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「私以外私じゃないの」という歌があるが、本当にそうだろうか?そんなことを考えてしまった第40回横溝正史ミステリー&ホラー大賞<大賞>受賞作。ホラー色の強い作品。

はじまりは1冊の日記帳だった。
太平洋戦争で戦死した大叔父、久喜貞市の従軍日記。
この日記が時を越えて久喜家に戻ることになったのだ。
貞市の日記にはささやかな日常も書かれていたが、ジャングル逃亡中の苦労も多く記されていた。
ただ、後の問題を引き起こす引き金となったのは、貞市が記した文章ではなく、手帳それ自体。
手帳には貞市の強い思念が込められていた。
それは、ジャングルで生死の境を行き来するような毎日のなか、貞市のなかで膨れ上がっていた生への執着。
純粋に生きたいというだけの思念は、不可解な出来事を引き金として暴走を始める。
不可解な事件は日記の帰国を前に起きていた。
久喜家の墓石から久喜貞市の名前、没年月日が削り取られたいたのだ。
墓石という明確な死の表示からの名前の削除は、死そのものの否定を印象付ける。
少なくとも関係者のなかに奇妙な疑念を生じさせることには繋がった。
この疑念が次々と事件を誘発していく。
まるで貞市の死をなかったことにするかのように…。
戦死した貞市の“生”は、久喜一族やそれに関わった人たちの人生を狂わせていく。
「お前の死はわたしの生」という本作にある一文は、本作の底流を漂う闇を決定づける。
そして、不可解で不条理な物語は、想像の範囲を大きく越えた結末を迎えることに…。
本作は第40回横溝正史ミステリー&ホラー大賞受賞作。
現代劇でありながら、戦争をキーワードにしているおかげか、横溝ワールドを思わせる雰囲気が漂う。
舞台は信州で、やはり都会を舞台としては滲み出せない凄みが加わっていた。
夢の描写から始まった本作を、当初はミステリー要素が強いと思いながら読み進めていったが、着地点はホラーそのものだった。
「わたし」という一人称視点で紡ぎ出されているが、この視点が大切だと終末近くで強く感じることなる。
「わたし」には誰もがなり得る。
字面は変わらない「わたし」はいったい誰なのか。
この不安定さは物語に揺らぎを落とし込んだに違いない。
本作を読み進めていくと、どうにも合点が行かない場面が出てきた。
最初の事件は墓石から久喜貞市の名前が削られたことである。
この犯人は明らかになり、その犯人を先導した人物も明るみに出る。
この先導者の意図も結果的には示されることになるが、この人物は最終局面を意図することができたのか?という点だ。
さすがにここを意図できるのは、神の領域となってしまう…
というところで、着地点はホラーという理解になった。
本作は一気に読み進めるほどに面白く、省みるともっとじっくり楽しむべきだったと思う。
次作の刊行を楽しみに待ちたい。
その前に、「わたし」に注視しながら、もう一度読み直してみようか。
別の味わい方ができる気がする。
太平洋戦争で戦死した大叔父、久喜貞市の従軍日記。
この日記が時を越えて久喜家に戻ることになったのだ。
貞市の日記にはささやかな日常も書かれていたが、ジャングル逃亡中の苦労も多く記されていた。
ただ、後の問題を引き起こす引き金となったのは、貞市が記した文章ではなく、手帳それ自体。
手帳には貞市の強い思念が込められていた。
それは、ジャングルで生死の境を行き来するような毎日のなか、貞市のなかで膨れ上がっていた生への執着。
純粋に生きたいというだけの思念は、不可解な出来事を引き金として暴走を始める。
不可解な事件は日記の帰国を前に起きていた。
久喜家の墓石から久喜貞市の名前、没年月日が削り取られたいたのだ。
墓石という明確な死の表示からの名前の削除は、死そのものの否定を印象付ける。
少なくとも関係者のなかに奇妙な疑念を生じさせることには繋がった。
この疑念が次々と事件を誘発していく。
まるで貞市の死をなかったことにするかのように…。
戦死した貞市の“生”は、久喜一族やそれに関わった人たちの人生を狂わせていく。
「お前の死はわたしの生」という本作にある一文は、本作の底流を漂う闇を決定づける。
そして、不可解で不条理な物語は、想像の範囲を大きく越えた結末を迎えることに…。
本作は第40回横溝正史ミステリー&ホラー大賞受賞作。
現代劇でありながら、戦争をキーワードにしているおかげか、横溝ワールドを思わせる雰囲気が漂う。
舞台は信州で、やはり都会を舞台としては滲み出せない凄みが加わっていた。
夢の描写から始まった本作を、当初はミステリー要素が強いと思いながら読み進めていったが、着地点はホラーそのものだった。
「わたし」という一人称視点で紡ぎ出されているが、この視点が大切だと終末近くで強く感じることなる。
「わたし」には誰もがなり得る。
字面は変わらない「わたし」はいったい誰なのか。
この不安定さは物語に揺らぎを落とし込んだに違いない。
本作を読み進めていくと、どうにも合点が行かない場面が出てきた。
最初の事件は墓石から久喜貞市の名前が削られたことである。
この犯人は明らかになり、その犯人を先導した人物も明るみに出る。
この先導者の意図も結果的には示されることになるが、この人物は最終局面を意図することができたのか?という点だ。
さすがにここを意図できるのは、神の領域となってしまう…
というところで、着地点はホラーという理解になった。
本作は一気に読み進めるほどに面白く、省みるともっとじっくり楽しむべきだったと思う。
次作の刊行を楽しみに待ちたい。
その前に、「わたし」に注視しながら、もう一度読み直してみようか。
別の味わい方ができる気がする。
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それでも、まだ偏り気味。
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- 出版社:KADOKAWA
- ページ数:320
- ISBN:9784041108543
- 発売日:2020年12月11日
- 価格:1870円
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