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紅い芥子粒
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転向というのか棄教というのか……いやいや、死の恐怖で洗脳が解けたってことじゃないかしら。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

大正十一年に発表された作品です。作者30歳。

元和か寛永か、兎に角遠い昔である という書き出しで始まります。

元和、寛永といえば、キリシタン弾圧が激しかったころ。
ちなみに、島原の乱は元和14年でした。

物語の舞台は、長崎県北部の浦上にある山里村。
そこに、おぎんという童女が住んでいました。

おぎんの両親は、大阪から長崎の浦上まで流浪してきたそうです。
キリシタンではありませんでした。宗派はわかりませんが仏教徒。
その両親は、幼いおぎんひとりを残して死んでしまいました。

おぎんは、孫七とおすみ夫婦の養子となります。
ふたりは、敬虔なクリスチャン。
おぎんは洗礼を受け、まりあという洗礼名も授けられました。

孫七・おすみを父母として、おぎんはしあわせに暮らしておりました。
朝に夕に天主様への祈りも欠かしません。

あるクリスマスの夜。突然のきりしたん狩り。
悪魔といっしょにやってきた役人どもに、親子三人は捉えられてしまいます。

牢に入れられ、天主の御教えを捨てるよう、水責め、火責めの責苦に遇わされても、三人の信仰心は固い。

ついに、磔、火あぶりの刑へ。
刑場を取り巻くおおぜいの見物人。
太い角柱に張り付けられても、おぎん、孫七、おすみの三人は、微笑みさえ浮かべている。
殉教すれば「はらいそ」に行ける、その喜びにひたっているようでした。

役人が火をつける前に、最後通告がありました。
天主の御教えを捨てればその縄を解いてやる、と。

見物人も息をのむ長い沈黙のあと、おぎんが口を開きます。
「わたしは御教えを捨てることにいたしました」

すぐさま縄を解かれたおぎんは、孫七、おすみの前にひざまずき、訴えます。
自分の実父母は、異教徒ゆえ「はらいそ」には行けない。「いんへるの」で苦しんでいるはず。自分だけ「はらいそ」へ行ってはもうしわけない、と。
そして、養父母に呼びかけました。

「お父様、いっしょに『いんへるの』へ行きましょう。お母様も、みんないっしょに悪魔にさらわれましょう」


なんだか、やけくそみたいにも聞こえますが、転向というのか棄教というのか、いやいや、死の恐怖で洗脳が解けたってことじゃないかしら。
けっきょく三人とも信仰を捨てました。

見物人は「ああ、よかった、ホッとした」って、ふつうだったら思うでしょ。
ところが、芥川は、そうは書かないのです。
見物人は「せっかくの火あぶりを見損なって信仰を捨てた三人を憎んだ」って。
わかるけど、なにもそこを強調しなくても……
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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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この書評へのコメント

  1. noel2021-01-06 11:41

    ああ、これも面白そうですね。最近、紅い芥子粒さんの追っかけをしていて、芥川への興味がわきました。ビンボー人のわたしにとって、タダで読めるのがなによりも幸せなアイテムです。これもおそらく、あの「青空文庫」に入っているものなのでしょう?

  2. 紅い芥子粒2021-01-06 12:20

    そうです。青空文庫に入っています。いいですよね、タダは。

  3. noel2021-01-06 13:24

    はい~。でも、タダより怖いものはないとも言います。

    しっかり紅い芥子粒さんの書評を読んでからにしないと。ヘンなものに時間を盗られ、取り返しのつかないことになったりして……。

  4. No Image

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