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はなとゆめ+猫の本棚
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死んでしまいたいと思うときはどんな時?想像力をたくましくして世の中をみる。すると結構そんな時は身近にある。
 主人公は作家の私。デビューしたばかりの1994年、新聞の社会面に載った記事に違和感を覚える。

 それは、同居生活をしていた40代半ばの女性2人が、奥多摩の川の橋から、川に飛び込み心中で死んだという記事だった。

 まずは、心中というのは、昔からの定番は添い遂げられない男女が悲観して行うか、生活苦に押しつぶされ一家心中するとか、女性が心中するのは、青春の多感なころ、憧れていたアイドルが自殺、それの後追いして自殺するのが一般的。中年女性同士が心中、聞いたことが無い。しかも、住んでいる部屋や、マンションから飛び降りたり、首を吊ったり、ガス栓を開けっぱなしにした自殺ではなく、わざわざ奥多摩まででかけて、橋から飛び降りるなんて考えられない。

 そこで作家の私は、この心中の原因、そこに至るまでの経過を小説にすることにする。
物語は3つの視点から描かれる。

 まずは心中したM,とTの視点からの描写。そして、作者である私の視点。それから、この小説を舞台劇にしようとする、演出家、プロデューサーの視点。

 それで、400ページを超えた作品になっているが、結局真相はわからない。

 しかし、どんな年齢でも、自殺するのは、背景に絶望があるからということが示唆されている。愛し合っている2人の恋を成就させることができない。ずっと底辺の生活を強いられそこから脱却する方法がない。余命わずかな重病にかかった場合。膨大な借金をかかえ、返済が不可能な場合など。

 私の住んでいる区域は、多くの住民が住んでいる区域。ところが、その中にあったスーパーが建屋が古くなったことを理由に突然閉店した。車のない老人を中心とした人たちは大大きな衝撃を受ける。今まで遠くても5,6分も歩けば、スーパーに行けた。しかし、そのスーパーが無くなると、最寄りのスーパーには30分も歩かねばならない。大きな荷物を抱え老人が歩いて往復することは不可能。

 だから公共交通機関のバスを使うことになる。しかし、私の家の近くのバス亭から、スーパー近くのバス停までバスは無い。で、一旦駅までバスで行き、そこでバスを乗り換えねばならない。ところが、家の近くのバスは90分に1本しかない。すると特に帰りは、下手をすると1時間以上駅でバスを待たねばならない。

 駅である日、ちかくの90歳近い、買い物袋を抱え呆然とバスを待つ、近所の老人を見つけた。家に送ってあげようとする。車に乗り込んできたその老人が、「ありがとう」の前、真っ先に言ったのが「死にたい」という言葉だった。

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はなとゆめ+猫の本棚
はなとゆめ+猫の本棚 さん本が好き!1級(書評数:6225 件)

昔から活字中毒症。字さえあれば辞書でも見飽きないです。
年金暮らしになりましたので、毎日読書三昧です。一日2冊までを限度に読んでいます。
お金がないので、文庫、それも中古と情けない状態ですが、書評を掲載させて頂きます。よろしくお願いします。

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