紅い芥子粒さん
レビュアー:
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醜い容貌、並外れた膂力。素戔嗚尊の間違いだらけの青春。
大正九年、作者28歳の作品。
芥川にしては長い作品である。kindleなので本の厚さはわからないが、読み終わるのに2時間ぐらいはかかったと思う。
もちろん日本神話を借りた、芥川の創作である。
神話ではこわいお姉さまの天照大神は、姿はおろか名前すら出てこなかった。
素戔嗚尊は、高天原に暮らす容貌の醜い若者だった。
では、芥川の書いた高天原とは、どんなところか。
高い山々に囲まれた盆地で、まん中を天の安河が貫いて流れる。
盆地に点々と部落を作り、人々は暮らしている。
天の安河の岸には、若者たちが集って、力比べや投げ比べをしている。
彼らの生業は、狩りと牧畜であるらしい。
娘たちは、山や野で、わらいさざめきながら、木の芽や草の実を摘んでいる。
豊かな自然の恵みがあるから、男も女も、あくせく働かなくてもいいのである。
素戔嗚尊は、身体能力の優れた若者である。
力比べをしても、投げ比べをしても、彼に並ぶものはない。
彼と意地になって力比べをしたために、命を落としてしまった若者もいるぐらいだ。
醜い容貌と並外れた膂力。
彼の周囲には、彼を崇拝する若者が集まった。
しかし彼の崇拝者はごく少数で、大多数の若者は、膂力はまあまあだが容貌が美しい若者のまわりに群れていた。
醜い若者の崇拝者と、美しい若者の支持者。小さな集団と、大きな集団。天の安河の河原では、ふたつの若者の集団の抗争が絶えなかった。
素戔嗚尊は、ひとりの美しい娘に恋をしていた。ひそかな恋である。
彼の崇拝者の若者を介して思いを伝えようとするが、美しい若者にだまされて失恋してしまう。
素戔嗚尊は、怒り狂い、暴れまわって、高天原を大火事にしてしまった。
捕らえられ、裁きにかけられる素戔嗚尊。
多数派の若者たちは死刑を主張したが、思慮深い年長者のとりなしで、追放刑に決まった。
彼は、髭を一本残らず抜き取られ、手足のツメをはがされ、手ん手に石を投げつけられ、狩り犬をけしかけられ、血だらけになって、這う這うの体で部落を離れ、ふらつく足で高天原の峰々を越えた。
ここから先に、すごい展開が待っている。18歳以下は、読んではいけませんというような……
『古事記』では、高天原を追放された素戔嗚尊は、オオゲツヒメのもとに転がり込んで、食べ物を乞うことになっている。彼女が不潔なことをして食べ物を出したので、素戔嗚尊は、怒って彼女を斬り殺してしまうのだ。
芥川作の素戔嗚尊も、大気都姫のもとに身を寄せる。
彼女は、山腹の洞穴の邸に老婆と住んでいる。
洞穴とはいえ、酒も美食も美しい着物や刀もある、退廃的だが文化的(?)な暮らしだ。大気都姫には、16人の妹がいて、近辺の似たような洞穴で同じように暮らしていた。
彼女たちは、夜な夜な大気都姫の洞穴に集まり酒宴を開く。
唯一人の男である素戔嗚尊を美食でもてなし、浴びるほどの酒を飲ませ、酔いつぶれたところを姉妹みんなで……
酒池肉林にずぶずぶにはまり、堕落する素戔嗚尊。
さらに、作者が伏字を使って書かなければならないような、おぞましいできごとが……
この作品に書かれている素戔嗚尊は、英雄になる前の悩める若者である。
間違いだらけの青春だ。
物語はヤマタノオロチ退治の直前で、とうとつに終わっている。
終わるというよりも、作者が書き疲れて投げ出してしまったようにみえる。
芥川は、成功して英雄になる素戔嗚尊には、あまり興味がなかったのかもしれない。
芥川にしては長い作品である。kindleなので本の厚さはわからないが、読み終わるのに2時間ぐらいはかかったと思う。
もちろん日本神話を借りた、芥川の創作である。
神話ではこわいお姉さまの天照大神は、姿はおろか名前すら出てこなかった。
素戔嗚尊は、高天原に暮らす容貌の醜い若者だった。
では、芥川の書いた高天原とは、どんなところか。
高い山々に囲まれた盆地で、まん中を天の安河が貫いて流れる。
盆地に点々と部落を作り、人々は暮らしている。
天の安河の岸には、若者たちが集って、力比べや投げ比べをしている。
彼らの生業は、狩りと牧畜であるらしい。
娘たちは、山や野で、わらいさざめきながら、木の芽や草の実を摘んでいる。
豊かな自然の恵みがあるから、男も女も、あくせく働かなくてもいいのである。
素戔嗚尊は、身体能力の優れた若者である。
力比べをしても、投げ比べをしても、彼に並ぶものはない。
彼と意地になって力比べをしたために、命を落としてしまった若者もいるぐらいだ。
醜い容貌と並外れた膂力。
彼の周囲には、彼を崇拝する若者が集まった。
しかし彼の崇拝者はごく少数で、大多数の若者は、膂力はまあまあだが容貌が美しい若者のまわりに群れていた。
醜い若者の崇拝者と、美しい若者の支持者。小さな集団と、大きな集団。天の安河の河原では、ふたつの若者の集団の抗争が絶えなかった。
素戔嗚尊は、ひとりの美しい娘に恋をしていた。ひそかな恋である。
彼の崇拝者の若者を介して思いを伝えようとするが、美しい若者にだまされて失恋してしまう。
素戔嗚尊は、怒り狂い、暴れまわって、高天原を大火事にしてしまった。
捕らえられ、裁きにかけられる素戔嗚尊。
多数派の若者たちは死刑を主張したが、思慮深い年長者のとりなしで、追放刑に決まった。
彼は、髭を一本残らず抜き取られ、手足のツメをはがされ、手ん手に石を投げつけられ、狩り犬をけしかけられ、血だらけになって、這う這うの体で部落を離れ、ふらつく足で高天原の峰々を越えた。
ここから先に、すごい展開が待っている。18歳以下は、読んではいけませんというような……
『古事記』では、高天原を追放された素戔嗚尊は、オオゲツヒメのもとに転がり込んで、食べ物を乞うことになっている。彼女が不潔なことをして食べ物を出したので、素戔嗚尊は、怒って彼女を斬り殺してしまうのだ。
芥川作の素戔嗚尊も、大気都姫のもとに身を寄せる。
彼女は、山腹の洞穴の邸に老婆と住んでいる。
洞穴とはいえ、酒も美食も美しい着物や刀もある、退廃的だが文化的(?)な暮らしだ。大気都姫には、16人の妹がいて、近辺の似たような洞穴で同じように暮らしていた。
彼女たちは、夜な夜な大気都姫の洞穴に集まり酒宴を開く。
唯一人の男である素戔嗚尊を美食でもてなし、浴びるほどの酒を飲ませ、酔いつぶれたところを姉妹みんなで……
酒池肉林にずぶずぶにはまり、堕落する素戔嗚尊。
さらに、作者が伏字を使って書かなければならないような、おぞましいできごとが……
この作品に書かれている素戔嗚尊は、英雄になる前の悩める若者である。
間違いだらけの青春だ。
物語はヤマタノオロチ退治の直前で、とうとつに終わっている。
終わるというよりも、作者が書き疲れて投げ出してしまったようにみえる。
芥川は、成功して英雄になる素戔嗚尊には、あまり興味がなかったのかもしれない。
掲載日:
書評掲載URL : http://blog.livedoor.jp/aotuka202
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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