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休蔵さん
休蔵
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日本における城の主流形態である山城。その個々の特徴を探ることも楽しいが、立地から探究することの重要性と面白さを教えてくれる1冊。
 城といえば、洋の東西を問わず、高くて堅牢な石垣に守られたイメージが強い。
 兵庫県姫路に位置する姫路城をその代表格と見做すことに反論する人はいないのではないか。
 しかしながら、かつて日本に存在していた城のほとんどは、石垣を備えない構造のものだった。
 石垣を築く石の城の築成は、戦国時代以降に本格化する。
 対して、しばしば土の城と評される山城は中世に主流の構造だった。
 中世山城についての本は、昨今、多く出版されるようになった。
 市民権を得たということだろう。
 新たに出版される以上、独自の視点が求められる。
 本書は立地を基軸に据えた1冊である。

 本書はそのタイトル通り城が造営された地形とその立地を検討対象とする。
 第1章で山城の特報をざっくり解説した後、ここの城の構造について細かく取り上げることはない。
 特徴的な城だけは構造に言葉で解説し、さらに超特徴的な城については縄張り図を提示するというスタイルだ。

 それでは中世山城は、どのようば場所に築かれたのか。
 本書はいくつかのキーワドを示しながら、実例と対比していく。
 例えば、国境。
 ある時は同盟を結ぶこともあるだろうが、敵対することもある隣国との関係には、常に木を使って痛者と思う。
 そこで国境の防御には気を使ったようだ。
 特に街道筋である。
 忍びの1人、2人しかならともかく、一国を代表する軍隊の移動は街道を利用せざるを得ない。
 そこに厳重な山城を築くのは当然のこと。
 時には石川県と富山県に跨って所在する松根城跡のように街道を場内に取り込むこともあった。
 
 城は一城完結とは限らない。
 本城の周辺に小規模は支城を築くこともあったようだ。
 このことは逆の場合、つまり城攻めの場合にも当てはまるようで、豊臣秀吉が天下を獲得するきっかけともなった岡山県の備中高松城攻めでは周囲に陣城を築いて包囲したという。
 このような攻めるべき城の周囲に陣城を築く包囲戦は、織田信長が取り入れた戦術だったようだ。
 自分が守る地点の周囲を敵の旗が取り囲む様子は、守り手にとって恐ろしいものだったはず。

 本書第3章では、4つの戦を事例としてさらなる具体に迫る。
 この中では天下分け目の関ヶ原合戦が興味深い。
 まず、西軍にとっての裏切り者、小早川秀秋の陣を紹介する。
 彼は松尾山に陣取った。
 この山、東山道、北国街道、伊勢街道を眼下に見下ろせる好立地となる。
 北端に立てば関ヶ原を見下ろせ、東軍・西軍両陣営の配置を手にとるように把握することができた。
 しかも、ただ立地に数れただけではなく、技巧的に優れた陣を築き上げていたということだ。
 なんとなく裏切り者で、小心者というイメージを抱いていた小早川秀秋だったが、案外、強か者だったのかもしれない。
 このことは、古文書を読むより、現地に足を運ぶことで抱くことができる人物像と言えるかもしれない。

 姫路城は国宝であり、世界文化遺産でもある。
 それはよくわかる。
 中世山城でそんな評価を受けている遺跡はないのではないか。
 それもまた分かる。
 しかしながら、山城だからこそ私たちに教えてくれることがある。
 高石垣を築いた鉄壁な防御を築き上げる前、土の城が当たり前だった。
 大掛かりではないだけに、さまざまな場所に築かれることになったが、その立地条件を探ることで歴史の一端を垣間見ることができることを本書は教えてくれた。
 本書を手に山城めぐりをお薦めしたい。
 
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:450 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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