darklyさん
レビュアー:
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読者はある意味騙される。それはミステリーの結末という意味ではない。
上下巻併せての書評となります。
本作品のジャンルは確かにミステリーと言えます。主人公津田がひょんなことから手に入れた大金の一枚を使ったところ偽札だった。そしてそれを追って警察及び反社会的集団の手が伸びてくる。大金すべてが偽札なのか?それとも一部?偽札(鳩)はどこから来てどこへ飛び去ったのか?ある意味この物語は以上に集約されます。
ある意味というのは、この偽札を巡るミステリーを彩る様々なエピソードの圧倒的ボリュームと入れ子構造となった何が本当の話なのか分からないという迷彩を施されたことにより、偽札のプロットはむしろ副次的なものであるとも言えるのです。本筋を求めて読み進めて行くうちに本筋よりも結局はその過程を楽しんでいる自分がいることに気付きました。
入れ子構造とは、主人公の津田は小説家であり、自分が巻き込まれた偽札事件について小説を書いているが、小説を書いている津田を題材に小説を書いている作者の佐藤さんがいて、佐藤さんと同じ次元に私たち読者がいるという構造です。入れ子構造はよくある技法ですが、この小説の変わっているところは、津田は小説家だけに記述する内容がどこまで事実でどこからフィクションか分からない、かつ、佐藤さんも小説家なので同じように記述の真偽が分からない、そしてその効果は通常峻別されているはずの入れ子構造が溶け合って読者は何を拠り所に考えれば良いのか分からなくなるところです。
もちろんそれは佐藤さんの見事な術です。ミステリーの醍醐味の一つは最後に作者に騙された!と悔しいながらも作者のトリックに喝采を贈ることだろうと思いますが、この小説は、もちろん偽札の処遇を疎かにはしないというミステリーの基本は押さえていても、上下巻1,000ページを超えるボリュームを、物語の膨らませ方という技術で読ませるという、ある意味佐藤さんが小説家としての実力を遺憾なく発揮するための作品であったと言えます。そして偽札ミステリーに気を取られていた私は気付くのです。騙されたと。きっちり最後まで読まされてしまったと。
この作品は映画化されるようです。さあはたして監督はこの作品をどのように料理するのでしょうか。とても楽しみです。
本作品のジャンルは確かにミステリーと言えます。主人公津田がひょんなことから手に入れた大金の一枚を使ったところ偽札だった。そしてそれを追って警察及び反社会的集団の手が伸びてくる。大金すべてが偽札なのか?それとも一部?偽札(鳩)はどこから来てどこへ飛び去ったのか?ある意味この物語は以上に集約されます。
ある意味というのは、この偽札を巡るミステリーを彩る様々なエピソードの圧倒的ボリュームと入れ子構造となった何が本当の話なのか分からないという迷彩を施されたことにより、偽札のプロットはむしろ副次的なものであるとも言えるのです。本筋を求めて読み進めて行くうちに本筋よりも結局はその過程を楽しんでいる自分がいることに気付きました。
入れ子構造とは、主人公の津田は小説家であり、自分が巻き込まれた偽札事件について小説を書いているが、小説を書いている津田を題材に小説を書いている作者の佐藤さんがいて、佐藤さんと同じ次元に私たち読者がいるという構造です。入れ子構造はよくある技法ですが、この小説の変わっているところは、津田は小説家だけに記述する内容がどこまで事実でどこからフィクションか分からない、かつ、佐藤さんも小説家なので同じように記述の真偽が分からない、そしてその効果は通常峻別されているはずの入れ子構造が溶け合って読者は何を拠り所に考えれば良いのか分からなくなるところです。
もちろんそれは佐藤さんの見事な術です。ミステリーの醍醐味の一つは最後に作者に騙された!と悔しいながらも作者のトリックに喝采を贈ることだろうと思いますが、この小説は、もちろん偽札の処遇を疎かにはしないというミステリーの基本は押さえていても、上下巻1,000ページを超えるボリュームを、物語の膨らませ方という技術で読ませるという、ある意味佐藤さんが小説家としての実力を遺憾なく発揮するための作品であったと言えます。そして偽札ミステリーに気を取られていた私は気付くのです。騙されたと。きっちり最後まで読まされてしまったと。
この作品は映画化されるようです。さあはたして監督はこの作品をどのように料理するのでしょうか。とても楽しみです。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:小学館
- ページ数:0
- ISBN:9784094064872
- 発売日:2018年01月04日
- 価格:869円
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