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ぽんきち
レビュアー:
哺乳類なのに卵を産む? 摩訶不思議な生き物に迫る!
カモノハシをご存知だろうか。
大きなくちばし、櫂のような尻尾、水かきのある足。
独特な風貌は、水鳥とビーバーをつなぎ合わせたようにも見える。
変わっているのは見た目だけではない。
カモノハシは哺乳類ではあるが卵を産む。尿や糞、卵を1つの穴から出す単孔目の仲間である。単孔目にはカモノハシの仲間のほか、ハリモグラが現存するのみである。

本書はまるごと、そのカモノハシを紹介する1冊である。日本語で書かれた最初の「カモノハシ本」とのこと。
著者はカモノハシ好きが高じて研究者となった。カモノハシや哺乳類の進化、特に頭骨や歯の形の変遷が専門である。
カモノハシの生物学的な話から、カモノハシの先祖にあたる化石単孔類の研究や著者の研究者人生のお話まで、カモノハシをディープに知る1冊となっている。

哺乳類でありながら、卵を産み排泄孔が1つである(=鳥類や爬虫類に似た性質)というカモノハシについて考えることは、すなわち、哺乳類全体の進化を考えることである。
子育てはいつから行われてきたのか。母乳を与える系はどのように発展してきたのか。胎盤はいつできたのか。体毛や恒温性はどの時点で獲得されたのか。
そうした「境界」となる事象を考えるうえで、カモノハシは格好の対象となるわけだ。
著者は特に頭骨や歯の形を元に、哺乳類の進化を考察する。これらは化石として残っていて研究しやすいという利点もあるのだろう。
爬虫類と異なる哺乳類の特徴の1つは咀嚼をすることであり、一般にはそれに適した臼歯を持つ。だがカモノハシは咀嚼をするのに臼歯を持たない。祖先は臼歯を持っているのになくしてしまったのだ。どうやら、採餌にあたり、くちばしの感覚器官を発達させるために、歯のスペースが限られていったということのようなのだが、このあたりの仮説の立て方、検証の仕方がこの分野の研究を垣間見させておもしろい。

後半はカモノハシ研究全般の歴史について。
カモノハシの生息域はオーストラリアやタスマニアに限られる。彼らがどのように発見され、受難の歴史を経て、今に至るのか。カモノハシ切り口の近現代史がなかなか読ませる。

その他、オスにしかないという蹴爪の毒の話や、動物園でのカモノハシ飼育の苦労、カモノハシ保護活動など、1種の動物からこれほど多様な世界が広がるのか、と楽しく読ませる。
まさにカモノハシの「博物誌」!
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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この書評へのコメント

  1. ゆうちゃん2021-01-09 13:40

    書評楽しく拝読いたしました。やっぱり奇異な動物なのですね。

    別の本でカモノハシのことを読みましたが、人間と並んで進化の特異点とのことでした。また最初にカモノハシを持ち込まれた研究機関の学者たちは、あまりに奇異な動物で、最初はふたつの動物をつないで持ち込まれたと思ったとのこと。一杯食わされようとしていると構えたそうです。

  2. ぽんきち2021-01-09 13:54

    ゆうちゃんさん

    確かに、初めて見たら、「人魚」とかのキワモノみたいに思われそうですよね(^^;)。

    私は別の本でカモノハシの蹴爪に毒があるのを知って驚きました。いろんな意味で変わった動物ですよね。
    オーストラリア・タスマニアのあたりは、他の地域とはちょっと違うものが生き残っていて、進化的な観点からもおもしろいのかもしれません。

  3. No Image

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