ぽんきちさん
レビュアー:
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絵本作家が見つめる、小さな生き物の生の営み
比較的薄い本だが愛すべき1冊。
90歳を超える絵本作家が、40年以上前のあるひと夏を綴る。
著者は、虫や草など、身近な自然を題材にした科学絵本を手掛けてきた人である。
その夏、著者は京都・洛北のとある納屋に通い、あしなが蜂の観察に没頭した。何せ、古いその納屋には、せぐろあしなが蜂の巣が60ほどもあったのだった。子育てをしようとする女王蜂がせわしく出入りし、まるであしなが蜂の団地のようだった。
持ち主の許しを得た著者は、京都市街の家から毎日蜂の観察に通う。
正六角形の形の巣を精巧に作り上げる女王蜂たち。女王たちは自身の触角を物差しとして、六角形の1辺の長さを決めるという。だからそれぞれの巣をよく見ると、実は1辺の長さは少しずつ違う。
あしなが蜂は名ハンターでもある。きゃべつ畑を見て回り、すばやく青虫を狩る。それを丸めて肉団子にして幼虫に与えるのだ。
時には食物が不足することもある。農作物の出来の悪い年は、青虫も多くは育たない。そうした時、母蜂はどうするか。仲間の蜂から子を盗むのだ。仲間の幼虫を殺し、我が子に与える。
残酷なようではあるが、それも生の営みの1つ。生きていくというのはそういうことなのだろう。
著者は東京に仕事部屋を持っており、ある時、仕事のためしばらく東京に行かなければならなくなる。
ちょっと驚くことに、著者はこの旅に蜂たちを連れていくことにするのだ。女王蜂がいなくなっていたり、巣の状態が悪かったりする巣を3つ分。自家用車などではない、新幹線での旅である。袋やかばんに詰めた蜂の巣を抱え、朝早い列車に乗り込むが、車中は案に相違して満席に近い。サラリーマンの出張が多いのだ。
うわ、無事に着くかな、と読んでいる方も冷や冷やする。
小さな事件を経て、東京のアパートへ。渋谷に近いというが、(当時は?)半田園地帯だったのだそうで、著者はその部屋で蜂を飼う。もちろん、蜂は狩りに出かける。何だか牧歌的である。
母蜂のいない幼虫には、著者が刺身を与えるなどして育てている。そのうちに先に育った働き蜂が幼虫を養うようになり、著者は「子育て」から解放される。
もう1つ、本作で印象的なのは、納屋の持ち主である「利右衛門のおかあ」ら、地元の人たちとの交流である。「蜂の観察をしたい」と突然現れた著者を迎え入れ、「蜂のねえさん」と呼んでは、さりげなく親切にしてくれる。
袖すり合うほどの縁だけれど、そこに確かに親交の情がある。
蜂と著者の距離感もそれに近いものであるのが、本書を読み心地のよいものにしているのかもしれない。
巻頭に収められた著者のスケッチブックの抜粋も味わい深い。
*参考
『アシナガバチ一億年のドラマ―カリバチの社会はいかに進化したか』
90歳を超える絵本作家が、40年以上前のあるひと夏を綴る。
著者は、虫や草など、身近な自然を題材にした科学絵本を手掛けてきた人である。
その夏、著者は京都・洛北のとある納屋に通い、あしなが蜂の観察に没頭した。何せ、古いその納屋には、せぐろあしなが蜂の巣が60ほどもあったのだった。子育てをしようとする女王蜂がせわしく出入りし、まるであしなが蜂の団地のようだった。
持ち主の許しを得た著者は、京都市街の家から毎日蜂の観察に通う。
正六角形の形の巣を精巧に作り上げる女王蜂たち。女王たちは自身の触角を物差しとして、六角形の1辺の長さを決めるという。だからそれぞれの巣をよく見ると、実は1辺の長さは少しずつ違う。
あしなが蜂は名ハンターでもある。きゃべつ畑を見て回り、すばやく青虫を狩る。それを丸めて肉団子にして幼虫に与えるのだ。
時には食物が不足することもある。農作物の出来の悪い年は、青虫も多くは育たない。そうした時、母蜂はどうするか。仲間の蜂から子を盗むのだ。仲間の幼虫を殺し、我が子に与える。
残酷なようではあるが、それも生の営みの1つ。生きていくというのはそういうことなのだろう。
著者は東京に仕事部屋を持っており、ある時、仕事のためしばらく東京に行かなければならなくなる。
ちょっと驚くことに、著者はこの旅に蜂たちを連れていくことにするのだ。女王蜂がいなくなっていたり、巣の状態が悪かったりする巣を3つ分。自家用車などではない、新幹線での旅である。袋やかばんに詰めた蜂の巣を抱え、朝早い列車に乗り込むが、車中は案に相違して満席に近い。サラリーマンの出張が多いのだ。
うわ、無事に着くかな、と読んでいる方も冷や冷やする。
小さな事件を経て、東京のアパートへ。渋谷に近いというが、(当時は?)半田園地帯だったのだそうで、著者はその部屋で蜂を飼う。もちろん、蜂は狩りに出かける。何だか牧歌的である。
母蜂のいない幼虫には、著者が刺身を与えるなどして育てている。そのうちに先に育った働き蜂が幼虫を養うようになり、著者は「子育て」から解放される。
もう1つ、本作で印象的なのは、納屋の持ち主である「利右衛門のおかあ」ら、地元の人たちとの交流である。「蜂の観察をしたい」と突然現れた著者を迎え入れ、「蜂のねえさん」と呼んでは、さりげなく親切にしてくれる。
袖すり合うほどの縁だけれど、そこに確かに親交の情がある。
蜂と著者の距離感もそれに近いものであるのが、本書を読み心地のよいものにしているのかもしれない。
巻頭に収められた著者のスケッチブックの抜粋も味わい深い。
*参考
『アシナガバチ一億年のドラマ―カリバチの社会はいかに進化したか』
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:中央公論新社
- ページ数:0
- ISBN:9784120053436
- 発売日:2020年10月20日
- 価格:1540円
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