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ぽんきち
レビュアー:
夜に語られるべき謎めいた物語
マルティニックは、カリブ海に浮かぶ島で、フランスの海外県の1つである。17世紀にフランスの支配下に置かれ、以後、自治を求める動きもあったがその願いは果たせず、現在もフランス海外県のままである。非常に美しい島だそうである。
古くは、ナポレオンの妃となったジョゼフィーヌがこの島の出身だった。

クレオール(Creole)というのは、(本国に対して)植民地生まれといった意味である。特にマルティニックなどのカリブ海域の島のフランス系・スペイン系の人々が用いる言語や文化を指す。
フランスが入植した際、元々いた島民は虐殺され、プランテーション農業のために多くのアフリカ系奴隷が連れてこられた。マルティニックでは、フランス語を母体としてアフリカ系の言葉が組み込まれた言葉が「クレオール語」として用いられた。

2021年2月のNHK、100分de名著で、マルティニック出身のフランツ・ファノンが取り上げられていたのを見て、本書をリストに入れていたことを思い出した。
本書の著者、パトリック・シャモワゾーはクレオール文学の旗手とされる。
以前、『素晴らしきソリボ』を読み、わかったようなわからないような、でもそのわからなさ自体が魅力であるような、一筋縄ではいかない読後感を抱いた。

本書は12の短いお話を収める。
シャモワゾーが収集した昔話ということになろうが、「ただ単にあらすじを書きました」では終わらない、独特な味わいがある。
口承文学であるクレオールならではの囃子言葉のような繰り返し、呪術的な不思議な味わい、二転三転する筋。
いや、いったいどこへ連れていかれるのだ、これらのお話の聞き手は。
雨乞いをする少年。謎の言葉を発し続けるオウム。ラフカディオ・ハーンが聞いたという黒い男の話。
一応の終着点にたどり着くお話もある。けれど、何だか心許ないラストもある。
全体の筋としては日本の民話なりに似ているようなお話であっても、どこか暗闇のどこか謎めいた風味が混じる。

著者は序文で、これらは「生きのびるための物語」であったという。
語り手はもともと奴隷であった。彼は日中、サトウキビ畑で黙々と働く。夜になると黒人たちが彼を待ち受ける。彼は素晴らしい語り部だから。彼は、植民地化された地で、恐怖を抱えながら生きるものたちのための物語を語ってくれるから。表立っては語ることを許されない反抗心を抱え、鎖につながれ飢えに苦しみながら、「ここではないどこか」への夢を語る。そうした物語が「わかりやすく」ないのは必然であったのかもしれない。

闇にたゆたう物語。出口は見つかるのか。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1826 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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