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darklyさん
darkly
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薬物中毒が原因で罪を犯した男が自分を取り戻し人生をかけて罪を贖おうとする物語。
幼少期から過敏で精神的に脆い祐は家庭を持ち子宝に恵まれながらも薬物に溺れそれを買う金欲しさに橋野という売人による殺人事件において殺人ほう助の罪を犯し服役する。当然家庭は崩壊し現在は解体工事会社で肉体労働する毎日だ。

祐は薬物依存からの更生するサークルに通いながら真面目に仕事をこなしているが男女問わず極力人との深い付き合いは避け静かに暮らしている。ある日解体家屋で成島という男が倒れていた。救急車を呼び助け、成り行きで成島は祐の会社に入ることになったが成島の存在が祐の心を不穏にする。

一方、祐は解体工事へのクレームが元で知り合った吉田嘉平という独居老人と親しくなり定期的に連絡し家に立ち寄り何かと世話を焼いている。それは過去の罪に対する贖罪の意味もある。

やがて成島の正体が徐々に明らかになり会社の仲間とトラブルを起こし、そして祐が嘉平と食事をしているファミレスに現れた時、祐は逃げずに自分と向き合う決断をする。

この小説は薬物中毒により家庭が崩壊しこれからの人生を後ろ向きにしか考えられない祐が人生も捨てたものではないと希望を見出し正に過去の罪を贖おうとする物語です。人生における光を見出せない祐がそれに気づくのは闇しか持たない橋野の存在があったからです。親の愛を全く知らず何度も生命の危機に陥りながらどん底の人生を歩んできた橋野の虚無はその闇の深さゆえに祐の何気ない他愛もない過去の思い出を明るく照らし出します。

祐の自首により逮捕された橋野は二度と娑婆に出る可能性はありませんが、法廷で祐に向かってそのうち会いに行くから待ってろよと叫びます。その呪いは成島という存在により具現化され祐の脅威となります。しかし祐は逃げ回っていた過去の自分と決別し対峙する決意を固めます。

薬物中毒に人が陥る原因は様々だろうと思います。しかし直接・間接を問わず人間関係が絡んでいることは間違いありません。そしてそこから人を救うのも結局人間関係なのです。そして人間関係を作るには「自分」と「他人」という概念が理解できなければなりません。
祐は橋野のことをこう理解します。
橋野は<自分>というものを持てなかったから、他人の意味も理解できなかった。誰もが一人ひとり固有の時間と経験を生きているということが彼には分らなかった。彼もばらばらに切り刻まれて苦しんでいた。最後まで自分というものの意味が分からなかった。
結局自分と言う存在を形作るものは絶対的なものではなくあくまで周りの人との関わり合いや、たとえ幸薄い人生であったとしてもその中でのちょっとした楽しい出来事の積み重ねなど相対的なものなのだろうと思います。

この作品自体は考えさせられることも多く素晴らしいと思いますが、私はどうしても「名もなき王国」の幻想的な味わいを求めて本書を手に取ったのでそういう意味では期待外れであったという思いは否めません。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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