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休蔵さん
休蔵
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日本人は農耕民と言われることがあるが、縄文時代は狩猟採集経済だった。縄文時代から弥生時代は生活スタイルが大きく転換したタイミングで、本書は弥生時代の農耕文化について探求している。
縄文時代から弥生時代を区分する際に、水田稲作の存否が基準としてあげられている。
しかしながら、具体的な水田遺構の存在だけを基準として捉えてしまうと多くの物事の抜け落ちを看過してしまうことにもなりかえない。
 本書は「植物・土器・人骨の分析を中心とした日本列島農耕文化複合の形成に関する基礎的研究」の成果をまとめたものという。

 研究タイトルに農耕文化複合という聞きなれない言葉が入っている。
 これは縄文時代に行われていた農耕と弥生時代のそれの差異を具体的に示すために導入された概念で、弥生時代にはさまざまな文化要素が農耕に収斂していることを指すもの。
 つまり、弥生時代の農耕について議論する場合には、農耕の装置だけに特化したものでは十分ではなく、さまざまな文化装置に対するアプローチを必要とするということのようだ。
 そこでこの研究では、①植物の利用形態の変化、②土器組成上の変化と新しい技術の獲得、③人骨や土器付着炭化物にみられる分子生物学的な変化の3点に焦点を定め、穀物栽培の定着が土器組成や土器の製作技術、ヒトの変化への影響を探る試みを実施している。

 上巻である本書では①について、「レプリカ法」による検討成果を示している。
 レプリカ法とは、土器などの表面に生じた植物の種実などの抜け痕にシリコンを注入して型取りし、それを電子顕微鏡で観察して種を同定する方法とのこと。
 なんとなくモミ圧痕としていた資料について、より詳細な検討を可能とした技術であり、多くの成果を上げているようだ。

 本研究の対象は日本列島各地をメインとしながら、韓国やロシアも含まれており、それぞれの国における資料調査成果の報告が掲載されている。
 そして、日本列島各地の状況が報告されているが、北海道、関東、中部高地、中国地方が対象であるが、その他の地域も視野に入れた議論が展開する。
 例えば、九州・中国地方の縄文時代後期後半~晩期前半の試料から穀物の圧痕は検出されず、アズキ亜属種子の可能性があるものや堅果類の果皮などが確認され、アワやイネはそれに後続することが示されている。
 穀物農業の具体が小さな土器片の小さな窪みから追究できるという興味深い事例が示されている。

 また、全国的な傾向として、縄文時代にはマメ類とシソ属の圧痕例が多いが、弥生時代には激減することも明らかになっている。
 この状況とは対照的にマメ類やシソ属の炭化種子は弥生時代以降にも全国的に出土しているということで、今後の課題ということだった。

 さらにレプリカ法の問題点についてもきちんと検討が加えられている。 
 レプリカ法は土器表面や断面に窪みを見つけることから着手することになる。
 表面に見えている資料が対象となるが、実際には器壁内面にも窪みが存在し、X線技術で追及できるという。
 目に見えない資料も加味した議論も重要となるという見解だ。
 ただ、レプリカ法を軸に、既存資料の見直しも推進されたようで、多くの情報の蓄積には繋がり、当時の状況復元に大きく寄与できていることは間違いない。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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