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ことなみ
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読みやすく面白い。信長盛んな頃の荒木村重が主人公。戦国の世に信長は滅び村重は生き延びた。#2024カ​ド​イ​カ​さ​ん​と​ひ​ら​け​ば​夏​休​み​フ​ェ​ア​2​0​2​4​に​挑​戦​!
荒木村重、一度は信長の旗下に入って摂津一帯を任せられた。だが5年後離反する。
重臣の謀反という思いもかけない出来事に信長は何度も説得を試みたが、村重は頑として譲らずついに伊丹の有岡城に立て籠もり信長軍に包囲された。
一年八月後、信長軍に負けて城を開き妻子臣下の虐殺を招いた。
村重の謀叛は、振り返ればあの信長なら残党はすべて女も子供までも無残に皆殺しにするだろうと知りながら、毛利の援軍を口実に生き延び、余生を茶の湯などに打ち込んだ卑怯者だったということになっている。

だがここでは、豪胆勇猛で鳴らした知将村重という像が少しずつなんとなく文中から染み出してくる。

官兵衛は密かに死を覚悟で訪れ、信長に下れと進言する、いまは毛利より織田だという。村重はその言葉にも首を縦に振らず土牢に幽閉する。
籠城という息詰まるような閉ざされた世界の中で四つの事件が起きる。読んでいるうちこの糸を引いているのはあの人かもと後姿が次第に浮かんでくるようで、力が入った。どの事件でもそれとなく触れているところが面白い。

「籠城」は実話であってもなくても、持ちこたえる条件が物語として面白い。立て籠もれば敵を防御しながら生き残り作戦を立てなくてはならない。生活物資を切らすことはできない。城を敵から守る堀を作り橋を渡し、様々な障害物をめぐらし尚且つ敵を見張り民の動きを知り、田畑を作って収穫し商人との連絡も欠かせない。籠城というのは武士・町人ともによほどの覚悟があるかよほどの名将でないと勝ち目はないように思える。生き残るのは知力とほとんどが僥倖に守られる、今も昔も。

まぁ二度上田城に籠り、守り勝った剛の真田昌行もいるが、これは後攻めの子供たちも強かった。無駄に戦って「関ケ原」に遅れた愚将もいたし。横道にそれたが。

様々に流布してきた悪評高い荒木村重をヒーローにしたこの話、そこに黒田官兵衛まで加わり閉ざされた城の中で起きたミステリを解いていく。煮詰まった挙句牢に訪ねてきた村重に、官兵衛はズバリと答えず何か含みがありそうな言葉をもらし、しばらくして村重がピンとくる。同じ戦場に出、同じ頭に仕えたものの阿吽の呼吸というか通じるものが多い二人の会話も侍・武士魂は命のほかにあったのかと面白い。
勿論官兵衛も腹に一物、それが最後に明かされる。

作中の4編のミステリがあって、それぞれこの戦国時代に起きた事件で、その原因や方法が謎だったり時代背景あっての出来事になっている。

雪夜灯篭
まさかの大和田城が信長側に寝返った、息子の裏切りの結果、いわば身内の反乱だったが、人質として、反旗を翻した大和田城の阿部氏の息子を人質として預かっていた。大和田城が敵になったからに元服前の人質を成敗しなくてはならない。村重は彼を土牢に入れることにしたがまだ牢が間に合わないので見張りをつけて納戸に閉じ込めた。それが朝射殺された。部屋の外にはうっすらと雪が積もり足跡もない。村重の妻千代保(ちょぼ)や女房たちが世話をしていた。殺してなぜ悪いという気配の中「生かしておくという命に背いた」という理由で村重自ら検断を行うことにする。前庭の雪に何も残っていない。三方が壁で庭に向いて障子が開いている。近づかずに殺すなら弓だろう。御前衆(要人警護団、村重の警護衆)も当夜は五本鑓が務めていたが知恵を絞っても手掛かりがない。ただ庭にぽつんと立つ雪見灯篭の火皿に血がついていた。

思いついた者たちを呼び集め尋問、アリバイなども聞くが拉致があかない。
 
この城に、村重以上に軍略に長けた者はいない。村重ほど謀略に優れた者もいない。村重よりも知恵のあるものは、この城にはいない。
 より正しく言うならば、この城の、地の上にはいない

おっと村重!

そして官兵衛に会いに行った。
別れ際に官兵衛は一首の狂歌をつぶやいた。
犯人の目星がついた。やはりエンタメな終わり方かも。

花影手柄
上臈塚砦を守る中西新八郎は滝川左近からという矢文を受け取った。信長が鷹狩の伴をせよという文。
馬鹿にするな。
上臈塚は一向衆の雑賀と南蛮衆の高山右近の父大虜が守っている、宗派が違い溶けあわない。織田方の大津伝十郎が100名ほどで夜襲をかけてきた。待ち受けて村重が夜襲に出陣し戦に勝ち、雑賀衆と高槻の南蛮衆が侍の首4つを持ち帰ったが誰の首かわからない。大津の首か否かそれが大切なところ。戦いの後、村重が首実検し、検分し、祐筆が記録する。褒章を与えなければならない。この中に大津の首はあるのか。
若い首二つ、一つは大津だろうか。朝になって一つの若い首が憤怒の形相に代わっていた。
様々な不穏な噂が流れる、高山大慮は南蛮宗、鉄砲傭兵軍団の雑賀は一向宗、溶けあわない者たちが城を守っている複雑な中で村重は首の主を結論付ける。大津の首はないと。

遠雷念仏
夏は死の季節である。夏、死の気配は濃い。織田は来ない。籠城は長引いている。兵は気が緩み広い城中では目が届かないところがある。曲者と鉢合わせをしても不思議ではなくなっている。宇喜多が織田につき毛利は尼崎から引き揚げていった。毛利は来ない。かもしれない。軍議には異なる見方も出るが。おおむね籠城を続けるという覇気のないものだった。
村重が使っている僧「無辺」が訪ねてきた。噂では俗世を離れた高僧は死者の供養をするという、民は喜んで門を開いた。御前衆が村重のもとに案内する。
村重は光秀宛ての書状を頼んでいた。織田に口利きを頼むということだが彼の思惑は光秀にもわかった。口利きには備前の茶壷「寅申」をよこせと言う。値がつけられないほどの名器でまさか村重が手放すとは思えず、光秀は遠回しの拒否を伝えているのだった。だがあっさり村重は了承した書状とともに無辺に託した。
だが、無辺が殺された。「寅申」も消えた。
先がない今、軍議ではそれでもまだ動くまじ、様子を見るのだという。追い詰められた中で家重は孤独だった、官兵衛もそれに気づく素振りをする。
村重は官兵衛の言葉に自身を顧みる。城内の勢いが失われつつあるこの章は、史実はどうであれ戦国武士たちの生き方、無残な死生観がよく書かれている。もちろん事実この時代はそうだったろうと思う。
この作品は歴史小説の形にミステリが絡んでやはり面白い。複雑な関係者の往来を解き明かす村重の謎解きが冴える。

落日孤影
瓦林能登入道が雷に打たれて死んだ。そこに鉄砲の弾が落ちていた。能登が無辺を殺していた。だがそれを罰することができるのは家重だけであった。誰かが無辺を殺してそれを妨げようとしたのだ。
鵯塚砦を巡回した折、茂った夏草や矢囲いが放置されて荒れた雰囲気だった。家重は家臣のゆるみを感じる。その時に光秀宛ての文と茶器が奪われた。それを託した無辺が殺された。その時鉄砲を持って戦いに加わっている雑賀衆は休日でいなかった。鉄砲蔵は荒らされていなかった。ほかに鉄砲を扱う謀反人はいるのか。軍議は紛糾した。
千代保が持仏堂で祈っていた。千代保は一向宗の門徒であり、一向一揆が起こした伊勢長島の一揆の渦中にいた。中州から船で逃げおおせたのはただ運が良かっただけ、千代保は隠れ家から、磔にされ逃げこんだ家もろとも焼き殺された女子供たちの地獄風景を見ていた。
持仏堂で祈る彼女の姿を家重は見た。そして不思議な出来事が明らかになった。千代保は言う、すべての出来事は仏罰を民に知らしめんがためと。

終章
家重は尼崎城に向かった。重臣は苦楽を共にしてきた城を見捨てられないと戻っていった。
従ってきた雑賀の下針も戻っていった。
有岡城は中西新八郎が門を開き、落ちた。
一年八か月、家重は永らえ一族は家臣ともに罰を受け八条河原でさらされた、千代保も。

毛利は兵を出さず、姿を隠していた家重は茶道に励み利休とともに秀吉の世に生きた。
官兵衛は死を覚悟していたが土牢で忍び、生き永らえ軍師として一門をささえ姫路に生きた。


猪名川の川岸近く川西市に友人の家がある、花の季節には何度も側道を往復しここが昔の戦いの端かと思う。伊丹や宝塚を尋ねると荒木氏の城があったあたりに城跡や墓石がある。
安土城は大手道の長い石段が残っている。石段に地蔵菩薩が埋め込まれ、仏を踏まないようにと書いてある。
道の両脇に、秀吉家と前田家の基礎が残っている。秋に教林寺の紅葉を見て、長い石段を見あげると今は平和なのだろうか、と思う。
高齢者の介護に疲れ、子は産まなくなっても、生きやすい世なのだろうかとふと思う。

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ことなみ
ことなみ さん本が好き!1級(書評数:645 件)

徹夜してでも読みたいという本に出会えるように、網を広げています。
たくさんのいい本に出合えますよう。

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