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hackerさん
hacker
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表紙は、ちいさな男の子が寝ているベッドの傍で、かごに入った白ネズミと、その外にいる灰色ネズミが話をしている絵です。田舎のはつかねずみジョーイと、都会のねずみのプリンスの、ちょっと哀しい友情のお話です。
はつかねずみのジョーイは103匹の仲間と、がらんとした「スズカケの木」農場に住んでいます。猫も見たことがありませんが、おじいさんが食べられてしまった恐怖の生き物だということは知っていました。

「夏のある日、ジョーイが窓の外わくのところで、ひとりハミングしながら、豆のさやをむいていたときです。聞きなれない音が聞こえました」

自動車に乗ってやってきたのは、夏の間だけ、農場に避暑にくる都会の家族、お父さんとお母さんとちいさな男の子、そして犬とかごに入った真っ白なねずみでした。ジョーイは、犬のことを、これが噂に聞く猫だと思い込みますが、白いねずみというのも初めて見るのでびっくりします。

夜になって、ジョーイはちいさな男の子の部屋に忍び込んでみると、かごの中で「ちいさな車輪をぐるぐるまわしながら、白ねずみが、いっしんに走りつづけていました」

ジョーイが白ねずみに話しかけてみると、相手は自分は「その名も高いフィナーティ・ペットショップ」で育った血統書付の白ねずみで、名前はプリンス、ちいさな男の子に飼われているのだと言います。また、ジョーイが猫だと思っていたのは犬で、もう老犬なので全然怖くないと教えてくれます。なぜ車輪を回しているのかというジョーイの問には、「体調をたもつため」の運動だと答えます。

ジョーイは、外に出て走り回れば、そんな必要はないと言って、プリンスをかごから出してやります。そして、仲間のねずみたちをプリンスに紹介し、二人で広い農場を走り回って遊びます。ジョーイはプリンスに、からからに乾いたラズベリーや蚊をご馳走します。プリンスはジョーイに、ピーナッツ・バター入りのオートミールをご馳走します。二人とも、こう思うのでした。

「とびっきり、うまいや」

二人は、プリンスが教えてくれた鏡の前で、顔をしかめたりして遊びます。本当に仲の良い友達になりました。

でも、やがて9月がやってきました。もうじき、プリンスはちいさな男の子と一緒に都会に帰らなければなりません。ジョーイは、ある晩、プリンスに一緒に農場で暮らそうと言います。でも、プリンスはちいさな男の子から離れられないと言って、断ります。

「ちいさな男の子になくてはならないのは、このぼくなんだ。だって、ちいさな男の子におくられた、誕生日の贈り物なんだ、ぼくは」

そして冬になりました。雪におおわれた屋根を見おろす窓に面して、プリンスのかごは置かれています。ちいさな男の子はプリンスをかわいがってくれますし、ピーナッツ・バターとオートミールはおいしいです。

「しかし、プリンスがしょっちゅう考えるのは、『スズカケの木』農場のジョーイと103匹のねずみたちのこと。願うのは、ただ、夏が早くきてほしいということ。プリンスは、いつもひとりぼっちです。くる夜もくる夜も、走って走って、車輪を動かします。そしてそのあとは、鏡に見入って、長い時間をすごすのです」


人間が、本来自由なものであるのなら、どんなに現在の生き方に不満でも、それを選んでいることになります。しかし、絶対に選べないものもあって、それは生まれ育った環境です。ジョーイとプリンスの友情のお話は、そのことを、さり気なく語っているように私には思えます。さらに、長田弘による解説では、共著である本書の作者マキシン・クーミンとアン・セクストンついて、次のような説明があります。

「クーミンは(1923年生まれ)は73年に、セクストン(1928年生まれ)は67年に、ともにピューリツアー賞を受けた。北米を代表する2人の女性詩人は、無二の親友として知られたが、ながく心の病に苦しんだセクストンは46歳の誕生日にみずから死を選んだ。『ジョーイと誕生日の贈り物』は、2人の詩人の遺された友情の記念である。(中略)プリンスがセクストン、ジョーイがクーミンである」

本書は1971年刊ですから、それから数年後に、プリンス=セクストンは自らの運命を決定したわけです。そういう背景を知ってしまうと、よけい哀しいお話に感じてしまうのですが、しかし、ここで語っているのは、不自由な生を生きなければならない人間という、誰もが避けることのできない哀しい姿だと思います。それを呑み込みながら、我々は生きて行かなければならないのでしょう。

なお、最後ですが、イーヴリン・ネスによる絵は、とても素朴で、感情の起伏を強調しないようなタッチで描かれています。ジョーイ=クーミンとプリンス=セクストンのお二人の実際の雰囲気にふさわしいものだったのかもしれません。


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hacker
hacker さん本が好き!1級(書評数:2281 件)

「本職」は、本というより映画です。

本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。

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