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薄荷さん
薄荷
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今はもう行けないあの店に行って、もう一度アレが食べたい!
・・・っていう飲食店への想いは、誰にでもあるはず。
本書は、著者が主宰する有料メールマガジン『ROADSIDERS'weekly』で2年半掲載された、職業様々な100人が「二度と行けない料理店」について語るエッセイ集です。

百人百様の思い出の中だけに存在し続ける、忘れられない100軒の店へ「二度と行けない理由」も様々。
今はもう無くなった店や、店の名前も場所もわからなくなった店があるかと思えば、思い出が強すぎて行けないチェーン店や、色々やらかして敷居が高くなってしまった店もあり、とんでもなくヤバすぎて二度と行きたくない店もあったりします。

☆ お気に入りだった素敵なお店が、突然閉店してしまった悲しみにくれたことは誰にもあるはず。
そんな心を揺さぶる話が、案山子家(?)の上田愛氏の「まんまる」。
そこは、可愛いおばあちゃんが1人で切り盛りしていた、うどんとおはぎと巻きずしが食べられるお店。
いつも優しく迎えてくれて、自分のおばあちゃんの家みたいに大好きだったのに・・・ある日「都合によりしばらく休みます」の紙が貼られてから、二度と店が開くことはなかった・・・。
他人だからこそ気兼ねなく触れ合えることが嬉しい、優しい味の美味しいものも嬉しい。でも、他人だからこそ、ご縁が切れると二度と会えない。あの味はもう食べられない。
人生はそんなことの連続のような気がします。

☆ 遠い異国のお店でも、失われたことの哀切な想いが伝わってくる語り手は、写真家・菊池智子氏の「仙人茶館 重慶」。
張婆さんが1人で営んでいたこのオンボロ茶館では、孤独な老人たちが十年以上前から集まって、安い茶を飲みながら何時間でもおしゃべりしていた。
彼らは家を失った人や、仕事をなくした人、薄情な家族や子供に捨てられた人で、その不幸な現実をブラックジョークのように笑い飛ばし、不幸を悟りに変えていった仙人たちだったのだ、と語り手は思うのだ。
けれど都市開発で周囲の家々は毎日破壊され続ける中、彼らは一人一人と姿を消し・・・とうとう茶館も強制的に突然壊された。その半年も経たないうちに張婆さんは脳卒中で倒れ、1年半後に亡くなってしまった・・・。
この社会や時代にとり残され、大切にされなくなった人たちを迎える茶館を営む張婆さんもまたその一人だったから、その無慈悲な最期が辛い。
才能を文章にも発揮した写真家が、破壊されていく町、妖しい茶館の情景、そこで生きてきた張婆さんの姿を、愛しく切なく写しています。思いがこもった写真を観るような、長い物語を読み終えたような思いがしました。

その他、
☆ 新大久保の路地裏マンションの一室で、いわくのあるロシア人関係者のために開かれている、治外法権的ロシア料理食堂(ツレヅレハナコ「営業許可のない 大久保 ロシア食堂の夜」)

☆ 銀座でしたたかに酔っぱらっているときにしか見つからない、オーソドックスに美味しい焼き鳥屋。あの店は本当にあったのか、酔った自分の妄想なのか・・・?(林雄司「酔うと現れる店」)

☆ 父が仕事帰りに一杯やりながら煮込みをつつき、子供の自分にバヤリースを奢ってくれた赤提灯は、今行列のできる有名居酒屋として現存している。でももう父は恍惚の人となり、あの店に大人の自分と一緒に行って煮込みをつつきながら酒を呑むことはできない・・・(とみさわ昭仁「父と煮込みとバヤリース」)

私が格別面白かったのは上記5軒でしたが、読み手の年齢、性別、居住区、趣味嗜好などによって、100軒の店の好みは大きく違ってくると思います。

「640ページ、厚さ4.4cm、重さ670g」で物理的に大変強烈(笑)な本ですが、1つの話が3ページから長くても14ページ程度のエッセイの詰め合わせですから、の~んびり読み進めていけます。
読む順番も、001から読んでもいいし、気になる人から読んでもいいし、目次を見て心そそられる題名から読んでもいい。
ちぎりパンをむしりながら食べるように、どこからでももしゃりもしゃりと楽しめる本です。
通勤・通学中の読書には不向きですから、家庭や職場に設置し、日常生活や仕事の休憩時間に箸休め的読書としてお勧めいたします。

ちなみに、ここまで読んでくださった貴方の記憶にも、もう二度と行けない店はありますか?
よろしければ、是非コメント欄で教えてください。
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薄荷
薄荷 さん本が好き!1級(書評数:511 件)

スマホを初めて買いました!その日に飛蚊症になりました(*´Д`)ついでにUSBメモリーが壊れて書きかけレビューが10個消えました・・・(T_T)

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この書評へのコメント

  1. 三太郎2022-08-25 09:13

    数年前会社員だったころに、もうじき家業を継ぐために退職するという若い同僚と飲みに行った長崎のバー。中年夫婦がやっているカウンター席があるだけの狭いバーでしたが、夜8時から翌日の午前2時まで延々とウイルキーを飲み続け、翌日はまともに歩けなかった思い出があります。長崎は遠いしもう行けないだろうな。

  2. 薄荷2022-08-25 19:12

    >三太郎さん
    コメントありがとうございます。
    凄っ!6時間ウィスキー飲み続け!?強烈ですね(^-^;

    小さな飲み屋さんだと、コロナの影響をもろに受けちゃうから心配ですねぇ・・・。
    もう遠くて行けない場所のお店でも、元気だといいなぁと思ってしまいます。

  3. 三太郎2022-08-25 21:52

    6時間飲んだのは、若い頃を除けば僕の記録だったかも。

    思い出のもう行けないお店としては渋谷のアンナミラーズを思い出します。結婚前に今の奥さんと何度か行きました。閉店したのでもう行けません。新婚時代によく行った下北沢のステーキ屋さんも廃業してだいぶ経ちます。ポイントカードがあってポイント溜めていました。

  4. 薄荷2022-08-25 22:26

    >三太郎さん
    記録の更新は、体のために止めておきましょう(^-^;

    アンナミラーズ!懐かしい~!アメリカンなパイが美味しかったけど、メニューよりも、ウェイトレス制服が斬新だったのが印象に残ってます(笑)
    閉店してしまった個人店のポイントカード・・・片付けものしてる時に突然出てきたりして、懐かしく寂しくなりますよねぇ。

  5. ef2022-08-26 04:52

    食べ物本なら薄荷さん!
    もう、これは確立した評価ですよねっ。私も楽しみにしていつも読んでいます。
    これからもお腹が空くようなレビューを期待しております!(とっても楽しいのだ)

    『二度と行けない店』ですかぁ……。
    ほら、コロナになってから全然外食できなくなって、あのお店はまだあるのかなぁ……と思っているお店が何軒かあります(以前、妻と一緒に行ったお店なのよ)。
    東京は普段でもお店の移り変わりがすごく速くて、私、転勤族だったのですが、久し振りに東京に戻って来ると無くなっているお店が沢山あったという経験をしているので、コロナで3年も出歩かなくなってると、今では……と思ってしまいます。

    そう、アンミラはねぇ。無くなっちゃったね。妻が若い頃、アンミラの可愛い制服を着るのが夢だったとかほざいていたことがあって……そうじゃないだろう!(と、今はツッコんでいる)。

  6. 薄荷2022-08-26 07:14

    >efさん
    お褒めの言葉、幸甚の至りでございます(*^^*)
    ご期待いただけるなんて、感激です!今後も美味しい道を邁進していく所存でございます!

    飲食店は、特に東京なんて経費がキツイから厳しい上に、コロナでいろんなお店がなくなっちゃいました
    横浜も、夫婦で気に入ってた寿司屋に久々に行ったら閉店してて・・・二人で慚愧の情に咽びそうになりました。

    アンミラは最後のお店が閉店したときいたとき、時代の終わりの一つだと思いました。
    奥様の気持ちわかります。女子はあの制服が気になるんですよ~!でもあの制服って、ちょっとエロアニメゲーの表紙を飾ってそうな気もする・・・(笑)

  7. ef2022-08-26 07:36

    >ちょっとエロアニメゲーの表紙を飾ってそうな気もする・・・(笑)
    あはは。そのとーり。大体、うちの嫁は、今はアタモトさんの『タヌキとキツネ』のタヌキまんまなのです! それがアンミラとはおこがましい!(笑)

    あ。薄荷さん、横浜なのか~と思ってプロフを拝見しようと思ったら、何と! わたし、まだ薄荷さんをフォローしていなかったという事実に気付いてフォローさせていただきました。
    まあね、私、あんまりフォロー機能使ってないので、知らないうちに好きな人は好きな人として拾っていたのですわ。

    長すぎると叱られたので、第一部でここまで。

  8. ef2022-08-26 07:30

    第二部です。

    たぬ嫁と一緒に行って気になっているお店。
    赤坂にあった……名前忘れちゃったけど、あー行って、そこを曲がって……と今でも多分行けると思う天ぷら屋さん。お爺ちゃん(失礼!)が美味しい天ぷらを揚げてくれました。息子さん(?)がせっせと働いていたので、もしかしたら二代目が継いでくれているのだろうか?

    三軒茶屋に住んでいた時、官舎(ほら、公務員ですからあるのよ、そういう官舎も。批判をすごく受けた官舎です)のとても近くにご夫婦でやっていたフレンチの小さなお店がありました。
    とっても美味しくて二人でよく食べに行ったのですが、その後移転したらしい。その後の事はフォローできてないんだな。

    その他にもたくさんの思い出があるなぁ。

  9. 薄荷2022-08-26 07:59

    >efさん
    >タヌキまんま・・・つまり、私の同族なんですね?(笑)
    そんな私、生まれてこの方、ずっと横浜市民たぬきです(^^)v

    フォローありがとうございます!・・・って、そういや私もefさんフォロー忘れてました(笑)
    出てる書評をバーっと見てると、フォロー機能って忘れがち。

    天ぷら!\(^o^)/個人店の美味しい店は、後継ぎが大変ですもんねぇ。がんばれ、二代目!
    移転しちゃったお店は、何かのついでに行ける程度の距離じゃないともう行けませんよね・・・私も何軒か諦めた店があります。

    飲食店の思い出は尽きませんよねぇ。そして、人の話を聞くのもホントに楽しいです♡

  10. ゆうちゃん2022-08-27 01:09

    中学生の時に親に連れて行ったもらった横須賀のレストラン「アラスカ」が思い出のレストランです。そこで初めてグラタンを食べました。確か僕が定期試験か何か終わっての「慰労会?」か何かでした。中学生だったので、高級かどうかわかりませんでしたが、ラーメン屋とか大衆食堂とかいうものとは雰囲気が違ったと思います。
    大人になって横須賀中央で探しましたが、残念ながらそれらしいレストランは無くなっていました。

  11. 薄荷2022-08-27 08:02

    >ゆうちゃんさん
    素敵な思い出ですねぇ(*^^*)
    特別なお店+初グラタンって、一生忘れない美味しい幸せな記憶として、心に焼き付いてるんですね。グラタンだけに(笑)

    横須賀ならギリ行ける!と気になってネットで探してみたけど、やっぱり見つかりませんでした。
    横須賀もお店の推移が激しいですもんねぇ・・・。

  12. hacker2022-08-27 15:52

    私の「二度といけないあの店」は、東銀座駅と築地駅の間にあった、名前は忘れましたが、天ぷら屋さんです。

    カウンターしかない、きれいとは言い難いお店でしたが、目の前で天ぷらをあげる親父さんの眼付きの真剣なこと!いつもランチでかき揚げ天丼(1600円)を食べていましたが、ある時、親父さんが私の食べっぷりを見ていて「旦那、身体つきのわりには、食うの早いねぇ~。嬉しいねぇ~」と言っていたの印象的でした。天ぷらは出す側も、熱いうちに食べてほしいのだな、ということを認識した次第です。

    ご飯やシジミのお味噌汁もおいしくて、ある時それを言ったら、親父さんが「ありがとうございます。米を炊くのは、これ(隣にいた奥さん)なので、褒めてやってください。研ぎ方を教えるのに10年かかりました」と言っていたのも印象的でした。

    ところが、ある日突然閉店してしまったのです。その前週まで、普通に営業していたのですが...残念でした。

  13. 薄荷2022-08-27 19:07

    >hackerさん
    カッコいい職人気質の天ぷら屋さんだったんですねぇ・・・。
    呼びかけに「旦那」、奥様を「これ」・・・親父さんの江戸っ子感が漂ってきます。
    揚げたて天ぷら+美味しいごはんとシジミ汁=最高の組み合わせですよ!ああ、食べたい!

    突然閉店はショックが大きいですねぇ・・・。

  14. No Image

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