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三太郎さん
三太郎
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「科学探偵」シャーロック・ホームズのデビュー作を新しい訳で読む。
コナン・ドイルが作り出したシャーロック・ホームズは科学でもって犯罪を解決する最初の探偵であり、本人の言葉によれば「推理と分析の科学」を極めようとした人ということになろう。この「緋色の研究」はホームズが登場する最初の長編小説である。

長編とはいっても文庫本で200ページ足らずだから一気に読めてしまう。小説はⅠ部とⅡ部に分かれていて、Ⅰ部は事件の発生から犯人逮捕までのワトスンの回想録で、Ⅱ部では被害者と犯人の関係が20年前の事件として語られる。

Ⅰ部はアフガニスタンでの戦争で傷ついたワトスンがロンドンに戻ってきてホームズに出会い、ひと部屋をルームシェアするところから始まる。ホームズは医学生でないのに医学部の実験室に入り浸って化学実験(血液の化学分析)や法医学的な研究(遺体の打撲痕)に熱中する奇妙な人物として描かれている。

殺人現場での捜査では、後のホームズの得意技である足跡による犯罪状況の復元や、遺留品のタバコの灰の分析がこの第一作にすでに登場している。

また殺人に植物から採ったアルカロイドが毒物として使用されるのも、この後のホームズ物によくあるパターンだ。

音楽については自分のヴァイオリンの腕前を自慢し、ストラディバリとアマティーの違いを講釈し、ノーマン・ネルーダ(実在の女性ヴァイオリニスト)とハレ管弦楽団(マンチェスターにある実在の管弦楽団)の演奏会を聴きに行くといっている。

ドイルはチャールズ・ダーウィンの学説に関心があったらしく、音楽を生みだしたり鑑賞したりする能力は言語能力よりも古くから人類に備わっていたという説を、ダーウィンの説としてホームズに語らせている。

このⅠ部にはその後のホームズにつきものの小道具が(コカインやモルニネ以外は)ほぼ出そろっている感じだ。

それにしてもこのデビュー作でのホームズは、翻訳のせいかもしれないが、若々しい。ちょっと己惚れるところも若い感じだ。そしてワトスンに対しては初めから彼を相棒として扱っている。

Ⅱ部は今から見れば長くてちょっと退屈な感じがするが、19世紀半ばの米国で興った新興宗教のモルモン教に対する批判が読み取れる。特に長老の独裁体制と一夫多妻制がこの事件の悲劇の原因になっている。小説が当時の実態をどれくらい反映しているのかはわからないが、この小説が米国で評判になったのはこのⅡ部のおかげだったのかもしれない。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:825 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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