hackerさん
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バスク地方を知らなくても、ピカソの絵で有名なゲルニカの名前を知っている方は多いでしょう。ゲルニカは、スペイン・バスク地方にあるのです。バスク地方の昔話を読むのは、私は初めてだと思います。
マメゾーさんの書評で、この本のことを知りました。感謝いたします。
まず、バスク地方についてですが、大西洋に面し、ピレネー山脈を挟んで、スペインとフランスの両国にまたがっている、独自のバスク語が話される地域です。この地方は、旧石器時代の洞窟壁画を含む遺跡が複数あることでも知られています。つまり、それだけ古い時代から、バスク人の祖先は住んでいたということになります。最近では、カタルーニャの独立が話題になるスペインですが、バスク地方の独立も長年の課題で、フランコ政権下だった1950年代から「バスク祖国と自由」(ETF)という団体が「反フランコ」「反独裁」をかかげ、テロを含む活動を2011年に停戦に合意するまで続けていました。
本書は、スペイン・バスク地方ではなく、フランス・バスク地方の昔話を、ふしみみさおによる文に、フランス人アーティストのポール・コックスが絵を描いたものです。
お話の冒頭だけ紹介します。
「むかし、ひとりの船長がいました。
世界の海をわたりあるいた、うでのいい船のりでしたが、
わるいことがかさなって、船をうしない、
いまでは海辺の村で、ほそぼそとくらしていました。
船長のいちばんのたのしみは、朝はやく、さんぽをすることでした。
船長は海辺にすむヘビに、毎日、やさしく声をかけました。
『いのちは神さまのおくりものだ。たいせつにいきるんだよ』
そんなある朝のこと、とつぜん、ヘビが船長に話しかけました。
『船大工のところへいき、とてもがんじょうな船をつくるるように、たのんでください。
そして、ふだんの二ばいのお金をはらうといってください』
船長は、びっくりしながらも、いわれたとおり、たのみにいきました。
つぎの朝、海辺にいくと、またヘビがいいました。
『十二人のたくましい船のりをやとい、ふだんの二ばいのお金をはらうといってください』
船長は、またもや、いわれたとおりにしました」
この導入部が、とても吸引力があります。このヘビの正体は何なのか、なぜこんなに大金を持っているのか、もちろん航海に出ることになるのですが目的は何なのか、そういう疑問が頭の中をかけめぐり、物語に引き込まれます。
また、絵を描いたポール・コックスは1959年パリ生まれで、本国でもイラストレータとして様々な活動をしており、ふしみみさをとのコンビでは日本の神話の絵本も出していて、七つの原色しか使われていない本書の絵も、子どもが描いたもののようですが、けっこう印象に残ります。
七色の中でも赤の使われ方に、ちょっと怖いものがあり、人の皮がベロッとはがされる残酷な場面での血の色もそうですが、蛇も赤く描かれているので、単なる偶然でしょうが、私は日野日出志の『赤い蛇』を連想してしまいました。しかし、赤いヘビというのが不気味な印象を与えるのは、ポール・コックスは分かっていたはずと思いますし、彼の少しいたずらっぽい悪意のようなものを感じてしまいました。
というわけで、基本的にはめでたしめでたしで終わる話なのですが、始まりの吸引力と、途中の奇抜さや残酷さが、その印象を薄めています。あまり見ない種類の昔話であり、絵本でした。
まず、バスク地方についてですが、大西洋に面し、ピレネー山脈を挟んで、スペインとフランスの両国にまたがっている、独自のバスク語が話される地域です。この地方は、旧石器時代の洞窟壁画を含む遺跡が複数あることでも知られています。つまり、それだけ古い時代から、バスク人の祖先は住んでいたということになります。最近では、カタルーニャの独立が話題になるスペインですが、バスク地方の独立も長年の課題で、フランコ政権下だった1950年代から「バスク祖国と自由」(ETF)という団体が「反フランコ」「反独裁」をかかげ、テロを含む活動を2011年に停戦に合意するまで続けていました。
本書は、スペイン・バスク地方ではなく、フランス・バスク地方の昔話を、ふしみみさおによる文に、フランス人アーティストのポール・コックスが絵を描いたものです。
お話の冒頭だけ紹介します。
「むかし、ひとりの船長がいました。
世界の海をわたりあるいた、うでのいい船のりでしたが、
わるいことがかさなって、船をうしない、
いまでは海辺の村で、ほそぼそとくらしていました。
船長のいちばんのたのしみは、朝はやく、さんぽをすることでした。
船長は海辺にすむヘビに、毎日、やさしく声をかけました。
『いのちは神さまのおくりものだ。たいせつにいきるんだよ』
そんなある朝のこと、とつぜん、ヘビが船長に話しかけました。
『船大工のところへいき、とてもがんじょうな船をつくるるように、たのんでください。
そして、ふだんの二ばいのお金をはらうといってください』
船長は、びっくりしながらも、いわれたとおり、たのみにいきました。
つぎの朝、海辺にいくと、またヘビがいいました。
『十二人のたくましい船のりをやとい、ふだんの二ばいのお金をはらうといってください』
船長は、またもや、いわれたとおりにしました」
この導入部が、とても吸引力があります。このヘビの正体は何なのか、なぜこんなに大金を持っているのか、もちろん航海に出ることになるのですが目的は何なのか、そういう疑問が頭の中をかけめぐり、物語に引き込まれます。
また、絵を描いたポール・コックスは1959年パリ生まれで、本国でもイラストレータとして様々な活動をしており、ふしみみさをとのコンビでは日本の神話の絵本も出していて、七つの原色しか使われていない本書の絵も、子どもが描いたもののようですが、けっこう印象に残ります。
七色の中でも赤の使われ方に、ちょっと怖いものがあり、人の皮がベロッとはがされる残酷な場面での血の色もそうですが、蛇も赤く描かれているので、単なる偶然でしょうが、私は日野日出志の『赤い蛇』を連想してしまいました。しかし、赤いヘビというのが不気味な印象を与えるのは、ポール・コックスは分かっていたはずと思いますし、彼の少しいたずらっぽい悪意のようなものを感じてしまいました。
というわけで、基本的にはめでたしめでたしで終わる話なのですが、始まりの吸引力と、途中の奇抜さや残酷さが、その印象を薄めています。あまり見ない種類の昔話であり、絵本でした。
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「本職」は、本というより映画です。
本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。
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- 出版社:ビーエル出版
- ページ数:0
- ISBN:9784776409304
- 発売日:2021年02月16日
- 価格:1760円
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