darklyさん
レビュアー:
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ある目的を持って西を目指す犬と、出会う人々との間の、束の間の触れ合いを描いた連作短編集。
中垣和正は駐車場で犬を見つけた。シェパードの雑種のようだ。首輪を見ると多聞という名前らしい。ほっておくことができず連れて帰った。震災後の不況による経済的困窮、痴呆の母を介護する姉の負担を少しでも軽くするため危ない橋を渡る和正。多聞がいることで母も介護疲れの姉も癒される。そして最後の危ない仕事に多聞を連れて向かう。
多聞は和正と別れた後、窃盗犯、離婚の危機にある夫婦、殺人者の娼婦、余命いくばくもない老人と束の間過ごすが、いつも多聞は西の方を向く癖があった。つまりそちらの方に大事な人がいるのだろう。やがて多聞は九州に辿り着く。
私は子供の頃から猫派ですが動物全般好きで、もちろん犬も大好きです。猫を始めとして他の動物にはない犬の特徴は、人間性の本質を見抜き、自分が認めた主人に対する留保のない親密な態度と全面的肯定にあるような気がします。この短編集に出てくる人間は社会的あるいは個人的状況において何らかのトラブルを抱えています。窃盗犯、殺人者、冷めきった夫婦、そして震災で心の傷を負った家族等、人間社会においてはレッテルを貼られがちな人々に対しても犬は全く意に介さない。それがそのような人々にとって得難い癒しとなります。
そして犬には人間にない能力を持ち、かつ独特の賢さが備わっているような気がします。人間はその時々の行動の選択に迷い、得てして愚かな行動に出てしまいがちですが、犬には決してブレずに正しい道を選ぶことができるのではないかと、犬の目は人間の心を映す鏡であり犬に問いかけることにより自分自身でも本当はわかっている正しい道に導いてくれるのではないか、もちろんこれは勝手な私自身の考えなのですが、作者も似たような考えを持っているような気がします。つまり人間と犬というのは唯一無二なパートナーであると。
物語は人々が多聞と出会い瞬時に意気投合し束の間一緒に過ごす中で癒されていくというパターンを取りますが、実は私も同じような体験をしたことがあります。小学生の頃、夏休みのある日、コリー犬が家に迷い込んできました。当然はぐれた飼い犬であり最初からとても私に懐き、朝のラジオ体操だろうがどこにでもついてきます。ある日餌として焼き魚を与えた時食べません。食べるように命令しても食べません。しばらくして皿を見ると魚がなくなっており、やっと食べたかと思いきや家の前の川に捨ててありました。子供心ながらこいつ賢いなと。
別れは突然やってきました。犬を連れて行けないところに行くときについて来ようとするので帰れとかなり強く手で指し示しながら命令すると引き返していきました。それっきり姿を見ることはありませんでした。自分の本当の家に帰れと言われたと思ったのでしょうか。それなら良いのにと思った記憶があります。
この短編集は「不夜城」を始めとしたノワールで名を馳せた作者らしく、追い詰められていく過程のスピード感や登場人物の焦燥感のリアルさが秀逸で読ませるところは流石と思いますし、多聞の行動の意図を探るミステリーの要素が読者を最後まで飽きさせないところも上手いとは思いますが、多聞との出会いや触れ合いが少しワンパターンな印象があり、またあまりにも多聞を擬人化しすぎの感もあります。さらに震災やトラブルにより心に問題を抱える人たちの過酷な運命と多聞とのハートウォーミングな場面とのギャップが大きく私は少し物語に入りきれなかったという印象があります。
多聞は和正と別れた後、窃盗犯、離婚の危機にある夫婦、殺人者の娼婦、余命いくばくもない老人と束の間過ごすが、いつも多聞は西の方を向く癖があった。つまりそちらの方に大事な人がいるのだろう。やがて多聞は九州に辿り着く。
私は子供の頃から猫派ですが動物全般好きで、もちろん犬も大好きです。猫を始めとして他の動物にはない犬の特徴は、人間性の本質を見抜き、自分が認めた主人に対する留保のない親密な態度と全面的肯定にあるような気がします。この短編集に出てくる人間は社会的あるいは個人的状況において何らかのトラブルを抱えています。窃盗犯、殺人者、冷めきった夫婦、そして震災で心の傷を負った家族等、人間社会においてはレッテルを貼られがちな人々に対しても犬は全く意に介さない。それがそのような人々にとって得難い癒しとなります。
そして犬には人間にない能力を持ち、かつ独特の賢さが備わっているような気がします。人間はその時々の行動の選択に迷い、得てして愚かな行動に出てしまいがちですが、犬には決してブレずに正しい道を選ぶことができるのではないかと、犬の目は人間の心を映す鏡であり犬に問いかけることにより自分自身でも本当はわかっている正しい道に導いてくれるのではないか、もちろんこれは勝手な私自身の考えなのですが、作者も似たような考えを持っているような気がします。つまり人間と犬というのは唯一無二なパートナーであると。
物語は人々が多聞と出会い瞬時に意気投合し束の間一緒に過ごす中で癒されていくというパターンを取りますが、実は私も同じような体験をしたことがあります。小学生の頃、夏休みのある日、コリー犬が家に迷い込んできました。当然はぐれた飼い犬であり最初からとても私に懐き、朝のラジオ体操だろうがどこにでもついてきます。ある日餌として焼き魚を与えた時食べません。食べるように命令しても食べません。しばらくして皿を見ると魚がなくなっており、やっと食べたかと思いきや家の前の川に捨ててありました。子供心ながらこいつ賢いなと。
別れは突然やってきました。犬を連れて行けないところに行くときについて来ようとするので帰れとかなり強く手で指し示しながら命令すると引き返していきました。それっきり姿を見ることはありませんでした。自分の本当の家に帰れと言われたと思ったのでしょうか。それなら良いのにと思った記憶があります。
この短編集は「不夜城」を始めとしたノワールで名を馳せた作者らしく、追い詰められていく過程のスピード感や登場人物の焦燥感のリアルさが秀逸で読ませるところは流石と思いますし、多聞の行動の意図を探るミステリーの要素が読者を最後まで飽きさせないところも上手いとは思いますが、多聞との出会いや触れ合いが少しワンパターンな印象があり、またあまりにも多聞を擬人化しすぎの感もあります。さらに震災やトラブルにより心に問題を抱える人たちの過酷な運命と多聞とのハートウォーミングな場面とのギャップが大きく私は少し物語に入りきれなかったという印象があります。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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