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Wings to fly
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若くして猛り、豪族たちをひざまずかせて倭の国をまとめあげた男、ワカタケルの生涯。
我が地元の埼玉には、稲荷山古墳という史跡がある。ここから出土した鉄剣は、古代の天皇の実在の証拠となったことで有名である。鉄剣の銘文に「獲加多支鹵(ワカタケル)大王、すなわち斯鬼の宮にあって天下を治める我が、この百たび鍛えた名剣を作らせ、めでたさの由来をここに記す。」とあったのだ。
「ワカタケル」とは、第21代雄略天皇の諱である。

この小説は、周辺の豪族をひざまずかせて倭国の天下を治めた大王、ワカタケルの生涯を描いている。
記紀の記述を土台にして進行してゆくが、神やその使いの動物が姿を現し、神の声を聞き未来を占う女たちが登場し、殺戮の血と男女の「まぐわい」の匂いがする。

様々な神や死者の霊の存在を当たり前に受け入れ、性に対する考えはおおらかで開けっぴろげ、そして歌と戦いが常に身近にある。そんな古代の暮らしの息吹が伝わってくる。どこか神話的な雰囲気を漂わせた物語である。

兄が殺害され空位となった大王の座を手に入れるため、ワカタケルは二人の兄と従兄弟を殺す。カッとなると衝動的に傍近く仕える人間も殺す。後の書に「大悪天皇」とも記された性格と共に、新たな知識や技術を持って海を渡ってきた人々を保護し、鉄器の製造や養蚕を振興させ、半島との貿易に力を入れた横顔も描かれる。

物語の中に織り込まれた、大王の威勢を文字によって伝え残そうとする行為の始まり(稲荷山古墳の鉄剣を作る場面も出てくる)や、まず攻めて力を削いでからその家の娘を娶り豪族を従わせる手法(平安時代の藤原氏とは真逆であり、当時の大王=天皇が、まさに天下を統べる者であったことがわかる)など、大変面白く読んだ。

「倭国はこのようにして安定し、豊かで知的な国になってゆきました。その礎を造ったのは、ワカタケルこと雄略天皇だったのです。」ということが納得できるのである。

ワカタケルの死後の出来事も描かれる。 ワカタケルと大后の、ある意味で不幸な死に様を伝える最後の二章の語り手の名は、ヰト(井斗)という。彼女の仕事は、稗田の媼の後を継ぎ、古来から現世のことを覚えて次代に伝えること。

ヰトの語りからは、あるメッセージが伝わる。歴史書とされる「記紀」は、国の威信に関わる記憶の保持。取り繕わねばならない出来事もあったのですよ、と。
そういうところにも、「神話と歴史のあわい」を感じる物語である。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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