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rodolfo1さん
rodolfo1
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僕たちは父親のDVに会い、僕は父親を殺しかけた。その時の夢を見ながら育った僕は、無口な青年になった。ある日訳ありの美女梓と知り合い、そのまま僕の部屋に居ついた梓と共に、僕は新しい人生を切り開く。
窪美澄作「朔が満ちる」を読みました。

【第一章 三日月/幾度となくくり返される悪夢】また同じ夢を見ました。中学一年生の横沢史也が自宅に上がると、酒に酔った父に蹴られた母のうめき声が聞こえ、妹の千尋が目が見えない、と叫び、聞きなれた父の怒鳴り声が聞こえました。僕にはそうした父に対する殺意がありました。僕の中の龍が僕に命じました。今だ、殺せと。僕は斧の背で父の頭を殴り、父は大出血し、僕はもう一度斧を父に振り下ろし、母が父を庇いました。僕は何度も斧を父に振り下ろし。。。僕の叫び声で僕は目を覚ましました。28歳にもなってまだ当時の夢を見ていたのでした。。。僕には正当に罰せられなかった罪悪感がありました。母は父が階段から落ちたと証言したのでした。。。

僕は建築専門のカメラマンの助手をしていました。その撮影の最中、落としたレンズを庇って僕は変な風に転落し、左手首を痛めました。整形外科を訪れ、左手と肘に骨折とヒビが入った跡があると指摘されました。父にされた事だとは口が裂けても言えませんでした。シップを貼ってもらって、院長の娘と思しき看護師に包帯を巻いてもらいました。

僕は1人で酒を飲みました。あれほど酒飲みを嫌っていたのに、飲み始めたのは、佳美との結婚話が潰れてからでした。当時大人と話が出来なかった僕を叱って、頭に思い浮かんだ事をなんでも言葉にして伝えられるようにしてくれたのは佳美と事務所の上司、吉田さんでした。結婚話が潰れたのは、佳美が僕の実家の事を調べたからでした。説明を求める佳美に僕は一言も返事せず、怖いと言われて切られたのでした。寂しい時は、馴染みのキャバクラのホステス水希に会いに行きました。彼女は自殺願望と過食嘔吐癖があり、唯一自分達の幼少時を語れる存在だったのでした。。。酔って道に寝ているとあの看護師が現れ、邪魔だと言われて蹴とばされました。。。

父が家族に暴力を振るうようになったのは僕が小学生の頃でした。父は自分が婿養子で高卒だから家族が馬鹿にしていると言い掛かりをつけ、週に1~2度暴力を振るいました。実は母の実家は村の名家で、婿養子だった父は本当に家族の中で孤立していたのでした。その日も荒れ狂っていた父でしたが、駐在さんが訪問し、父は沈黙しました。いつも殴られた跡を人には転んだと言い訳していましたが、駐在さんも含めて村のみんなは父が何をしているか知っていたのでした。千尋は殴られると目が見えない、と言うようになり、どこの医者に連れて行っても原因不明でした。。。

成長した僕は次第に父と対決するようになり、あの日が来たのでした。僕は自分で警察に電話をかけ、僕がやりましたと告白しましたが、駐在さんがこれは転落事故だと断定し、母もそれを認め、それがまかり通ったのでした。父は以後半身不随になり、僕は引きこもり、ろくろく食事も摂りませんでした。変人で有名な独身の伯母が突然現れ、僕を弘前の自宅に引き取り、以後僕は実家に戻りませんでした。伯母は僕を加害者ではなくてDVの被害者だと言い、決して犯罪者ではないと言いました。伯母は、母親は黙って父の介護をしており、ああいうのを共依存と言うのだと怒っていました。

そして、伯母と違って両親に従順だった母は、大学時代に恋人がいたが、仲を裂かれたと言いました。しかしその恋人は父母の結婚後に1度自宅を訪れ、母と2人きりの所を父に見つかりました。父が暴力を振るいだしたのは多分その後だと伯母は言いました。。。僕は東京の大学に進学しましたが、その頃から、あの夢を見るようになり、以後僕はとても無口な大学生になりました。。。

【第二章 上弦の月/真夜中のサバイバーたち】僕を蹴ったあの看護師は、黒いライダーズジャケットを着込み、濃いメイクをしていました。3日後、整形外科を再診した僕は、やはりあの看護師だと確信しました。僕は東京で経理の仕事をしている妹の千尋と食事をしました。千尋は今付き合っている彼氏に会ってくれと僕に頼み。。。すると僕は隣にあの看護師が男と来ているのに気づき、会釈しました。千尋は自分達のような子供をサバイバーと呼ぶのだと言い、伯母の体調が良くないから一度会いに行った方が良いと言いました。。。

すると、やおらあの看護師が近寄り、同伴した男が追いかけてくると、僕の手を掴んで立ち上がらせ、この人と愛し合っているからあなたとは結婚出来ないと言って、僕を店から連れ出しました。何事だと尋ねると、看護師は、あなたに一目惚れしていたのだと打ち明けました。さっぱり訳が分からない僕でした。しかも看護師は僕の家に上がり込み、自分はあの院長の養女で、一応言いなりに看護師になったが、押し付けられた男と結婚する積りはないからしばらく泊めろと言い出しました。そして自分と僕は同じ側の人間だと言い、自分は梓だと名乗り、そのまま居ついて家事をして僕の帰りを待っていました。。。

そんな中、何度もメッセージを寄越していたあの水希が今までありがとうと言うメッセージを寄越し、慌てて梓と駆け付けると、水希は縊死していました。葬式はとても寂しいものでした。。。店長が僕に、何かあったら僕に渡してくれと言われたと言って水希の戸籍謄本を寄越し、自宅に遺骨を届けてやってくれと頼みました。梓は遺骨を納骨しに行こうと言い出し、僕はふと、梓には青森訛りがある事に気づきました。。。

僕は梓と共に、群馬の館林に向かいました。そこには水希の母親がおり、水希の部屋の壁には、殴って出来たような大きな3つの穴が開いたままでした。。。そこへ千尋から電話があり、伯母が入院すると言って来ました。千尋は彼氏を僕と梓に紹介し、緊張で何もしゃべれない僕と千尋に代わって、梓が彼氏に質問し、梓は絶対に千尋に手を上げたりしないな?と念を押しました。。。

上司の吉田さんは父親の具合が悪いから仕事を休むと突然言い、僕に吉田さんの代わりに弘前に撮影に行って来いと命じました。アシスタント代わりに梓を連れて行こうとしましたが、梓は青森には行かないと言いました。しかしある早朝、梓の義父が僕の部屋に現れ、暴言を振るって梓を連れ戻そうとしましたが、梓は泣きながら拒みました。明日は梓を家に戻すと約束して、義父は一旦帰りましたが、2人は弘前に向かいました。。。

【第三章 十五夜の月/同行二人、北へ】仕事場は弘前の幼稚園でした。実はそこの園長は梓が幼少時代、児童養護施設で面倒を見てもらっていた先生だったのでした。梓は、自分は寒い冬の夜、乳児院の前に捨てられていたと打ち明け。。。梓は探偵に母親の名前と住所を調べさせていました。そこはここから山1つ越えた場所でした。更に梓は、母親は弘前市内で梓という名前の小料理屋をやっているとも言いました。。。

2人は伯母を見舞いました。気を遣って梓が席を外すと、突然母親が現れました。僕は踵を返し。。。僕は梓に、僕ら何でも話そうと言いました。。。僕は梓の捨てられていた乳児院に行き、梓の写真を撮りました。次に2人は梓の生家に向かい、そこでも僕は梓の写真を撮りました。それはとても素敵な写真だったのでした。。。

【第四章 下弦の月/闇夜の告白】伯母は僕に、もう父親は長くないから一度実家に2人で戻って顔を見て来いと言いました。僕は1人で梓の母親に会い、明日まで梓は弘前に居るから会いに来てくれと頼みました。母親は深夜訪れ、梓に謝罪しましたが、梓は母親を詰り。。。しかし僕は梓の母親に、自分は梓の恋人だと自己紹介し、2人はその夜初めて寝ました。。。

僕はついに梓に自分のされたDVを告白し、実家に帰るのは見舞いの為ではなく、梓が母親に会ったように、最後に父親の姿を見ないでは終われないのだと言いました。。。実家で母親に梓を恋人だと言って紹介し、その夜は実家に泊まりました。考えていた事を実行するのは深夜だと僕は思い決めました。。。

【第五章 新月/見出すもの、見出だされるもの】かつての駐在さんが実家に現れ、もうすぐすべては終わる、後悔するような事だけはするな、お前の人生はまだまだ続くのだと言い残して帰りましたが、僕は深夜クッションを手に、父親の枕元に立ちました。しかし父親は。。。梓は父親を入院させようと言いましたが、母親は、これで私たちの間違った人生が終わるのだと言い。。。しかし梓は、母親は自殺する積りだろうと言い。。。

いや驚きました。これは名作、思わず唸りました。窪先生は元々プロットの上手な作家さんです。しかし、過去のレビューを見ていただければわかるとおり、しばしばキャラクターの肉付けが不十分で、また最後のトリックがトリックとは言えないしょぼい物である事もよくあり、小説としては不完全燃焼な作品も多かったでした。というわけで、この作品は積ん読になっており、先に直木賞受賞作夜に星を放つを読んだわけでした。しかしこの作品は画期的でした。

まず父親からのDVによって捻じ曲げられ、父親を殺しかけた僕、という主人公が強く存在を主張し、それにかつて捨て子にあって養家に引き取られた梓という屈折したヒロインが絡みます。他者への鬱屈と不信を抱える2人は次第に寄り添い。。。DVを働いた父親や、共依存とも思える母親、梓に執着する義父達のキャラクターも存分に描かれており、終末のトリックも素晴らしかったでした。出世作「ふがいない僕は空を見た」をもしのぐ出来映えでありました。
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rodolfo1
rodolfo1 さん本が好き!1級(書評数:869 件)

こんにちは。ブクレコ難民です。今後はこちらでよろしくお願いいたします。

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