ゆうちゃんさん
レビュアー:
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フルートを演奏と人間の体の作りを系統的に説明した本。楽器演奏は頭も体も鍛えてくれる、そんなことが良くわかる内容の本である。
以前「ピアニストの脳を科学する」と言う本を読んだが、そのフルート版が出たと思って手にした本。
著者は、脳神経内科医が本職ではあるが、10代の頃からフルート演奏をしている。経歴に師事された先生の名前があるが植村泰一氏を始め、そうそうたる名フルーティストが並んでおり、アマチュアとしての腕前も相当なものではないかと思われる。
全体は4章からなる。第1章は「フルート演奏と脳の働き」と題されている。ここは入門編でフルートの音色の特徴や、人間が音楽に感動するメカニズム、脳は音楽をどのように理解しているか、良い演奏をするにはどんな感覚を意識したら良いか、ソロ演奏とアンサンブル演奏のときの脳の働きの違いなどが述べられている。
第2章は「フルートを演奏する身体」とあり、顔(とくに口蓋)、舌、喉、横隔膜、呼吸、姿勢、指など身体の解剖学と演奏の関係を述べている。
第3章は「脳と神経が演奏を左右する」とあって、演奏を向上させるための脳への働きかけ、舞台であがってしまう理由、発汗作用の問題(顔に汗をかくとフルートが口から滑る)、集中力などについて取り上げている。
第4章は「フルートと病気」と題され、ジストニアやもっと一般的な病気とフルート演奏との関係について書かれている。
本書は著者がフルート界では有名な楽器メーカー(村松楽器)の会員制の季刊誌への寄稿をまとめたものである。恐らく各章の節が1回の寄稿から成ると推測される。それゆえ、各節は7~10頁と短い。第2章以降は、医学的な説明から入り、次にフルート演奏とその医学的事項との関係に移ってゆく。例えば第2章では、口蓋の筋肉の説明から入り、アンブシュア(管楽器に当てる唇の形)との関係を説明し、舌の構造の説明から、タンギング(楽器に息を吹き込むときの舌の使い方)の説明をしている。第4章では病状の話から入り、演奏への悪影響の話に移る。
フルート演奏と言っても、楽器演奏の一部に過ぎず、姿勢や手の動きなどは他と共通である。特有の部分と言えば、呼吸や口蓋周辺の動きくらいで、これも管楽器と言うくくりでみればフルート特有とは言えない。よって本書を一言で言えば、「楽器演奏から見た人間の体の機能」と一般化出来るのではないかと思う。僕は幸いにして、理科系の大学に在籍していたこともある先生に習っているので、レッスンで、良い楽器演奏のために、解剖学的な説明を受けることがある(と言うことは、僕の持ち方や姿勢がなっていないと言うことになる)。楽器の持ち方やキーへの指の当て方などは腕や手指の骨格を元に説明を受けたことがあった、そう言う意味では、自分にはそれほど目新しいことはない。しかし、普通の音楽の先生は、レッスンで体のつくりから説明されることはないと思うので、フルート演奏をされる方には大変参考になるのではないだろうか(本書で登場した位置感覚などは僕も初めて聞いた言葉である)。
それと本書の特色は、マルセル・モイーズやアンリ・アルテス、トレヴァー・ワイなど、フルートの教科書を書かれた先生の言葉を説明の根拠として多数引用していることである。著者は、この分野でも相当練習されたことが伺えるし、上手くなるには、基本を意識しなければならないのだと思う(引用された言葉の中には、レッスンで自分が先生から言われている事も・・)。
著者は脳神経内科が専門なので、脳や神経に関する説明が多いな、と言う印象を受ける。確かに楽器を演奏するのは目で楽譜を追い、それを頭で理解して呼吸や手指を制御しなければならない。アンサンブルになると他の人の音を聞く必要もある。なのでどれも大事なのだが、やはり司令塔の脳が一番大切なのだろうと思う。自分が楽器をはじめたのは40代になってからだが、文章もそれなりに書けるようになった。昔は会社で報告書を出してもダメ出し、修正が多かったが、今では報告書でもプレゼン資料でもまずそういうことはない。これは楽器で脳を訓練した結果ではないかと思う。本書の最終節は、「フルート演奏はアンチエイジング!」であり、まさにその通りだと思う。本書を手にされてフルートでなくとも楽器をやってみたいと思う方がうればとてもうれしい。
(余談)
実は、本書を知ったのは下記の動画からだった。
「立花雅和フルートアカデミー/フルートを吹くとき脳では何が起きているのか」
コロナ禍以降、音楽界でもオンライン・レッスンがかなり普及した。しかし音質や通信の問題で、特に講師の方のオンライン・レッスンに対する意見も様々である。こちらの立花雅和先生は、コロナ禍より遥か以前、2015年頃からこうした動画をアップしLINEでの質疑応答などに応じている。コロナ禍を予想していた訳ではないと思うが時代を先取りした感じである(チャンネル登録者は22年3月末現在で1万5千人くらいいる)。
とは言え、音楽はやはり対面が基本だと思う。Youtubeにはアンサンブル動画などもかなりアップされているが、通信に本質的に伴う遅延などがある(光の速度以上で伝わらないし、通信が混雑すれば道路と同じく遅延する)。画面を50分割くらいしてオーケストラのメンバーが合奏している動画があるが、きっとあれはメトロノームで速度を合わせ後で合成したものだと思う。まるで一緒に演奏しているように見えるのはこれまで一緒にやってきた仲間で演奏しているからではないか。
著者は、脳神経内科医が本職ではあるが、10代の頃からフルート演奏をしている。経歴に師事された先生の名前があるが植村泰一氏を始め、そうそうたる名フルーティストが並んでおり、アマチュアとしての腕前も相当なものではないかと思われる。
全体は4章からなる。第1章は「フルート演奏と脳の働き」と題されている。ここは入門編でフルートの音色の特徴や、人間が音楽に感動するメカニズム、脳は音楽をどのように理解しているか、良い演奏をするにはどんな感覚を意識したら良いか、ソロ演奏とアンサンブル演奏のときの脳の働きの違いなどが述べられている。
第2章は「フルートを演奏する身体」とあり、顔(とくに口蓋)、舌、喉、横隔膜、呼吸、姿勢、指など身体の解剖学と演奏の関係を述べている。
第3章は「脳と神経が演奏を左右する」とあって、演奏を向上させるための脳への働きかけ、舞台であがってしまう理由、発汗作用の問題(顔に汗をかくとフルートが口から滑る)、集中力などについて取り上げている。
第4章は「フルートと病気」と題され、ジストニアやもっと一般的な病気とフルート演奏との関係について書かれている。
本書は著者がフルート界では有名な楽器メーカー(村松楽器)の会員制の季刊誌への寄稿をまとめたものである。恐らく各章の節が1回の寄稿から成ると推測される。それゆえ、各節は7~10頁と短い。第2章以降は、医学的な説明から入り、次にフルート演奏とその医学的事項との関係に移ってゆく。例えば第2章では、口蓋の筋肉の説明から入り、アンブシュア(管楽器に当てる唇の形)との関係を説明し、舌の構造の説明から、タンギング(楽器に息を吹き込むときの舌の使い方)の説明をしている。第4章では病状の話から入り、演奏への悪影響の話に移る。
フルート演奏と言っても、楽器演奏の一部に過ぎず、姿勢や手の動きなどは他と共通である。特有の部分と言えば、呼吸や口蓋周辺の動きくらいで、これも管楽器と言うくくりでみればフルート特有とは言えない。よって本書を一言で言えば、「楽器演奏から見た人間の体の機能」と一般化出来るのではないかと思う。僕は幸いにして、理科系の大学に在籍していたこともある先生に習っているので、レッスンで、良い楽器演奏のために、解剖学的な説明を受けることがある(と言うことは、僕の持ち方や姿勢がなっていないと言うことになる)。楽器の持ち方やキーへの指の当て方などは腕や手指の骨格を元に説明を受けたことがあった、そう言う意味では、自分にはそれほど目新しいことはない。しかし、普通の音楽の先生は、レッスンで体のつくりから説明されることはないと思うので、フルート演奏をされる方には大変参考になるのではないだろうか(本書で登場した位置感覚などは僕も初めて聞いた言葉である)。
それと本書の特色は、マルセル・モイーズやアンリ・アルテス、トレヴァー・ワイなど、フルートの教科書を書かれた先生の言葉を説明の根拠として多数引用していることである。著者は、この分野でも相当練習されたことが伺えるし、上手くなるには、基本を意識しなければならないのだと思う(引用された言葉の中には、レッスンで自分が先生から言われている事も・・)。
著者は脳神経内科が専門なので、脳や神経に関する説明が多いな、と言う印象を受ける。確かに楽器を演奏するのは目で楽譜を追い、それを頭で理解して呼吸や手指を制御しなければならない。アンサンブルになると他の人の音を聞く必要もある。なのでどれも大事なのだが、やはり司令塔の脳が一番大切なのだろうと思う。自分が楽器をはじめたのは40代になってからだが、文章もそれなりに書けるようになった。昔は会社で報告書を出してもダメ出し、修正が多かったが、今では報告書でもプレゼン資料でもまずそういうことはない。これは楽器で脳を訓練した結果ではないかと思う。本書の最終節は、「フルート演奏はアンチエイジング!」であり、まさにその通りだと思う。本書を手にされてフルートでなくとも楽器をやってみたいと思う方がうればとてもうれしい。
(余談)
実は、本書を知ったのは下記の動画からだった。
「立花雅和フルートアカデミー/フルートを吹くとき脳では何が起きているのか」
コロナ禍以降、音楽界でもオンライン・レッスンがかなり普及した。しかし音質や通信の問題で、特に講師の方のオンライン・レッスンに対する意見も様々である。こちらの立花雅和先生は、コロナ禍より遥か以前、2015年頃からこうした動画をアップしLINEでの質疑応答などに応じている。コロナ禍を予想していた訳ではないと思うが時代を先取りした感じである(チャンネル登録者は22年3月末現在で1万5千人くらいいる)。
とは言え、音楽はやはり対面が基本だと思う。Youtubeにはアンサンブル動画などもかなりアップされているが、通信に本質的に伴う遅延などがある(光の速度以上で伝わらないし、通信が混雑すれば道路と同じく遅延する)。画面を50分割くらいしてオーケストラのメンバーが合奏している動画があるが、きっとあれはメトロノームで速度を合わせ後で合成したものだと思う。まるで一緒に演奏しているように見えるのはこれまで一緒にやってきた仲間で演奏しているからではないか。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:春秋社
- ページ数:0
- ISBN:9784393936054
- 発売日:2021年06月25日
- 価格:2420円
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