ぽんきちさん
レビュアー:
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走れ! 時速1.8キロのロボット掃除機!
第10回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。
アガサ・クリスティー賞は2010年に新設された、英国アガサ・クリスティー社公認のミステリ賞だそうである。
そう、何だか不思議なタイトルだが、本作、ミステリなのである。
但し、ちょっと変わっている。何といっても探偵がロボット掃除機なのだ。丸っこくて自走式、ウィンウィンかたかた進みながら、ゴミを吸い込んでいく掃除機。「ルンバ」が一番知られているけれど、国内メーカー産などもある、あれである。
とはいえ、ロボット掃除機に実は心があり、という話ではない。若き警官、鈴木勢太が、自動車事故にあった拍子に意識が飛び、次に気がついたら「ロボット掃除機になっていた」のだ。
えーと、何だそりゃ!?の展開なのだが、ここで理由を考えても仕方がない。
ともかくも勢太はロボット掃除機になってしまった。そればかりか隣の部屋には中年男性の死体があることがわかった。その上、勢太にはある気がかりがあり、どうしても今いる(掃除機がある)札幌から小樽へ向かわなければならない事情があった。
札幌・小樽間、約30キロ。ロボット掃除機の時速1.8キロ。
掃除機は地べたを旅立ち、遥かなるかなたを目指す。
・・・とりあえず、中年男性死亡事件の解決の糸口を見つけ、それからドアや階段を乗り越える必要があるのだが。
掃除機は札幌の小さなメーカーが製造したもので、他にはない一風変わった機能も搭載されていた。掃除機の内なる頭脳となった勢太は、そうした独自機能やWiFi接続機能を駆使していく。インターネットで情報を集め、メールで同僚に事件を知らせ、チャチなマジックハンドでドアを操作し、悪戦苦闘である。何だかいじましい努力の末、ようやく旅が始まる。
とはいえ、その先も災難続き。自転車にはねられ、子供に拾われ、老夫婦の家に閉じ込められる。そのたび、子供がネグレクトを受けていたり、老女が戸棚の下敷きとなったりといった事件や事故に頭を悩ませる。挙句に合間には充電だって必要なのだ。
さまざま難事を乗り越えて、それでも小樽を目指すには理由があった。
亡き姉の娘、朱麗を、姉の元夫(朱麗にとっては義理の父)から守らねばならないのだ。元夫はDVのため、朱麗に対して接近禁止命令を受けていたが、勢太がいないとわかれば取り戻しに来るに決まっている。急げ、勢太、いや、ロボット掃除機!
旅路はたどたどしく覚束ない。
考える時間だけはある勢太は、中年男死亡事件について推理を巡らせる。そしてまた、姉の死亡の謎も徐々に解きほぐされてくる。
勢太は無事に朱麗を救うことができるのだろうか。
ミステリとして非常に上質か、と言われると、そうとは言い切れない。
いずれの事件も手掛かりが少ない上、大部分、勢太の推理が展開されるのみで、事件解決のカタルシスは強くない。真相はそうかもしれないけれど、本当にそうなのかという疑念は残る。
けれど、「掃除機になってしまった」という不条理をものともせず、愛する姪っ子のため、ちまちまと不器用に頑張る勢太=掃除機の姿に何だかほだされてしまう。このまっすぐさ、著者さんは若い人なのではないかな・・・。
読み心地は決して悪くない。
『掃除機探偵の推理と冒険』と改題し、文庫化されているそうである。
なかなかの佳品として楽しんだ。
アガサ・クリスティー賞は2010年に新設された、英国アガサ・クリスティー社公認のミステリ賞だそうである。
そう、何だか不思議なタイトルだが、本作、ミステリなのである。
但し、ちょっと変わっている。何といっても探偵がロボット掃除機なのだ。丸っこくて自走式、ウィンウィンかたかた進みながら、ゴミを吸い込んでいく掃除機。「ルンバ」が一番知られているけれど、国内メーカー産などもある、あれである。
とはいえ、ロボット掃除機に実は心があり、という話ではない。若き警官、鈴木勢太が、自動車事故にあった拍子に意識が飛び、次に気がついたら「ロボット掃除機になっていた」のだ。
えーと、何だそりゃ!?の展開なのだが、ここで理由を考えても仕方がない。
ともかくも勢太はロボット掃除機になってしまった。そればかりか隣の部屋には中年男性の死体があることがわかった。その上、勢太にはある気がかりがあり、どうしても今いる(掃除機がある)札幌から小樽へ向かわなければならない事情があった。
札幌・小樽間、約30キロ。ロボット掃除機の時速1.8キロ。
掃除機は地べたを旅立ち、遥かなるかなたを目指す。
・・・とりあえず、中年男性死亡事件の解決の糸口を見つけ、それからドアや階段を乗り越える必要があるのだが。
掃除機は札幌の小さなメーカーが製造したもので、他にはない一風変わった機能も搭載されていた。掃除機の内なる頭脳となった勢太は、そうした独自機能やWiFi接続機能を駆使していく。インターネットで情報を集め、メールで同僚に事件を知らせ、チャチなマジックハンドでドアを操作し、悪戦苦闘である。何だかいじましい努力の末、ようやく旅が始まる。
とはいえ、その先も災難続き。自転車にはねられ、子供に拾われ、老夫婦の家に閉じ込められる。そのたび、子供がネグレクトを受けていたり、老女が戸棚の下敷きとなったりといった事件や事故に頭を悩ませる。挙句に合間には充電だって必要なのだ。
さまざま難事を乗り越えて、それでも小樽を目指すには理由があった。
亡き姉の娘、朱麗を、姉の元夫(朱麗にとっては義理の父)から守らねばならないのだ。元夫はDVのため、朱麗に対して接近禁止命令を受けていたが、勢太がいないとわかれば取り戻しに来るに決まっている。急げ、勢太、いや、ロボット掃除機!
旅路はたどたどしく覚束ない。
考える時間だけはある勢太は、中年男死亡事件について推理を巡らせる。そしてまた、姉の死亡の謎も徐々に解きほぐされてくる。
勢太は無事に朱麗を救うことができるのだろうか。
ミステリとして非常に上質か、と言われると、そうとは言い切れない。
いずれの事件も手掛かりが少ない上、大部分、勢太の推理が展開されるのみで、事件解決のカタルシスは強くない。真相はそうかもしれないけれど、本当にそうなのかという疑念は残る。
けれど、「掃除機になってしまった」という不条理をものともせず、愛する姪っ子のため、ちまちまと不器用に頑張る勢太=掃除機の姿に何だかほだされてしまう。このまっすぐさ、著者さんは若い人なのではないかな・・・。
読み心地は決して悪くない。
『掃除機探偵の推理と冒険』と改題し、文庫化されているそうである。
なかなかの佳品として楽しんだ。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:早川書房
- ページ数:0
- ISBN:9784152099853
- 発売日:2020年11月19日
- 価格:1870円
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