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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
もちろん会いたい、会ってみたい。でも実際会うよりも相手をよく知っている
午前二時、タクシーを降りたばかりの女性が襲われ、バッグを奪われた。激しく抵抗した彼女は、頭を強く打ち据えられ、翌日になって昏睡状態に陥ってしまった。
バッグは、大通りのゴミ箱の上で発見される。
発見したのは、書店主ローランで、警察に届け出たものの、いろいろあって、結局一時的に自宅に持ち帰る羽目になった。

バッグから奪われたのは、財布、携帯、カード類で、即、お金に結びつくもの。
遺されたものは……。
襲われた女性が意識を失う前に心配していたのは、お金に置き替えることのできない「その他」のことだった。
他人にとってはただのガラクタで、一文にもならないものたちが、その人の人生を語ることもある。
膨らんだバッグに入っていた、ひとつひとつは、バッグの底の小さな石ころに至るまで、失うことが耐えがたい品物である場合もある。
バッグの中身の品々をひとつひとつ並べてみれば、そこに浮かび上がってくるのは、持ち主の半生だ。
面と向かって自己紹介をしたところで、あるいは親しくつきあっているつもりでも、けっして明かされなかったその人の姿をなんてはっきりと浮かび上がらせることだろう。
私は、自分のバッグに何を入れているだろう。不用のレシートやらメモの端切れやらが大量に出てくることを思い出して、ああ、と思う。(本当に、バッグの中身は、人を語る)

バッグの持ち主が何ものかも知らないままに、ローランは、持ち主に心寄せた。恋をした。
顔も身分も、年齢も、名前さえもはっきりしない、その女性のことをバッグは、語っていたから。語られる言葉が、ローランにはわかっていたから。
ローランは、バッグの持ち主をなんとかして探そうと思った。でもどうやって? 

バッグの中の特筆すべきものは、赤いモレスキンの手帖だが、もうひとつ、モディアノのサイン本が入っていたこと。
ローラン自身が書店主でもあるし、この物語には、たくさんの作家たちや文学作品が登場するのも楽しい。
バッグの中身が人を語るなら、愛読書もまた人を語るのだ。

アントワーヌ・ローランの二冊めの本。
前作『ミッテランの帽子』を読んだときに、これは大人のおとぎ話だ、と思った。そして、いま、こちらの本もやっぱり、そうだと思う。
それもとっても小粋で、上質の。
ほんの一センチばかり、浮き世の地面の上を行くような。
ほっとため息ついて、ああ、もっと読みたいなあ、と思わせてくれる、おとぎ話だ。
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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1740 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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