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darklyさん
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逢坂版長谷川平蔵シリーズ第3弾。普通の捕物帳のようなストーリーオリエンテッドでありながら、池波版の特徴である人物オリエンテッドもしっかり継承している。
本書は逢坂版長谷川平蔵シリーズ第3弾です。池波正太郎の鬼平犯科帳の人気は衰えることなく、中村吉右衛門が鬼平役を降りても新キャストで映画化が発表されるなど、もはや時代劇の定番となっています。

数ある捕物帳の中で鬼平犯科帳の特徴を一つ挙げると、私は人間の可変性にあるような気がします。つまり鬼平の
人間というやつ、遊びながらはたらく生きものさ。善事をおこないつつ、知らぬうちに悪事をやってのける。悪事をはたらきつつ、知らず識らず善事をたのしむ。これが人間だわさ
という名台詞で表される人間観です。若い頃からやんちゃで後ろに手が回りそうな悪事も働いてきた平蔵であるが故の人間への深い洞察が、単なる捕物帳に留まらない物語の深みにつながっていると思います。

つまり捕物帳の典型的な形は、悪人は悪人、善人は善人、正義の味方は正しいことをするという固定的な枠組みの中での推理になるわけですが、前述の通り、鬼平の世界では人間は善と悪が同居している、いわば量子コンピューターのように0と1という値を同時に重ね合わせているという状態が、ミステリーに登場人物の数以上の変数を与え、結果的にはシンプルな筋書きであっても一筋縄ではいかない謎解きにつながっています。

さて、この逢坂版の平蔵ですが、池波版平蔵の人物像は継承しながら、どちらかと言えばミステリーの要素に力をいれている、簡単に言えば、込み入った話のあと、どんでん返しに力を入れていると言えます。とはいえ、人物像の複雑さという部分ももちろん取り入れており、本書で言えば「可久」という年増女がそれを体現していると言えます。

その可久が活躍する表題作「闇の平蔵」を簡単にご紹介します。
「闇の平蔵」と名乗る謎の人物が火付盗賊改方(火盗改)に遺恨を抱く盗人たちを掻き集めている。その目的は長谷川平蔵を含む火盗改に復讐をすることである。火盗改の手先である斧八にも声がかかり潜入捜査を開始した。集められた悪党たちの中に可久もいた。それぞれが火盗改への恨みつらみを打ち明けるが、可久が嘘をついている可能性に斧八は気付く。そのような中、可久が闇の平蔵を信用できないと、顔を見せるように要求する。闇の平蔵は頭巾を取るが、果たして闇の平蔵は誰なのか、そしてその集まりの中で誰が本当の話をしているのか、誰が嘘をついているのか。

この「闇の平蔵」で登場した可久は、その後のエピソード「可久あるべし」「あいやも半次郎」「音締めの松」においても活躍します。

軍鶏鍋等江戸の食べ物についての記述も魅力の一つであった池波版の平蔵に比べて、あまりそのような場面がないのが池波ファンにとって少し物足りない可能性はありますが、新作が見込めない中、このシリーズもなかなかのものだと私は思っています。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. noel2021-05-04 09:38

    相変わらず本の内容を面白くとらえ、読者に読みたくさせる巧みさに感慨無量です。久しぶりに対面させていただきました。

  2. darkly2021-05-04 09:37

    noelさん、いつもコメントありがとうございます。お久しぶりです。また過分なお言葉恐れ入ります。現在、この時代小説の分野はかなり量産されておりますが、結構鬼平の二番煎じ的なものが多いような気がします。このシリーズはその中で割と骨がある話が多く逢坂さんのプライドと気骨が感じられます。

  3. noel2021-05-05 16:23

    darklyさんの読む本のイメージは、どちらかといえば外国モノ(Ex.スティーヴン・キングのような)と思っていたのですが、和もの(というより時代もの?)も読むんですね。ちと古いかもしれませんが、坂口安吾の『夜長姫と耳男』に拙評をアップしましたので、お手隙の時間にお目通しいただければ幸甚です。
    https://www.honzuki.jp/book/216874/review/260965/

    PS.あああ、ごめんなさい。いま見に行ってみると、すでに読んでらっしゃったみたい。でも、ご感想はいただいていないので、ぜひ。

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