かもめ通信さん
レビュアー:
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こう言ってはなんだけれど、今まで読んだ漱石のどの小説よりも面白い。漱石の妻が語る興味深いエピソードの数々。コレを読んだら、これまで敬遠してきた漱石のあの作品、この作品も、読めそうな気がしてきたぞ。
歯並びの悪いのを気にもせず
口元を隠さずにしゃべるところが気に入った。
漱石は見合い相手だった鏡子さんを評してこういったという。
山の手育ちのお嬢さんが嫁いだ先は
優秀な人材との評判ではあったものの
熊本の田舎で教職に就いている高給取りとは言えない男。
朝が苦手な寝ぼすけで、
早起きして日がな一日ぼうっと不機嫌に過ごす自分と
寝坊しても起きてきてから機嫌良くあれこれあなたの世話を焼く自分と
どっちがいい?と夫に迫る奔放さ。
相手に寛容を求めるだけでなく
自分も相手に寛容で
安月給のくせにやたらと本を買い込むし
あれこれと人の面倒を見てしまう夫の性分に
さほど文句もつけずに財布の紐をしめたりゆるめたり。
時に暴言をはき、暴力を振った夫のそれが
精神の病に起因するものと知ったとたん
腹をくくってすべてを受け止める決心をかためる肝っ玉。
世に“悪妻”と言われた漱石の妻はこれ、なかなかの“大物”で、
漱石を見つめ続けたその視線は愛に溢れている。
妻や家族のこと、周囲に集まる人々のあれこれも
なにもかもをネタにしてしまう作家の業をも寛大に受け止めて
もう時効ですよねとばかりに
自らもあれこれ語ってしまう妻の胸の内には
世の中の誤解を解こうとか、誰かに弁明しようとかいう意図はなく
ただただ思い出に浸って故人を懐かしんでいるかのようにも思われる。
だがしかし、その思い出たるや、面白すぎる。
“猫”のね。
あのモデルはあの人だとね。みんなわかってしまうでしょう。
それで先生あんなことかかないでください!って泣きつかれたりしてね。
あの方ね。
お金をかしてくれっておっしゃってね。
それであれこれこうしてご用立てしたんですよ。
返してはいただけませんでしたけれどね。
そうそうあの時、○×さんはね。
女の方と一緒だったんですよ。
こんな具合に回想されたら、
冷や汗をかいた人が沢山いたことも想像に難くない。
けれども、そこはそれ、
単なる噂話や四方山話というわけではなく
そうしたあれこれが、
漱石のあの作品、この作品へと繋がっていく様子がよくわかり
今まで苦手意識が強かった漱石の作品を読んでいく足がかりができた気がした。
もちろん、思い出話なので
思い出したくないことは割愛されていたりもするだろうし
思い出したい様に思い出したこともあるだろう
けれどもただただ堪え忍ぶだけではなく
明確に自分を持っているこの女性を生涯の妻とした漱石が
未完の遺作『明暗』のお延をいずれこんなたくましさを身につけた
妻へと成長させてくれるつもりだったらいいのになあと思ったりもした。
口元を隠さずにしゃべるところが気に入った。
漱石は見合い相手だった鏡子さんを評してこういったという。
山の手育ちのお嬢さんが嫁いだ先は
優秀な人材との評判ではあったものの
熊本の田舎で教職に就いている高給取りとは言えない男。
朝が苦手な寝ぼすけで、
早起きして日がな一日ぼうっと不機嫌に過ごす自分と
寝坊しても起きてきてから機嫌良くあれこれあなたの世話を焼く自分と
どっちがいい?と夫に迫る奔放さ。
相手に寛容を求めるだけでなく
自分も相手に寛容で
安月給のくせにやたらと本を買い込むし
あれこれと人の面倒を見てしまう夫の性分に
さほど文句もつけずに財布の紐をしめたりゆるめたり。
時に暴言をはき、暴力を振った夫のそれが
精神の病に起因するものと知ったとたん
腹をくくってすべてを受け止める決心をかためる肝っ玉。
世に“悪妻”と言われた漱石の妻はこれ、なかなかの“大物”で、
漱石を見つめ続けたその視線は愛に溢れている。
妻や家族のこと、周囲に集まる人々のあれこれも
なにもかもをネタにしてしまう作家の業をも寛大に受け止めて
もう時効ですよねとばかりに
自らもあれこれ語ってしまう妻の胸の内には
世の中の誤解を解こうとか、誰かに弁明しようとかいう意図はなく
ただただ思い出に浸って故人を懐かしんでいるかのようにも思われる。
だがしかし、その思い出たるや、面白すぎる。
“猫”のね。
あのモデルはあの人だとね。みんなわかってしまうでしょう。
それで先生あんなことかかないでください!って泣きつかれたりしてね。
あの方ね。
お金をかしてくれっておっしゃってね。
それであれこれこうしてご用立てしたんですよ。
返してはいただけませんでしたけれどね。
そうそうあの時、○×さんはね。
女の方と一緒だったんですよ。
こんな具合に回想されたら、
冷や汗をかいた人が沢山いたことも想像に難くない。
けれども、そこはそれ、
単なる噂話や四方山話というわけではなく
そうしたあれこれが、
漱石のあの作品、この作品へと繋がっていく様子がよくわかり
今まで苦手意識が強かった漱石の作品を読んでいく足がかりができた気がした。
もちろん、思い出話なので
思い出したくないことは割愛されていたりもするだろうし
思い出したい様に思い出したこともあるだろう
けれどもただただ堪え忍ぶだけではなく
明確に自分を持っているこの女性を生涯の妻とした漱石が
未完の遺作『明暗』のお延をいずれこんなたくましさを身につけた
妻へと成長させてくれるつもりだったらいいのになあと思ったりもした。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:462
- ISBN:9784167208028
- 発売日:1994年07月01日
- 価格:710円
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