レビュアー:
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何が「幽霊」なのか。時代の、ゴースト。
ムンクの画集を見ていて、「幽霊」の一場面を描いた作品があったから読んでみたくなった。同じノルウェー出身のイプセンとムンク、作品どうしのなんらかの繋がりが見えればと借りてきた。
ノルウェーのフィヨルドの港町。アルヴィング夫人は屋敷で、牧師のマンデルスと、翌日の故アルヴィング大尉の事業を記念した孤児院の開所式について話していた。大尉は放蕩者で、夫人は一時家を出てマンデルスのところへ駆け込んだ時、牧師に正道を説かれ家に戻った経緯があった。
その後大尉も立ち直り、立派な事業がうまく行ったかに見えていた。しかし夫人は、大尉は変わらずだらしのない性格で事業は自分がすべて手掛けていたこと、女中に手を出して子を産ませたこと、性病に罹っていたことを露わにする。
パリでの画家修行から帰省していた夫人の一人息子・オスヴァルは、女中のレギーネと結婚したいと突然言い出す、そして、火事がー。
人生というのは、様々なものを含み込んで流れた後に振り返るもの、なのだろうか。
アルヴィング夫人は自分の人生に感じてきた矛盾をマンデルスにぶつける。世間体、因襲、宗教上絶対の常識とされていることへの根本的な疑問ー。その幽霊は溺愛する息子のオスヴァルにも決定的な影響を及ぼすー。損得勘定にさといレギーネもまた身の上を知り、出奔する。
「人形の家」はあらすじしか知らないけども、正直ゾッとした覚えがある。自分にもそんなところはあるのだろうかと。他の小説の下敷きになっているのを感じたこともある。
何もかもが灰色のこの戯曲は当時の美徳に激しく斬り込むものであったため、強い忌避感を巻き起こしたそうだ。
「イプセン『幽霊』からの一場面」は、1906年に「幽霊」をベルリンで上演する際、芸術監督が依頼した舞台美術のムードスケッチらしい。既成道徳、市民社会への反抗心を持ち、人間内部の世界を描こうとしたムンクはどう向き合ったのか。赤みを帯びた部屋に、アルヴィング夫人、オスヴァルor牧師、レギーネ?と窓際にも女性がいるようだ。後ろ姿のアルヴィング夫人はそうだと思うけども奥の人々はもうひとつはっきりしない。愛知県美術館所蔵だそうだ。
ドラマとしては救いがなく、暗い。1881年という時代に、男性のイプセンが投げかけた本質は鋭かったのだろう。
私の場合、シャーロック・ホームズの時期とも重なっていると考えてしまう。ホームズものにも当時の社会・家庭規範が読み取れる。19世紀末は特に様々な考え方が多方面に出てきた時代だと改めて思ってしまう。
「ブリキの太鼓」でカンヌ映画祭最高賞パルム・ドールを取ったフォルカー・シュレンドルフ監督の「魔王」という映画を観たときに、「何が魔王なのか」と考えたことがあった。まじめな男が、ナチスのいう正義の方針に従い子供たちを集める話。
この「幽霊」という言葉も深く広く考えられるかも知れないなと感じた。
「人形の家」も読んでみようかな。
ノルウェーのフィヨルドの港町。アルヴィング夫人は屋敷で、牧師のマンデルスと、翌日の故アルヴィング大尉の事業を記念した孤児院の開所式について話していた。大尉は放蕩者で、夫人は一時家を出てマンデルスのところへ駆け込んだ時、牧師に正道を説かれ家に戻った経緯があった。
その後大尉も立ち直り、立派な事業がうまく行ったかに見えていた。しかし夫人は、大尉は変わらずだらしのない性格で事業は自分がすべて手掛けていたこと、女中に手を出して子を産ませたこと、性病に罹っていたことを露わにする。
パリでの画家修行から帰省していた夫人の一人息子・オスヴァルは、女中のレギーネと結婚したいと突然言い出す、そして、火事がー。
人生というのは、様々なものを含み込んで流れた後に振り返るもの、なのだろうか。
アルヴィング夫人は自分の人生に感じてきた矛盾をマンデルスにぶつける。世間体、因襲、宗教上絶対の常識とされていることへの根本的な疑問ー。その幽霊は溺愛する息子のオスヴァルにも決定的な影響を及ぼすー。損得勘定にさといレギーネもまた身の上を知り、出奔する。
「人形の家」はあらすじしか知らないけども、正直ゾッとした覚えがある。自分にもそんなところはあるのだろうかと。他の小説の下敷きになっているのを感じたこともある。
何もかもが灰色のこの戯曲は当時の美徳に激しく斬り込むものであったため、強い忌避感を巻き起こしたそうだ。
「イプセン『幽霊』からの一場面」は、1906年に「幽霊」をベルリンで上演する際、芸術監督が依頼した舞台美術のムードスケッチらしい。既成道徳、市民社会への反抗心を持ち、人間内部の世界を描こうとしたムンクはどう向き合ったのか。赤みを帯びた部屋に、アルヴィング夫人、オスヴァルor牧師、レギーネ?と窓際にも女性がいるようだ。後ろ姿のアルヴィング夫人はそうだと思うけども奥の人々はもうひとつはっきりしない。愛知県美術館所蔵だそうだ。
ドラマとしては救いがなく、暗い。1881年という時代に、男性のイプセンが投げかけた本質は鋭かったのだろう。
私の場合、シャーロック・ホームズの時期とも重なっていると考えてしまう。ホームズものにも当時の社会・家庭規範が読み取れる。19世紀末は特に様々な考え方が多方面に出てきた時代だと改めて思ってしまう。
「ブリキの太鼓」でカンヌ映画祭最高賞パルム・ドールを取ったフォルカー・シュレンドルフ監督の「魔王」という映画を観たときに、「何が魔王なのか」と考えたことがあった。まじめな男が、ナチスのいう正義の方針に従い子供たちを集める話。
この「幽霊」という言葉も深く広く考えられるかも知れないなと感じた。
「人形の家」も読んでみようかな。
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読む本の傾向は、女子系だと言われたことがあります。シャーロッキアン、アヤツジスト、北村カオリスタ。シェイクスピア、川端康成、宮沢賢治に最近ちょっと泉鏡花。アート、クラシック、ミステリ、宇宙もの、神代・飛鳥奈良万葉・平安ときて源氏物語、スポーツもの、ちょいホラーを読みます。海外の名作をもう少し読むこと。いまの密かな目標です。
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- 出版社:岩波書店
- ページ数:0
- ISBN:9784003275047
- 発売日:1996年06月17日
- 価格:670円
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