書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

紅い芥子粒
レビュアー:
”私”は、アーケードで生まれ、アーケードで育った。お父さんが、アーケードの大家さんだったから。そこは、おそらく世界一小さいアーケード。
”私”が16歳のころ、町の半分を焼く大火事があり、
映画館にいたお父さんは、焼け死んでしまった。
アーケードは奇跡的に焼け残り、再開発された町の中に、
時の流れの窪みにはまったように沈んだ。

二十歳を超えたいまも、”私”は、愛犬べべといっしょにアーケードで暮らしている。
アーケードの商品の配達係をしながら。

そのアーケードは、いっぷう変わったものを売る店ばかり。

朝から晩までドーナツを揚げている、輪っか屋さん。
古着からほどいたレースを売っている、レース屋さん。
動物や昆虫の目を売っている、義眼屋さん。
使い古しの絵葉書を売っている、紙店シスター。
メダルや勲章をあつかっている、勲章屋さん。
ドアノブばかりを売っている、ドアノブ屋さん。

そして、アーケードのつきあたりには、お店のレシートを見せれば、
だれでも利用できる図書休憩室があった。
まいにちそこに通って、百科事典を開き、「あ」から「ん」へ。
気が遠くなるような知の旅を続ける小学生の女の子、Rちゃん。

それぞれの店の店主や訪れる客の物語が、オムニバス風に語られる。
仕合せな人は、ひとりもいない。
不仕合せを嘆く人もいない。
孤独だが気高く、つつましく、ていねいに自分の人生を生きている人たち。

最後に明かされる、お父さんの死のいきさつ。
愛犬べべとの別れ。

語られる一人一人の人生を抱きしめて、泣きたくなるような物語だった。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
投票する
投票するには、ログインしてください。
紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:560 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

読んで楽しい:3票
参考になる:23票
共感した:2票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『最果てアーケード (講談社文庫)【Kindle】』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ