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rodolfo1さん
rodolfo1
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信長を裏切って籠城した荒木村重は、次々に起こる怪事件を前に、裏切りの恐怖に怯えていた。一方織田方の使者として城を訪れた黒田官兵衛は、戦国の乗法に背いた村重に土牢に幽閉された事で、怒り心頭に達していた。
米澤穂信作「黒牢城」を読みました。第166回直木賞受賞作品です。

【序章 因】摂津国大坂の本願寺一向宗徒と織田信長の争いは8年続いていました、最近本願寺には毛利が味方し、戦の行方は誰にもわかりませんでした。そんな中、新しく伊丹に築かれた壮大な有岡城にはさまざまな大量の物資が運ばれていました。有岡城城主、荒木村重は信長から摂津一職支配を任されていましたが、村重は信長に謀反を企てていました。そんな中、織田方の使者と称する小寺官兵衛がやって来ました。かつて黒田官兵衛と名乗っていた彼の事を村重は、並みの武将では無いと見抜いていました。官兵衛は、自分は今は織田に味方し、一人息子の松壽丸を人質として秀吉に預けたと言いました。

そして村重に、この戦は勝てない、毛利は決して信用出来ない、毛利の援軍など決して来ないと言い切りました。実はそれは村重も危ぶむ事だったのでした。しかし村重は、自分は後には引けない。このまま官兵衛を帰すわけにはいかないと言って官兵衛を取り囲みました。官兵衛は、死は覚悟の上だと言って首を差し出しましたが、村重は、官兵衛は殺さぬと言って彼を土牢に幽閉しました。官兵衛は殺せと言って死に物狂いで抵抗しましたが、ついに囚われて幽閉されました。。。

【第一章 雪夜灯籠】いよいよ織田勢が攻め寄せ、高槻城を守っていた高山右近が寝返り、更に今回の謀反を煽っていた茨木城の猛将中川瀬兵衛はあっさり降参しました。重臣荒木久左衛門は中川を罵りましたが、新参者の中西新八郎は、所詮中川はただの寄騎だ、放っておけと笑い、村重の妹婿、野村丹後も同意しました。しかし村重は裏切りは予想の内だと言って皆を落ち着かせました。軍議の席で武将達の結束が乱れるのだけを村重は恐れました。。。しかし意外な事に、大和田城も離反し、一同は驚きました。城主の阿部兄弟は熱心な一向宗徒でしたが、息子二右衛門が兄弟を拘束して織田に下ったのでした。

家来達は、有岡城に居た二右衛門の人質自念を殺せと息巻きましたが、何故か村重は自念を座敷牢に閉じ込めたのみでした。実は自念は一向宗徒で、同じ一向宗徒のよしみで村重の側室千代保に預けられて村重の屋敷で暮らしていました。それを訝った久左衛門は、高山右近の人質をも殺していないのは何故かと尋ねましたが、村重は答えず。。。屋敷に戻ると千代保が阿部の謀反を聞いたと言いました。現れた自念は武門の定めだから自分を殺せと言いましたが、村重は沈黙しました。。。

しかし翌日の薄明、自念が殺されたという知らせがもたらされました。自念は牢の中で矢で射殺されていたのでした。しかしその矢はどこにも無く、またどこから矢が飛んで来たのか村重にも謎でした。村重は警護していた御前衆の組頭郡十右衛門に仔細を尋ねましたが、同じく警護していた荒木御前衆5本鑓の面々、秋岡四郎介、伊丹一郎左、乾助三郎、森可兵衛達も異変に気づきませんでした。

には庭に積もっていた雪に1つの足跡も無く、他には1つ春日灯籠が置いてあっただけでした。皆は神罰だと囁きましたが、久左衛門は村重が思い直して自念を刺したのだろうと言いました。村重はそれを否定し、自念は誰かに殺されたのだと怒りました。しかし部下達が不満を抱いたのを村重は敏感に悟っていました。。。少し離れた物見櫓に夜中詰めていた雑賀衆の手練れの鉄砲撃ち下針は、自念の部屋あたりに深夜手燭の灯が灯っていたのを見ただけで、自分は弓矢は出来ないと言いました。

折柄織田方の物見の兵が有岡城に近づき、警護部隊と戦闘になりました。村重は現場に近い上臈塚砦に出陣の下知を出しましたが、何故か砦の兵は動かず、織田方は退却しました。戦後村重は上臈砦の兵が動かなかった訳を十右衛門に探らせました。戻った十右衛門は、砦の兵には陣太鼓が聞こえなかったようだと言い、更に気になる事を言いました。兵達の間には、自念を助けると言いながら暗殺した村重は信長並みに非情だと言う噂が飛び交っていると言うのでした。

自念の死の謎を解かねば一大事だと悟った村重は、ついに土牢を訪れ、このままではじきに城は落ち、自分は官兵衛を殺すと脅してこの件の経緯を語り、官兵衛の知恵を求めたのでした。しかし官兵衛はせせら笑い、村重が他の人質や自分はおろか、本願寺に寝返る際にまだいた織田方の城目付すら生かして返したのは何故だと詰め寄りました。村重は沈黙しましたが、官兵衛はその理由すら今の自分は知っているのだと嘯きました。村重は引き上げようとしましたが、その背中に官兵衛はある狂歌を投げつけ。。。しかしついに村重は狂歌の謎を解き。。。村重は5本鑓の1人を。。。実は村重が人殺しを忌避していた理由は。。。

【第二章 花影手柄】籠城中の村重に、滝川一益から文が届きました。信長が北摂に来て鷹狩りをするから村重に共をしろと言って寄越したのでした。家来は激昂しましたが、村重は相手にするなと言い。。。久左衛門は一戦交えようといきり立ちましたが、毛利の援軍がまだ来ない状態で合戦は出来ませんでした。しかし本願寺から派遣された雑賀衆の鈴木孫六は、自分の鉄砲衆に信長を再び狙撃させようと提案し、高山右近の父親高山大慮は、倅の裏切りの恥を濯ぐべく、自分ら高槻衆が戦うと言いました。しかし村重は2人を押しとどめ、十右衛門に高槻衆と雑賀衆の内情の調査を命じました。

すると深夜、村重は織田衆の砦が有岡城の東に広がる沼沢に築かれているのに気づきました。村重は5本鑓の1人、伊丹一郎佐に命じて砦を探らせました。十右衛門は村重に、高槻衆は城内で肩身の狭い思いをしており、雑賀衆は、戦いが無いなら本願寺に帰りたいと言っていると報告しました。双方ともに戦わねばならぬ理由があり、これを放置すれば火種になると村重は思いました。一郎佐は戻って、織田方の大将は信長馬廻りの大津伝十郎だと言い、沼沢に布陣したのは大津の抜け駆けだと報告しました。村重は高槻衆と雑賀衆に出陣を命じ、自らも御前衆を率いて深夜討って出ました。

村重は砦の前に立っていた武者2人を射殺し、立ち向かって来た堀弥太郎を斬り殺して兜首を取りました。高槻衆、雑賀衆と共に砦を蹂躙しました。一戦後、村重は首実検を行いました、高槻衆と雑賀衆が挙げた4つの兜首全てが誰の物かわかりませんでした。しかし引き上げて来た下針は、敵陣では御大将討ち死にと騒いでいたと言い、大将首を取ったものが一番手柄となる筈でしたが、やはりどれが大津の首かは不明でした。しかし何故か1つの首だけが首実検の時とは面替わりして引きゆがんだ大凶相と変じており、皆は祟りを恐れました。。。首を巡って城内には南蛮宗徒と一向宗徒の対立を煽る声が上がり、思い余った村重は、再び土牢を訪れました。。。

官兵衛は目を患い、足が曲がって牢番に虐待されていました。しかしその仕返しに官兵衛は。。。事の次第を語った村重に官兵衛は、こんな簡単な事も気づかないとは、村重は何かを懸念するあまりに上の空だったのだろう、何故夜討ちが成功したかもわかるまいとだけ答えて沈黙しました。。。村重は城に戻って家臣を集め。。。一件落着後、村重は滝川一益からの矢文を検めました。そこには宇喜多が織田方についたと書かれてあったのでした。実は村重が突然夜討ちをかけたのは。。。

【第三章 遠雷念仏】半年も籠城が続き、織田方は城を囲むだけで全く攻めかかりませんでした。有岡城の兵卒は、織田方は、攻めずとも勝てると踏んだのだろうと悟り、では負けた後に自分達はどうなるのかと恐れるようになりました。次第に織田方の手の者が城に入り込む事が増え。。。村重は、宇喜多が裏切った事を皆に告げ、軍議では馬術に秀でた北河原与作が、使者として訪れた尼崎城は空で毛利は来ない、織田方と和議するべきだと言いましたが、野村丹後達は籠城を主張しました。。。

村重は、常々使者として使っている廻国の僧、無辺に会い、明智光秀を通じて信長に降伏する口利きを頼みました。訝る無辺に村重は、勝てないから降伏するのだ、まだ今なら織田は降伏を受け入れるだろうと言いました。

しかし光秀の重臣は、村重が確かに降伏する証に、村重が持つ天下の大名物、茶壷寅申を差し出せと言い、村重は黙って無辺に寅申を差し出しました。しかしその夜、城に官兵衛の部下が忍び込んで発見され、追い詰められて村重の前に姿を現しました。そして村重に、武士の習いに従って何故官兵衛を生きて戻すか殺すかしなかったのか、官兵衛が裏切ったと思った信長は人質に取った官兵衛の一人息子を殺した。黒田家はこれで絶えるのだと叫び。。。安々と城の深部に侵入した男を見て、無辺の身を案じた村重は無辺の警護を御前衆に命じましたが、明け方無辺は殺され、警護していた秋山四郎介は背後から斬り殺されていました。寅申は奪われていました。。。

現場には北河原与作が居ました。北河原は無辺に会いたいと言って警護についていた助三郎の制止を振り切って庵に入り、殺された無辺を見つけたと言いました。その時既に無辺の血は固まっており、四郎介も死んでいたのでした。無辺の衣に縫い込まれていた村重の密書は誰かに読まれた跡がありました。庵主の世話をしていた寺男は、夜の早い時間に無辺に客が来ていたと庵主から聞いたが、無辺はもう客は帰ったと寺男に言ったと言いました。北河原は村重に、自分は瀕死の家来の為に無辺に念仏を頼みに行ったのだと言いました。。。

思い余った村重は三度官兵衛の土牢を訪れました。最近村重は、何故官兵衛が自分に謎解きをするのかわからなくなっていました。それでも村重は官兵衛に事情を話し、官兵衛は、これが織田方の間者の仕業とは村重も思っていないだろうと図星を指しました。そして官兵衛は、村重にはやった犯人に目星があるだろうとも言い、寺男が鍵だろうとだけ言いました。村重はある武将を捕え。。。居直ったその武将が村重の密書の秘密を明かそうとした瞬間、落雷によって彼は絶命しました。

【第四章 落日孤影】10ヶ月の籠城に倦み果て、城中の綻びと諍いが目立つようになりました。兵達は次第に村重の下知を軽んじるようになり、村重は懸念を深めました。城中の揉め事の仔細を報告に来た十右衛門に村重はその懸念を伝え、実は落雷で絶命した武将は何者かによって狙撃されたのだと彼に打ち明け、その弾丸を見せました。しかしどこから発砲したのかは謎だと村重は言い。。。

軍議でも自分の意見を軽んじられた村重は、4度官兵衛の土牢に赴き、今回のいきさつを述べました。官兵衛は、もし落雷が無くて狙撃が成功した場合の罰は何だったかと呟いて沈黙しました。。。村重は牢番に、普段官兵衛はどうしているかと尋ね、牢番は、子守歌を歌っていると言いました。。。罰という言葉にふと村重は思い当たりました。人質の死、首の大凶相、落雷、3件の謎の死はすべて城中では仏罰や神罰として語られていました。そしてその3件にすべて関りがあった者とは。。。

巨大な謎解きが幕を開け、すべての謎が明らかになります。土牢に幽閉されながらも村重に策謀を仕掛けた周到な官兵衛の企みが。。。そして官兵衛が村重を憎悪したその理由は。。。死よりも恐るべきものとは。。。ついに官兵衛は最後の策を。。。しかし官兵衛の深謀を知りながらも結果ついに村重は。。。

籠城という閉ざされた閉鎖空間で次々と起こる怪事件に思い悩む村重は、この城内で唯一自分を上回る智謀を持つ官兵衛に相談を持ち掛けます。しかし戦国の道理に反して無事帰される事もなく、殺される事もなく、過酷な土牢に繋がれて大事な一人息子を失った官兵衛の怒りは心頭に達していました。村重の問いに答えながらも官兵衛は村重の真意を探り、更なる罠を仕掛け、次第に村重を破滅に導きます。しかし官兵衛がふと発した罰、という言葉に思い至った村重は、この騒動の真相を知るのでした。しかし村重の心には官兵衛によって火がつけられ、ついに村重は官兵衛の思惑にはまります。

ミステリという骨格から発して物語は世界と人間の宿業に至り、死をも上回る恐怖とは何かという人間の本質を描いた精緻な文芸作品として完成しています。私が読んだ過去の米澤作品とは一線を画した、直木賞受賞の価値を持つ傑作であったと思いました。
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rodolfo1
rodolfo1 さん本が好き!1級(書評数:869 件)

こんにちは。ブクレコ難民です。今後はこちらでよろしくお願いいたします。

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