星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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みじかくも美しく刺し 童貞喪失のそのあとに
蜂の世界にも階級がある。もちろんトップは女王蜂だ。働きバチは全て雌で、蜂の社会では雄蜂は巣の中では働き蜂に餌をもらう以外特に何もしない。ただ女王蜂との交尾が終わると雄蜂は交尾の為の射精後に速やかに死亡し、新女王蜂はこの死体をぶら下げてしばらく飛翔する。やがて交尾器がちぎれて雄蜂の死体は落下する。童貞脱出の一瞬後は死。これぞ至福のエクスタシー。雄蜂は一瞬に命を賭けて消えていく花火。交尾に成功しなかった雄蜂は生き永らえるかと思いきや、繁殖期が終わると働きバチに巣を追い出される粗大ごみと化して死に絶える。
果樹園の蜂の巣で、最下層の蜂として生を享けたフローラ七一七。女王を崇めて労働を称える教理により厳重に管理される蜂社会で、フローラはほかの蜂とは異なっていた。育児室の世話をし、花蜜を集めることになった彼女は、巣の存続の危機が迫るなか、女王にのみ許される神聖な母性を手にした。卵を産めるのだ。これがどれくらい特別な事かというと、普通働きバチは女王蜂の分泌するフェロモン(女王物質)の作用で卵巣が萎縮するので産めない性となる。要は「あんたはじっこ歩きなさいよ」と言われて心身ともに遠慮するわけだ。ところがフローラ七一七は違った。
同じ種類の蜂の中でキャラクター分けをどうするか。作者は摘んでくる蜜に由来して、サルビア族などの名前を付けた。ヒロインはフローラ族。Flora=雑食食いという意味で、極上の花の蜜をとれないから最下位扱いなのだろう。
蜜蜂の実際の生態をもとにして蜂の巣の全体主義的社会を描き、『侍女の物語』になぞらえて評された。「受け入れ、したがい、仕えよ」「われらが母よ、汝は子を産むものなり」等、謎のマントラを唱える所がその理由だ。人間を含めた自然界の脅威が、蜂にとってはこんな風に見えるのか。物語を読むために蜂の身になってあんなことやこんなことをイメージするのは新鮮な読書体験であった。
果樹園の蜂の巣で、最下層の蜂として生を享けたフローラ七一七。女王を崇めて労働を称える教理により厳重に管理される蜂社会で、フローラはほかの蜂とは異なっていた。育児室の世話をし、花蜜を集めることになった彼女は、巣の存続の危機が迫るなか、女王にのみ許される神聖な母性を手にした。卵を産めるのだ。これがどれくらい特別な事かというと、普通働きバチは女王蜂の分泌するフェロモン(女王物質)の作用で卵巣が萎縮するので産めない性となる。要は「あんたはじっこ歩きなさいよ」と言われて心身ともに遠慮するわけだ。ところがフローラ七一七は違った。
同じ種類の蜂の中でキャラクター分けをどうするか。作者は摘んでくる蜜に由来して、サルビア族などの名前を付けた。ヒロインはフローラ族。Flora=雑食食いという意味で、極上の花の蜜をとれないから最下位扱いなのだろう。
蜜蜂の実際の生態をもとにして蜂の巣の全体主義的社会を描き、『侍女の物語』になぞらえて評された。「受け入れ、したがい、仕えよ」「われらが母よ、汝は子を産むものなり」等、謎のマントラを唱える所がその理由だ。人間を含めた自然界の脅威が、蜂にとってはこんな風に見えるのか。物語を読むために蜂の身になってあんなことやこんなことをイメージするのは新鮮な読書体験であった。
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:0
- ISBN:9784152100283
- 発売日:2021年06月16日
- 価格:3300円
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