紅い芥子粒さん
レビュアー:
▼
転向というのか棄教というのか……いやいや、死の恐怖で洗脳が解けたってことじゃないかしら。
大正十一年に発表された作品です。作者30歳。
元和、寛永といえば、キリシタン弾圧が激しかったころ。
ちなみに、島原の乱は元和14年でした。
物語の舞台は、長崎県北部の浦上にある山里村。
そこに、おぎんという童女が住んでいました。
おぎんの両親は、大阪から長崎の浦上まで流浪してきたそうです。
キリシタンではありませんでした。宗派はわかりませんが仏教徒。
その両親は、幼いおぎんひとりを残して死んでしまいました。
おぎんは、孫七とおすみ夫婦の養子となります。
ふたりは、敬虔なクリスチャン。
おぎんは洗礼を受け、まりあという洗礼名も授けられました。
孫七・おすみを父母として、おぎんはしあわせに暮らしておりました。
朝に夕に天主様への祈りも欠かしません。
あるクリスマスの夜。突然のきりしたん狩り。
悪魔といっしょにやってきた役人どもに、親子三人は捉えられてしまいます。
牢に入れられ、天主の御教えを捨てるよう、水責め、火責めの責苦に遇わされても、三人の信仰心は固い。
ついに、磔、火あぶりの刑へ。
刑場を取り巻くおおぜいの見物人。
太い角柱に張り付けられても、おぎん、孫七、おすみの三人は、微笑みさえ浮かべている。
殉教すれば「はらいそ」に行ける、その喜びにひたっているようでした。
役人が火をつける前に、最後通告がありました。
天主の御教えを捨てればその縄を解いてやる、と。
見物人も息をのむ長い沈黙のあと、おぎんが口を開きます。
「わたしは御教えを捨てることにいたしました」
すぐさま縄を解かれたおぎんは、孫七、おすみの前にひざまずき、訴えます。
自分の実父母は、異教徒ゆえ「はらいそ」には行けない。「いんへるの」で苦しんでいるはず。自分だけ「はらいそ」へ行ってはもうしわけない、と。
そして、養父母に呼びかけました。
「お父様、いっしょに『いんへるの』へ行きましょう。お母様も、みんないっしょに悪魔にさらわれましょう」
なんだか、やけくそみたいにも聞こえますが、転向というのか棄教というのか、いやいや、死の恐怖で洗脳が解けたってことじゃないかしら。
けっきょく三人とも信仰を捨てました。
見物人は「ああ、よかった、ホッとした」って、ふつうだったら思うでしょ。
ところが、芥川は、そうは書かないのです。
見物人は「せっかくの火あぶりを見損なって信仰を捨てた三人を憎んだ」って。
わかるけど、なにもそこを強調しなくても……
元和か寛永か、兎に角遠い昔であるという書き出しで始まります。
元和、寛永といえば、キリシタン弾圧が激しかったころ。
ちなみに、島原の乱は元和14年でした。
物語の舞台は、長崎県北部の浦上にある山里村。
そこに、おぎんという童女が住んでいました。
おぎんの両親は、大阪から長崎の浦上まで流浪してきたそうです。
キリシタンではありませんでした。宗派はわかりませんが仏教徒。
その両親は、幼いおぎんひとりを残して死んでしまいました。
おぎんは、孫七とおすみ夫婦の養子となります。
ふたりは、敬虔なクリスチャン。
おぎんは洗礼を受け、まりあという洗礼名も授けられました。
孫七・おすみを父母として、おぎんはしあわせに暮らしておりました。
朝に夕に天主様への祈りも欠かしません。
あるクリスマスの夜。突然のきりしたん狩り。
悪魔といっしょにやってきた役人どもに、親子三人は捉えられてしまいます。
牢に入れられ、天主の御教えを捨てるよう、水責め、火責めの責苦に遇わされても、三人の信仰心は固い。
ついに、磔、火あぶりの刑へ。
刑場を取り巻くおおぜいの見物人。
太い角柱に張り付けられても、おぎん、孫七、おすみの三人は、微笑みさえ浮かべている。
殉教すれば「はらいそ」に行ける、その喜びにひたっているようでした。
役人が火をつける前に、最後通告がありました。
天主の御教えを捨てればその縄を解いてやる、と。
見物人も息をのむ長い沈黙のあと、おぎんが口を開きます。
「わたしは御教えを捨てることにいたしました」
すぐさま縄を解かれたおぎんは、孫七、おすみの前にひざまずき、訴えます。
自分の実父母は、異教徒ゆえ「はらいそ」には行けない。「いんへるの」で苦しんでいるはず。自分だけ「はらいそ」へ行ってはもうしわけない、と。
そして、養父母に呼びかけました。
「お父様、いっしょに『いんへるの』へ行きましょう。お母様も、みんないっしょに悪魔にさらわれましょう」
なんだか、やけくそみたいにも聞こえますが、転向というのか棄教というのか、いやいや、死の恐怖で洗脳が解けたってことじゃないかしら。
けっきょく三人とも信仰を捨てました。
見物人は「ああ、よかった、ホッとした」って、ふつうだったら思うでしょ。
ところが、芥川は、そうは書かないのです。
見物人は「せっかくの火あぶりを見損なって信仰を捨てた三人を憎んだ」って。
わかるけど、なにもそこを強調しなくても……
投票する
投票するには、ログインしてください。
読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
- この書評の得票合計:
- 36票
読んで楽しい: | 5票 | |
---|---|---|
参考になる: | 31票 |
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。
この書評へのコメント
コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:
- ページ数:0
- ISBN:B009IWWGHQ
- 発売日:2012年09月28日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。