ことなみさん
レビュアー:
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マラマッドという名前を知っていたというだけで選んだ本だが、帯の「ポップでサイケな異色作」という一文で、どう読めばいいのマラマッドさん。状態が終盤まで続いた。
ニューヨークの崩れそうなボロアパートの最上階に住むユダヤ人作家(レサー)の話。
アパートは再開発で取り壊しが決まっているが、それでも住民保護のために強制的に立ち退かせることはできない。
そんなところでひとり居座っている。一冊目は売れた、二冊目もほどほどに。
三作目を書き始めて十年、まだ納得のいく最後が書けていない。
前払い金ももう残り少なくなった、納得できる一行を書かなければ、
焦るが書けない。
水道は時々出なくなる、暖房も止まる時がある。
無人になった隣の部屋は育てていた植物が伸びてジャングル。そこをたまにあるく。
冬の風が壊れた窓から吹き込んでくる、それでも無人のこのアパートが気に入っている。
作家の焦りと苦悩の日々。
ある日おかしな音が聞こえた。
タイプライターの音がした。
力任せの音が耳に届く、そっと覗くとそこに黒人(ウィリーのちビル)が一心に黒いタイプライターに覆いかぶさっていた。
この時から悩める二人の作家のバトルが始まった。書けない作家に襲いかかるタイプの音。
しかしウィリーも苦しんでいた。
実績のある作家に助けを求めて原稿を見せる。
生々しい黒人の暮らしを文字にすれば迫力がある、しかし悲しいかな基礎のない文章は破綻している。
「フォームが大切だ」と感想を言ってみる。
「おれが欲しいのは緑、お札のグリーンだ」
「芸術は栄光だ」
「レサー、そのユダヤ語、イラつくんだよ。あんたのルーツをおれに押しつけるな」
書くことは同じでもどこまでも交わらない。ドタバタのイライラした苦しみを二人とも抱えてののしり合う。
もう静寂は戻ってこない。
ふとそこはかとない孤独感でウィリーの仲間と飲んだ、ウィリーの女は白人で舞台女優で歌手だった。
レサーと女はこっそり会うようになる。
レサーには書けないという心理的な複雑さがあり、それに輪をかけて面倒なことになる。
書けない書けない。
ウィリーも書けない。いざこざがこじれてきた。女のことを知らせると狂ったビルに襲われた。
ビルは出て行った。
書けない書けない。レサーはまだ最後が書けない。下を覗くとゴミバケツをあさっているのはビルだ。
盗み読みをしているのか。
ここを出ていけない、いくらボロでも出て行けばすぐに業者が解体するだろう。
書くが満足できない、それでも書く。
こうして二人は近づき過ぎて泥沼に足を突っ込む。それが最大の不幸。
書いても書かなくてももう吐き気がした。
「血を吸うユダヤ人の黒んぼ嫌い」
「ユダヤ人嫌いの大猿」
ふたりとも相手の苦悩はわかっている、と作家は思う。
ふたりはともに、正確に狙った。
そこに来合わせた大家は叫んだ。
慈悲を。慈悲を。慈悲を。
書く事の苦悩がテーマらしい。表現の自在さに、よくは入り込めなかったが。
複雑な根の深いレイシズムというのでもなく黒人とユダヤ人作家の苦悩が共感を呼ぶところが新しいのだろうか。
こういう変わった物語を読んだ、
汚い下半身言葉を吐き散らす作家志望の黒人と
次第に染まりつつ書けない苦悩で出来上がっていく男。
騒がしいこの本にはどんな魅力があるのか。
アメリカ文学史を横に読むわたしはわからない。
アパートは再開発で取り壊しが決まっているが、それでも住民保護のために強制的に立ち退かせることはできない。
そんなところでひとり居座っている。一冊目は売れた、二冊目もほどほどに。
三作目を書き始めて十年、まだ納得のいく最後が書けていない。
前払い金ももう残り少なくなった、納得できる一行を書かなければ、
焦るが書けない。
水道は時々出なくなる、暖房も止まる時がある。
無人になった隣の部屋は育てていた植物が伸びてジャングル。そこをたまにあるく。
冬の風が壊れた窓から吹き込んでくる、それでも無人のこのアパートが気に入っている。
作家の焦りと苦悩の日々。
ある日おかしな音が聞こえた。
タイプライターの音がした。
力任せの音が耳に届く、そっと覗くとそこに黒人(ウィリーのちビル)が一心に黒いタイプライターに覆いかぶさっていた。
この時から悩める二人の作家のバトルが始まった。書けない作家に襲いかかるタイプの音。
しかしウィリーも苦しんでいた。
実績のある作家に助けを求めて原稿を見せる。
生々しい黒人の暮らしを文字にすれば迫力がある、しかし悲しいかな基礎のない文章は破綻している。
「フォームが大切だ」と感想を言ってみる。
「おれが欲しいのは緑、お札のグリーンだ」
「芸術は栄光だ」
「レサー、そのユダヤ語、イラつくんだよ。あんたのルーツをおれに押しつけるな」
書くことは同じでもどこまでも交わらない。ドタバタのイライラした苦しみを二人とも抱えてののしり合う。
もう静寂は戻ってこない。
ふとそこはかとない孤独感でウィリーの仲間と飲んだ、ウィリーの女は白人で舞台女優で歌手だった。
レサーと女はこっそり会うようになる。
レサーには書けないという心理的な複雑さがあり、それに輪をかけて面倒なことになる。
書けない書けない。
ウィリーも書けない。いざこざがこじれてきた。女のことを知らせると狂ったビルに襲われた。
ビルは出て行った。
書けない書けない。レサーはまだ最後が書けない。下を覗くとゴミバケツをあさっているのはビルだ。
盗み読みをしているのか。
ここを出ていけない、いくらボロでも出て行けばすぐに業者が解体するだろう。
書くが満足できない、それでも書く。
こうして二人は近づき過ぎて泥沼に足を突っ込む。それが最大の不幸。
書いても書かなくてももう吐き気がした。
「血を吸うユダヤ人の黒んぼ嫌い」
「ユダヤ人嫌いの大猿」
ふたりとも相手の苦悩はわかっている、と作家は思う。
ふたりはともに、正確に狙った。
そこに来合わせた大家は叫んだ。
慈悲を。慈悲を。慈悲を。
書く事の苦悩がテーマらしい。表現の自在さに、よくは入り込めなかったが。
複雑な根の深いレイシズムというのでもなく黒人とユダヤ人作家の苦悩が共感を呼ぶところが新しいのだろうか。
こういう変わった物語を読んだ、
汚い下半身言葉を吐き散らす作家志望の黒人と
次第に染まりつつ書けない苦悩で出来上がっていく男。
騒がしいこの本にはどんな魅力があるのか。
アメリカ文学史を横に読むわたしはわからない。
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徹夜してでも読みたいという本に出会えるように、網を広げています。
たくさんのいい本に出合えますよう。
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- 出版社:みすず書房
- ページ数:0
- ISBN:9784622089759
- 発売日:2021年01月19日
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