ラテンアメリカ文学というと、ガルシア・マルケスやバルガス・リョサみたいな
大物の印象が強く、マジックリアリズム的な世界観に
わたしは飛び込むのをためらっていました。
そこにこの作品です。
著者は、オコナー、マッカラーズ、アリス・マンローや川上弘美に親しみ、
小山田浩子の工場を読んでみたいと語っているそうです。
なるほどと思いました。
この作品は、サンティアゴの鬱屈とした日常生活を書いていて、
独特の空気感とどことなく親しみを覚える煮詰まった世界が広がっていました。
短篇集です。九作品が収録されています。
最後の「よかったね、わたし」が八十頁ぐらいであることを除けば、
二十から三十頁前後の作品ばかりなので、手に取りやすいです。
でもですね。内容は濃いのですよ。
第一話、表題作の「恥さらし」。
二十頁にも満たないのに、すごく印象深いです。
チリのサンティアゴで、貧しさに傾きつつも住んでいる家族の話です。
父が失業しました。なんとか浮上のきっかけを掴んで欲しい娘たち。
母が家族を支えている反面、どうしても家族に厳しく当たってしまいます。
だから姉妹は、父の名誉を考えるのです。仕事さえあればと。
その結果、娘が取った行動が、大人社会のいやらしさに蹂躙されることになり
なんともやるせない気持ちになったのでした。
貧しさや家族の苦労を扱った作品が多いです。
経済的な格差が人間関係にも影を落としていて、
貧しい人も豊かな人もそれぞれに不幸ではないかと思わせる話が続きます。
段落を細かく区切り、場面展開が多い特徴があります。
人によっては読みにくさを感じるかもしれませんが、
その研ぎ澄まされ感が独特のリズムを作っているので、
慣れると物語を読む推進力になります。
息の詰まるような空気感の中で、愛情みたいなものをむさぼる人が
あちこちで登場します。
等身大でもがいている人間の姿を感じられる一冊でした。




ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。
自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。
この書評へのコメント
- たけぞう2021-09-10 22:20
>かもめ通信
ども。いつもお世話になっております。とあるきっかけ…心あたりがなくてコワイ。。。まあ、冗談はさておき。hackerさんともども、本当にたくさんの海外文学をご存知ですね。ネッテル、確認したら発行されたばかりなんですね。しかもメヒコですか。リストに入れておきますね。
最近、日本小説の粗製乱造に当たることが増えたなあと思う一方で、海外文学は面白くないと翻訳されないので、外れが少ないのではと思い直すようになってきました。最近の作品ならば翻訳調が少なく、読みやすい本が多いですし。いろいろとありがとうございます。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - かもめ通信2021-09-11 06:21
私はたけぞうさんとは逆で、これまで日本文学、特に現代文学はほとんど読まずにきましたが、ここ最近は少しずつ手を伸ばしていて、その質の高さに圧倒されることが増えた気がしています。(手に取る本が限られているから尚更そう感じるのかもしれませんが)
読み終えたばかりで、レビューはまだ書けていませんが、この本↓もよかった~。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:白水社
- ページ数:0
- ISBN:9784560090657
- 発売日:2021年01月06日
- 価格:3300円
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