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たけぞう
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失われた世界は、記憶の中に生きている。
芥川賞受賞作です。デビュー作での受賞は、なかなかないです。
候補作どまりの記憶だったので、今回事実を知って驚きました。
東日本大震災が題材と聞いて少し引いていましたが、
先行書評の評価がすこぶる高かったので読んでみることにしたのです。

かなり個性的な作品ですし、自分も事前情報で偏ってしまいましたので
誤解されやすい作品かもしれません。
以下に読み取ったことをお伝えします。

この作品は東日本大震災が題材に入っています。
しかし震災は作品世界の一部にすぎません。
いま生きている人たちの記憶世界が時間から外れ、
現実世界と混然と混じり合うことで、現実とも非現実とも分からない
意識空間があることを著者は書こうとしていると思いました。

主人公の私は、ドイツのゲッティンゲンに住んでいます。
ある時、野宮が訪ねてくるという連絡が入ります。
しかし野宮は、東日本大震災で被災し、いまだに見つかっていないはずです。
だから私は、野宮を幽霊だと受け止めたのでした。
幽霊が、キーワードの一つです。

ドイツでの暮らしや、友人とのやり取り、野宮との再会が書かれ、
ゲッティンゲンの町に配置された太陽系惑星の話がからまってきます。
町の中心から外に向けて、スケールモデルで惑星の正確な軌道の位置に、
火星や木星、金星などのモデルと説明プレートが配置されています。
私は、ときおり散歩で惑星を巡ります。

冥王星。冥土の準惑星の連想から、この世とあの世をつなぐ
境界点ではないかと著者は捉えたのでしょうか。
いま生きている人たちの記憶の中には失われた町や人がいて、
なぜかゲッティンゲンの町の中でまたたくように浮き沈みを始めるのです。

文章が硬いです。
著者は文豪作品が好きで、同じ本を五回くらい読みこむのがいいと
Webのインタビューで語っていましたので、本の影響があるのでしょう。
わたしも、この作品を読むのに読速が落ちました。
後半の現実と記憶が混沌としてくるあたりから惹きこまれ、
入り込みましたね。
重い空気感がありますが、この個性は読みごたえがあると思いましたよ。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。

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