darklyさん
レビュアー:
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もう何もかもが詰め込まれたある意味究極のコスパに優れた小説です。
上下巻まとめての書評となります。
三体文明との暗黒森林理論に基づく抑止、つまり宇宙は他の生命体を発見次第先制攻撃を行う文明に溢れているため、三体文明が地球を侵略しようとするならば三体文明の座標を宇宙に送信するという脅しにより平和が訪れた。しかし、三体文明は座標の送信を命じる権力者が交代するタイミングを狙っていた。新たな権力者程心はその決断ができないと三体文明は踏んでいたのだ。
三体文明の攻撃により地上の重力波送信装置は破壊され、地球は三体文明に支配されるかに思われたが、攻撃を免れた宇宙戦艦「万有引力」により全宇宙に向けて三体文明の座標を知らせる重力波が送信された。これにより三体文明及び送信元である地球への攻撃は不可避なものとなり、三体文明は地球移住を諦めざるを得ない状況となった。
三体文明が他文明による攻撃により消滅したことを確認した人類は、生き延びるために太陽に対する攻撃の影響を免れるために木星等の裏側に宇宙都市を作り隠れるが、太陽系への攻撃手段は人類の想像をはるかに超えるものだった。
この第三部「死神永生」は第一部、第二部とかなり趣が異なります。現代の宇宙物理学を基にしたハードSFという部分は共通しますが、エンターテイメント性という部分がかなり少ないイメージです。地球文明と三体文明の知力と技術力の限りを尽くした戦いという分かりやすい構図は第三部が始まると早々に崩れ、永遠とも思える長い時間と想像を絶する大きさの宇宙の中で、ちっぽけな人類が次々と遭遇する事態に対して、作者の考えを代弁する主人公の程心がいかに考え決断するかというとても哲学的な趣が強い物語となっています。
もちろん相変わらず物理学を基にした驚愕のアイデアは健在です。中でも私が秀逸だと唸ったのは、超ひも理論が正しければ空間の次元は最大十次元を超えるにも関わらずなぜ空間は三次元なのか、それを地球文明よりもはるかに科学技術が進んだ文明による次元攻撃の結果だとするアイデアです。まあ、よくこんなこと思いつくなと。
さらに思い返してみればこの物語は中国の文化大革命の時代から始まります。そして最終的にはビッククランチ、つまり現在膨張している宇宙の行く末についても物語に織り込まれています。そして多元宇宙の一つである泡のような宇宙までも。未だかつてこれほどの時間軸を持った物語があったでしょうか。ある程度宇宙物理学に興味があって様々なトピックを知っている人にとってはある意味この第三部が最も感銘を受けるかもしれません。
にもかかわらず人によってはかなり地味な物語と感じるかもしれません。前述の通り、エンターテイメント性がかなり少なくなり、また宇宙物にありがちな、多くの人が期待する、ハリウッド映画的な、人類賛歌と言えるハッピーエンドではないからです。しかしこの作者が曲者なのは、究極のハードSFとも言えるこの物語の裏に超壮大なロマンスを忍ばせているところです。この設定がなくてもストーリー的には問題がないが、この味付けがあることにより読後感あるいは余韻がかなり違ってきます。解説によれば、その余韻を基にした二次創作も現れ人気を博しているようです。
そのほか楽しませてもらったのは、三体文明のエージェントである智子(ソフォン。AI)が人間の女性のロボットとして登場するのですが、背中に日本刀を背負って敵を一刀両断するなど、読みながら「それキルビルやん」と突っ込んだり、人類が地球を離れ宇宙コロニーを作って避難している時代に、あるコロニーが反乱を起こす場面では、「もしかしてそのコロニーの名前はサイド3?」とか。作者のサービス精神は凄いな。
三体文明との暗黒森林理論に基づく抑止、つまり宇宙は他の生命体を発見次第先制攻撃を行う文明に溢れているため、三体文明が地球を侵略しようとするならば三体文明の座標を宇宙に送信するという脅しにより平和が訪れた。しかし、三体文明は座標の送信を命じる権力者が交代するタイミングを狙っていた。新たな権力者程心はその決断ができないと三体文明は踏んでいたのだ。
三体文明の攻撃により地上の重力波送信装置は破壊され、地球は三体文明に支配されるかに思われたが、攻撃を免れた宇宙戦艦「万有引力」により全宇宙に向けて三体文明の座標を知らせる重力波が送信された。これにより三体文明及び送信元である地球への攻撃は不可避なものとなり、三体文明は地球移住を諦めざるを得ない状況となった。
三体文明が他文明による攻撃により消滅したことを確認した人類は、生き延びるために太陽に対する攻撃の影響を免れるために木星等の裏側に宇宙都市を作り隠れるが、太陽系への攻撃手段は人類の想像をはるかに超えるものだった。
この第三部「死神永生」は第一部、第二部とかなり趣が異なります。現代の宇宙物理学を基にしたハードSFという部分は共通しますが、エンターテイメント性という部分がかなり少ないイメージです。地球文明と三体文明の知力と技術力の限りを尽くした戦いという分かりやすい構図は第三部が始まると早々に崩れ、永遠とも思える長い時間と想像を絶する大きさの宇宙の中で、ちっぽけな人類が次々と遭遇する事態に対して、作者の考えを代弁する主人公の程心がいかに考え決断するかというとても哲学的な趣が強い物語となっています。
もちろん相変わらず物理学を基にした驚愕のアイデアは健在です。中でも私が秀逸だと唸ったのは、超ひも理論が正しければ空間の次元は最大十次元を超えるにも関わらずなぜ空間は三次元なのか、それを地球文明よりもはるかに科学技術が進んだ文明による次元攻撃の結果だとするアイデアです。まあ、よくこんなこと思いつくなと。
さらに思い返してみればこの物語は中国の文化大革命の時代から始まります。そして最終的にはビッククランチ、つまり現在膨張している宇宙の行く末についても物語に織り込まれています。そして多元宇宙の一つである泡のような宇宙までも。未だかつてこれほどの時間軸を持った物語があったでしょうか。ある程度宇宙物理学に興味があって様々なトピックを知っている人にとってはある意味この第三部が最も感銘を受けるかもしれません。
にもかかわらず人によってはかなり地味な物語と感じるかもしれません。前述の通り、エンターテイメント性がかなり少なくなり、また宇宙物にありがちな、多くの人が期待する、ハリウッド映画的な、人類賛歌と言えるハッピーエンドではないからです。しかしこの作者が曲者なのは、究極のハードSFとも言えるこの物語の裏に超壮大なロマンスを忍ばせているところです。この設定がなくてもストーリー的には問題がないが、この味付けがあることにより読後感あるいは余韻がかなり違ってきます。解説によれば、その余韻を基にした二次創作も現れ人気を博しているようです。
そのほか楽しませてもらったのは、三体文明のエージェントである智子(ソフォン。AI)が人間の女性のロボットとして登場するのですが、背中に日本刀を背負って敵を一刀両断するなど、読みながら「それキルビルやん」と突っ込んだり、人類が地球を離れ宇宙コロニーを作って避難している時代に、あるコロニーが反乱を起こす場面では、「もしかしてそのコロニーの名前はサイド3?」とか。作者のサービス精神は凄いな。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:0
- ISBN:9784152100214
- 発売日:2021年05月25日
- 価格:2090円
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