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スーヌさん
スーヌ
レビュアー:
その子は何かを隠している 嘘の後ろには真実が隠れている それを見出すのに必要なのは綿密な調査と、事件解明への熱意だ
 著者は児童心理学者で特殊学級の元教師で、これまでも児童虐待がテーマの事実を元にした小説を発表しています。
 ですがそういう作品にありがちな、ことさらに感動を煽るような内容ではなく、特に今回はむしろミステリーのカテゴリーに入れてもいいくらいの緻密な筋立てです。
 なのでお涙頂戴みたいな話が苦手な人でも大丈夫です。
 私はこれがハヤカワポケットミステリの新刊でもおかしくないと思っています。
 今回の舞台はウェールズです。アメリカから移住した結果、ビザの所為で作家活動しか許されなくなった著者でしたが、ボランティアという形でウェールズでも窮地に陥っている子供たちのところにやってきます。
 今回彼女が担当するのはジェシー、9歳。すごい美少女ですが既に里親を3軒たらい回しにされています。その原因は放火、放尿。
 彼女は望まれずに生まれた子供で、幼少期から問題行動が続出し、実の親も養育を放棄している状態でした。
 著者と出会ったジェシーは躊躇なく彼女の膝に乗って髪に触ってきます。
 距離が近い。
 そして矢継ぎ早に話すのは全て嘘ばかり。
 その姿勢からは相手を支配しようという意思がはっきり感じられ、ジェシーは9歳にして既にその技術に習熟していたのでした。
 これまでも嘘をつく子供を扱ったことがあった著者でしたが、ここまで支配的に振る舞う子供は初めてでした。これはもう小さなモンスターだ。作中でもソシオパスなんて言葉が出てきます。手強い。
 さて、ここからはこれまでも様々な奇跡を起こして子供達を救ってきた著者の腕の見せ所なのですが、著者は自らの行動を記述していくのに極めて慎重です。
 アメリカとウェールズの児童福祉制度の違いについても、著者はつい慣れ親しんだアメリカ方式を評価しがちですが、きちんとそれが贔屓であることを認め、ベテランにあるまじくジェシーに翻弄される姿もはっきり描き、ボランティアであるが故に専門スタッフから軽んじられる様子も隠さない。
 そしてジェシーとのセラピーの様子も慎重に描写されます。
 これまで施設のスタッフも里親も、実の親さえ彼女を扱いかねてきたのですが、著者は彼女の話を聞き続け、その嘘の裏に隠された少女の真実に近づいていきます。
 その姿はまるで関係者に聞き込みを続けて、証言をすり合わせていく探偵のようです。こうした丁寧な過程が、この手の作品が時に漂わせる宗教じみた胡散臭さから本書を救っています。
 そしてその結果この物語は、かわいそうな子供を救う慈母のような著者の自慢話ではなく、事実を積み重ねて真実に近づいていくリアルな物語になっていくのです。
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スーヌ
スーヌ さん本が好き!1級(書評数:33 件)

50代男性 実は書店員だが業務で書評を書く機会はない。

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