そうきゅうどうさん
レビュアー:
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ある毒殺事件にまつわる真実が、いずれもかなり怪しげな4つの手稿を突き合わせることで浮かび上がる、というものだが、そこには17世紀中期のイングランドの政治、社会、文化、風俗といったものが絡み合っていた。
17世紀の中頃、イングランドのオックスフォードで起こった毒殺事件について、事件の関係者と何らかの親交のあった4人の手稿から浮かび上がる真相とは? イーアン・ベアーズの『指差す標識の事例』は、クロムウェル死去後の王政復古に揺れるイングランドを舞台とした歴史ミステリである。
上下巻で1100ページにも及ぶ本作は、4つの手稿と(作品に登場する)人物解説、そして年表からなり、それぞれの手稿の扉裏には、いずれもフランシス・ベーコンの『ノウム・オルガヌム』からの箴言が引用され、『指差す標識の事例』というこの不可思議なタイトルも、第4の手稿の扉裏に掲げられた
本作には数多くの人物が登場するが、その多くは実在の人物である(本作で毒殺されたとされる被害者も、また4つの手稿の著者のうち2名も実在の人物だ)。しかも、この事件には当時のイングランドの国内および周辺諸国との複雑な政治情勢が深く関係している。そのため、本作を読み解くためにはイングランド史の知識が必要となる。下巻の巻末に付された人物解説と年表、そして「訳者あとがき」の中の時代背景についての記述は、そのためのよい手掛かりになる(というか、多分それなしでは理解できない。私は第3の手稿を読み終えるまで、そんなものがあることに気づかず、読むのに悪戦苦闘した)。
私にとって本作を読むのは今回が二度目で、一度目は上巻を読み終えたところで気力が尽きてリタイアした。二度目でやっと通読できたが、私自身は正直、面白かったとは言い難い。
ミステリとしては、ある毒殺事件にまつわる真実が、いずれもかなり怪しげな4つの手稿を突き合わせることで浮かび上がる、というものだが、そこには17世紀中期のイングランドの政治情勢はもちろん、社会、文化、風俗といったものが絡み合っていて、そうしたものに理解と興味がないと読み進むのが大変だからだ(またAmazonレビューの中に「医学的な実験の描写に気持ちが悪くなって挫折した」というのもあった)。それに加えて、読者は4つの手稿の内容を照らし合わせながら、本当は何が起こっていたのかを検証する、という作業も要求される。
もちろん普通の歴史物のように、物語の流れに身を任せて、そこで作者が仕掛けたサプライズを楽しむ、という読み方もできなくはないが、そうするには当時のイングランドの政治、社会、文化、風俗といったものを頭に入れておかなければならない。
逆に言えば、本作をミステリとして読むにせよ歴史小説として読むにせよ、そういう能動的な読み方ができる人なら、他では味わえないめくるめく読書体験ができるだろう。だが残念ながら私はそうではなかった、ということだ。
そういうわけで本作は、非常に好意的な評価と非常に否定的な評価に二分されるだろうことが容易に想像される。「訳者あとがき」の中の作者についての項には、イーアン・ベアーズが本作に続いて2015年までに発表した4作が紹介されているが、それらはいずれも
上下巻で1100ページにも及ぶ本作は、4つの手稿と(作品に登場する)人物解説、そして年表からなり、それぞれの手稿の扉裏には、いずれもフランシス・ベーコンの『ノウム・オルガヌム』からの箴言が引用され、『指差す標識の事例』というこの不可思議なタイトルも、第4の手稿の扉裏に掲げられた
何であれ、自然の探求において、理解が保留されているとなれば、指差す標識とも言える事例が正当にして等閑にすべからざる設問のあり方を提示する。(後略)に由来する(が、私には何を言っているのかよく分からない(•́﹏•̀))。日本語版は、4つの手稿をそれぞれ別の訳者が担当している。そのうち第2の手稿は、担当した東江(あがりえ)一紀の最後の仕事となった。
本作には数多くの人物が登場するが、その多くは実在の人物である(本作で毒殺されたとされる被害者も、また4つの手稿の著者のうち2名も実在の人物だ)。しかも、この事件には当時のイングランドの国内および周辺諸国との複雑な政治情勢が深く関係している。そのため、本作を読み解くためにはイングランド史の知識が必要となる。下巻の巻末に付された人物解説と年表、そして「訳者あとがき」の中の時代背景についての記述は、そのためのよい手掛かりになる(というか、多分それなしでは理解できない。私は第3の手稿を読み終えるまで、そんなものがあることに気づかず、読むのに悪戦苦闘した)。
私にとって本作を読むのは今回が二度目で、一度目は上巻を読み終えたところで気力が尽きてリタイアした。二度目でやっと通読できたが、私自身は正直、面白かったとは言い難い。
ミステリとしては、ある毒殺事件にまつわる真実が、いずれもかなり怪しげな4つの手稿を突き合わせることで浮かび上がる、というものだが、そこには17世紀中期のイングランドの政治情勢はもちろん、社会、文化、風俗といったものが絡み合っていて、そうしたものに理解と興味がないと読み進むのが大変だからだ(またAmazonレビューの中に「医学的な実験の描写に気持ちが悪くなって挫折した」というのもあった)。それに加えて、読者は4つの手稿の内容を照らし合わせながら、本当は何が起こっていたのかを検証する、という作業も要求される。
もちろん普通の歴史物のように、物語の流れに身を任せて、そこで作者が仕掛けたサプライズを楽しむ、という読み方もできなくはないが、そうするには当時のイングランドの政治、社会、文化、風俗といったものを頭に入れておかなければならない。
逆に言えば、本作をミステリとして読むにせよ歴史小説として読むにせよ、そういう能動的な読み方ができる人なら、他では味わえないめくるめく読書体験ができるだろう。だが残念ながら私はそうではなかった、ということだ。
そういうわけで本作は、非常に好意的な評価と非常に否定的な評価に二分されるだろうことが容易に想像される。「訳者あとがき」の中の作者についての項には、イーアン・ベアーズが本作に続いて2015年までに発表した4作が紹介されているが、それらはいずれも
こうした凝った叙述法を駆使した作品ばかりで、しかもその物語構造は更に複雑化しているという。
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「ブクレコ」からの漂流者。「ブクレコ」ではMasahiroTakazawaという名でレビューを書いていた。今後は新しい本を次々に読む、というより、過去に読んだ本の再読、精読にシフトしていきたいと思っている。
職業はキネシオロジー、クラニオ、鍼灸などを行う治療家で、そちらのHPは→https://sokyudo.sakura.ne.jp
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