袋とまるであるテーマに基づいて街を造ったかのように特色があります。

そして治安と環境。どこに行っても安全であり、また清潔です。更に日本人のほとんどが、特に外国人に対しては、まるでディズニーランドのキャストのように親切です。これらはまさに流行っているテーマパークが具備している特徴ではないでしょうか?彼らは正に日本が誇る「ドラゴンクエスト」のように日本と言うテーマパークを安全に快適に冒険しにやってくるのです。

しかしそれは真に日本文化に触れたと言えるのでしょうか?過去の日本を愛した外国人たちは日本の単独民族かつ侵略を受けたことがないという珍しい歴史が練り上げた独特の情念や精神文化から立ち昇る文学、映画、その他の芸術等を自分なりに解釈し、イメージと憧憬を持って日本文化を消化していったような気がします。本書は一つ一つのエピソードはほとんどがユーモラス、はっきり言えばかなりふざけた感じの話が多いのですが、最後まで読めばそこに日本文化に対する愛、それは芸術分野に限らず、それこそ有楽町のガード下にも、新宿ゴールデン街にも、浅草のフランス座にも、増上寺の境内に対しても溢れています。もちろん登場する幽霊に対しても愛とリスペクトに溢れています。そういう意味ではこの作者も間違いなく過去の日本を愛した外国人たちと同じ匂いがします。

読み始めた当初は独特のリズム感についていけず、正直なんだこりゃという感じもありましたが、徐々にそのペースに慣れていくと最後にはこの本を愛している自分に気が付きました。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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