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星落秋風五丈原
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変身と薬学の美魔女 トロイアの知者と出会う
 主人公のキルケは、ホメロスやヘシオドスといった最も古い伝承では太陽神ヘリオスと海の女神ペルセイス(ホメロスではペルセー)の娘で、コルキス王アイエテスの兄弟。アポロドロスはこれに加えてペルセースとパーシパエーの2人の兄弟がいるとする。

 さあカタカナの羅列で訳がわからなくなってきた!我々がよく知るゼウスを神の王とするのはいわゆるオリュンポス十二神で、ヘリオスらが属するのはタイターン神族という。つまり神も民族がわかれている。えっ神の御代から民族紛争?そりゃ人間がいまだドンパチやってるわけだよ。

 まあ「えっ誰が誰?」というのは読んでいるうちにわかってくるし、巻末に人名紹介がついているので読んで欲しい。それでも多分一度に頭に入れるのは難しい。

 マデリン・ミラーは敗者側から物語を紡ぐ人だ。前回はパトロクロス、そして今回はキルケ。とはいっても死すべき運命を持つパトロクロスに比べれば、キルケは神の子であり、遥かに恵まれている、はずである。しかし彼女は『オデュッセイア物語』では故郷に帰ろうとするオデュッセウスの前に現れる時、一人である。なぜ島に一人でいるのか。なぜオデュッセウスの部下たちを豚に変えたのか。人は何事も理由なしにすることはない。ならば神々もそうではないのか。突き詰めて彼女のオデュッセウス前/オデュッセウス後を描いたのが本書である。視点を変えてみると、トロイア戦争の知将オデュッセウスも完全無欠の人ではない。神話に出てくる“神に誘惑されて子供を産んでしまう人間の女性”ばかりの世界でもない。描かれなかった世界を言葉でつなぐと、これまで神話で見て来た世界が一変する。キルケも“気に入った人間の男がいると島に連れて行って養い飽きると魔法で獣や家畜に変えて暮らしている”美魔女ではない。浮かび上がるのは、昨今の#MeToo運動で声をあげる女性たちの先駆者ともいえる、一人の女性の姿だった。それも、とても魅力的な。

マデリン・ミラー作品
アキレウスの歌
    • ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2329 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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