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darklyさん
darkly
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エドワード・ケアリーを読んだことがない方は彼の長編から読むことをお勧めします。
アイアマンガー三部作<堆塵館><穢れの町><肺都>の作者による日本オリジナル短編集です。アイアマンガー三部作を読んですっかりエドワード・ケアリーワールドに引き込まれた私のような者にとっては、なかなか味わいの深い短編集となっていますが、正直、彼の作品を全く読んだことがない方はなかなか「?」な内容ではなかろうかと思います。食べ物にも小説にも味わい方というものがあって、それは理解できる、できない、ということとは少し違ったものに思えます。

エドワード・ケアリー作品の特徴はなんといっても動物や怪物のみならず物や現象まで擬人化したキャラクター、子供の時の瑞々しい感受性溢れるストーリー、そして愛らしくも不気味な独特のイラストですが、この短編集でもその魅力が遺憾なく発揮されています。気に入った作品を数点ご紹介したいと思います。

【私の仕事の邪魔をする隣人たちへ】
児童文学作家かつイラストレーターである私は6階建てのアパートに住んでいる。締め切りに追われ非常に多忙にもかかわらず他の住人の生活音や行動が気になって仕方がない。

作者自身がモチーフとなっていると思われますが、彼のように感受性が豊かでなくとも人間には想像力があります。他人に対する想像力は「思いやり」「共感」といった良い方向に向かうことがある反面、それは「悪意」「憎悪」を生み出すこともあります。特に心に余裕がない状態の場合には。コロナの時代においては。

【鳥の館】
二百種類ほどの鳥が住んでいる館で親姉妹から放置され育ったクロウは生きる術を鳥や時計から学ばざるを得なかった。彼女はやがて館の中にある打ち捨てられた物を使って鳥を造り命を吹き込むようになった。

とてもエドワード・ケアリーらしい不気味な雰囲気をまといながらも、イノセンスとも言えるダークなのかそうでないのかよく分からないファンタジーです。この作品を読んでいる最中に思い出したのが京極夏彦の「陰摩羅鬼の瑕」。もちろん話の内容もジャンルも違うのですが、特殊な環境で育った人間と言うのは、根本的な部分で私たちの常識とは食い違っているという部分に共通点があるなと思った次第です。

【バートン夫人】
バートン夫人とはいったい何か?「バートン夫人は浸潤型である」とあるので癌の一種かと思いきや、家に浸潤するのだ。白アリのようなものなのかと思いきや、吸い込むと危険らしい。ウィルスのようなもののようだ。バートン夫人を体内から追い出すために様々な治療法が考え出された。バートン氏を注入する方法、マーガレット・バートンを注入する方法、クライヴ・エヴェレット・バートンを注入した時には大量出血が見られた。

一体なんだこの話は?でも面白いんです。大好きですこの話。ちなみにこれと同じようなタイプの作品として「パトリックおじさん」というのもあります。「パトリックおじさんは春の初め頃に植えるのがいちばんよい」とありますので多分植物なんでしょうね。でも笑ったり泣いたりするみたいです。マンドラゴラみたいですね。

この短編集は古屋美登里さんの尽力によって生まれたもので、古屋さんのエドワード・ケアリー愛がひしひしと伝わってきます。もし興味あるある方は彼の長編を読んでからの方が楽しめると思います。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. noel2021-11-02 21:45

    >特殊な環境で育った人間と言うのは、根本的な部分で私たちの常識とは食い違っている

    そうなんです。「根本的な部分」で違っているので、わたしたちは彼らを理解できないのです。ですから、わたしたちとしては感じるしかないのです。ああ、そうなんだ、と……。

  2. darkly2021-11-02 19:04

    noelさん、お久しぶりです。毎度ありがとうございます。まさにおっしゃる通りで感じるしかありません。この作者は奇妙な人たちに優しい眼差しを持って愛を注ぐのです。

  3. No Image

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