レビュアー:
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パソコンで文章を書くのではなく、一文字、一文字、丹精を込めて書いた文章の美しさに酔おう。
日々の暮らしを中心に綴ったエッセイ集。著者半藤未利子さんは、夏目漱石の長女筆子の4女。つまり漱石の孫である。もちろんエッセイには漱石についても少し書かれているが、やはり中心は漱石の妻、猛女鏡子について多く割かれている。面白いと思ったのは、漱石「吾輩は猫である」から、猫好きかと思いきや、猫はそれほど好きではなく、完全なる犬派であったこと。
しかし、このエッセイ集の最大の読みどころは最後の部分、夫で昭和史の語り部といわれている半藤一利、彼が亡くなるまでの一年半を描いているところ。
書き出しがすごい。
「バカ、バカ、バカ、バカ、バカと何度繰り返しても足りやしない。本当に吾が亭主は、大バカヤローのこんこんちきである。」
この日夫の一利は、友人で万葉集の大家中西進先生と食事をするということで、午後2時からでかける。一利はこのとき89歳。体力も大分衰えてきていたので、お酒は2杯までと決めていた。実は少し前にお酒を飲みすぎて倒れ骨折をしていた、それなのに大家中西さんは90歳でお酒は飲まずに京都に帰られたのに、一利は東京新聞の記者に勧められるまま、たくさんの酒を飲む。
その夜、一利がトイレに行くと言って、ベッドから降りるとき、ぶったおれ足を骨折する、そのまま救急車で運ばれ入院。手術を受け、そこからリハビリ。
リハビリの経過も思わしくなく再手術、更に肺炎を併発、死ぬ4日前からベッドで動けない状態になる。未利子さんが排尿排便や身の回りの世話をつきっきりでしてあげる。
そして4日目の明け方、突然目を開けた一利が言う。
「日本人ってみんなが悪いだろうと思っているだろう。日本人は悪くないんだよ。」
「墨子を読みなさい。二千五百年前の中国の思想家だけど、あの時代に戦争をしてはいけないと、言ってるんだよ。偉いだろう。」
こう言って、静かに眠りにつき、それから目を覚ますことはなかった。だからこれが一利の未利子さんへの遺言となった。
未利子さんは昭和10年生まれ。それだからか、文章が丹精で実に美しい。面白いユーモアのある話も多いけど、何故か心が洗われる。
しかし、このエッセイ集の最大の読みどころは最後の部分、夫で昭和史の語り部といわれている半藤一利、彼が亡くなるまでの一年半を描いているところ。
書き出しがすごい。
「バカ、バカ、バカ、バカ、バカと何度繰り返しても足りやしない。本当に吾が亭主は、大バカヤローのこんこんちきである。」
この日夫の一利は、友人で万葉集の大家中西進先生と食事をするということで、午後2時からでかける。一利はこのとき89歳。体力も大分衰えてきていたので、お酒は2杯までと決めていた。実は少し前にお酒を飲みすぎて倒れ骨折をしていた、それなのに大家中西さんは90歳でお酒は飲まずに京都に帰られたのに、一利は東京新聞の記者に勧められるまま、たくさんの酒を飲む。
その夜、一利がトイレに行くと言って、ベッドから降りるとき、ぶったおれ足を骨折する、そのまま救急車で運ばれ入院。手術を受け、そこからリハビリ。
リハビリの経過も思わしくなく再手術、更に肺炎を併発、死ぬ4日前からベッドで動けない状態になる。未利子さんが排尿排便や身の回りの世話をつきっきりでしてあげる。
そして4日目の明け方、突然目を開けた一利が言う。
「日本人ってみんなが悪いだろうと思っているだろう。日本人は悪くないんだよ。」
「墨子を読みなさい。二千五百年前の中国の思想家だけど、あの時代に戦争をしてはいけないと、言ってるんだよ。偉いだろう。」
こう言って、静かに眠りにつき、それから目を覚ますことはなかった。だからこれが一利の未利子さんへの遺言となった。
未利子さんは昭和10年生まれ。それだからか、文章が丹精で実に美しい。面白いユーモアのある話も多いけど、何故か心が洗われる。
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昔から活字中毒症。字さえあれば辞書でも見飽きないです。
年金暮らしになりましたので、毎日読書三昧です。一日2冊までを限度に読んでいます。
お金がないので、文庫、それも中古と情けない状態ですが、書評を掲載させて頂きます。よろしくお願いします。
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- 出版社:講談社
- ページ数:0
- ISBN:9784065235515
- 発売日:2021年04月28日
- 価格:1870円
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