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かもめ通信
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先行レビューに心惹かれて、嫁姑問題なら任せておいて!と腕まくりして臨んでみたが……。
足かけ八年病みついた後、死んだ息子がお住に残したものは、
働き者と評判の嫁お民と、まだ幼い男の子。

跡継ぎとなる幼子をおいて、今嫁に出て行かれては、
自分の暮らしはなりたたないと考えたお住は、
お民に婿をとろうとするが、これにはお民がうんと言わない。

今まで通り畑仕事は一切合切自分がこなし、
一家の暮らしを支えていくとの言葉通り
お民は朝から晩まで身を粉にして働いた。

お住はそんな嫁に感謝しつつ
自分は家事に子育てにと奮闘するが
歳を重ねる毎に身体もきつくなり
ここはやはり婿をとって畑仕事は男手にまかせ、
家のことはお民にみてもらいたいと考えるようになる。

おばあさん、お前さん隠居でもしたくなつたんぢやあるまえね?
そんなお住の思惑を見透かして、
男勝りの働き手としてすっかりたくましくなったお民は
はげしく姑をなじるのだった。


先行レビューに惹かれて読んだ芥川の短編。

嫁姑問題なら任せておいて!
と腕まくりして臨んでみたが、
意外なことに思い浮かべたのは
同じ芥川の 桃太郎だった。

夫が長く患ってた間も、その死後も、再婚を断り
一家を支えて働き続けたお民。
息子は修身の時間に「嫁の手本」「貞女の鏡」
「近在に二人とない偉い人」と母を褒め称えあげられ仰天する。
もちろん姑のお住はそんな風には思っていないが、
その評判は高く、郡でも表彰の話があったほどだという。

その時代、孝女節婦の表彰は実際に行われていたこと。
夫が戦死したり、身体を壊して帰ってきても
不平を言わずに家を支えていく嫁のあり方を表彰したのは
国策のひとつでもあったのだろう。

そうしたあれこれを
正面から非難することなしに
そうしなければ生きていけなかった女たちを
皮肉たっぷりに描きあげるあたりが
いかにも芥川という気がした。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2235 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. noel2021-01-07 08:05

    そうしたあれこれを正面から非難することなしにそうしなければ生きていけなかった女たちを描きながら皮肉たっぷりに描きあげるあたりがいかにも芥川という気がした。

    そうですね。わかっていながら、斜めに、というか、片唇を上げてニヤッとする芥川の目配せが見えるようです。

  2. かもめ通信2021-01-07 08:50

    あら!描くが2重になっていますね。
    ちょっとなおしてきます!(^^ゞ

  3. 脳裏雪2021-01-07 11:18

    かごめさんが、嫁姑問題の専門家でもある、ってのは面白い、ソレは重要事項だからね、、
    何故、んなタイトル、をつけたのか、あきらかに嫁姑問題ではない、
    ひとくれの土→だんご状態の人生→五十歩百歩の兵士、
    芥川は、人生を嘲けてるんだなあ、っとあらためておもいました、振り返るとそれは芥川に通底してる様な気がしてきた、

    桃太郎、読みました、
    つまらない駄作ですね、

  4. 紅い芥子粒2021-01-07 16:11

    この小説、芥川はプロレタリア文学をやってる人たちから痛烈に批判されていた時期があって、その対抗意識で書いたんじゃないかと、どこかの解説で読んだような気がします。「桃太郎」なんかは、明らかにそんな感じですよね。若いのですよ、この方。芥川の小説はどれを読んでも、ああ、若いなあって思いますもん。

  5. かもめ通信2021-01-07 16:20

    脳裏雪さん,あいにく私,嫁姑問題は嫁側しか詳しくないのですが(^^ゞ

    でもほら,芥川だってきっと詳しくなかったはずですものねww

    かつてこのサイトで一夜にして盛り上がった,桃太郎祭り,楽しかったんですよ。
    私はもう,あの祭りの思い出なしに「桃太郎」を純な気持ち(?)で読むことはできそうにありません。

  6. かもめ通信2021-01-07 16:34

    紅い芥子粒さん,ですよね!ですよね!青臭いですよね!(あっ言っちゃった(^^ゞ)

    でもこれはやっぱり長塚節あたりを意識しているのかなあと私も思いました。
    そのあたりの作品,あまり読んでいないので今ひとつよくわからないのですが。

  7. 紅い芥子粒2021-01-07 16:44

    言っていいですよ。青臭いです。彼が人気作家だったのは、その青臭さがウケていたんだと思います。読者も若かったんじゃないかな。彼が死の誘惑に打ち勝って、がんばって長生きしてくれていたら、きっとまったくちがう芥川龍之介を読むことができたのだろうなあ、と思います。

  8. noel2021-01-07 16:54

    桃太郎ならぬ「嫁姑問題」で盛り上がってしまったみたいですね。わたしがあんなことを書いたばっかりに……。

  9. かもめ通信2021-01-07 17:00

    いやいやnoelさん(お名前変わられたんですね!)のあのレビューがなかったら,
    私,腕まくりしませんでしたし,
    腕まくりしなかったら,こうして芥川はやっぱり青い!くさい!と
    盛り上がることもなかったでしょうから!
    楽しいレビューをありがとうございます。

  10. 脳裏雪2021-01-07 18:37

    >赤芥子さん
    なるほど、確かにね、若書きだ、アラばかりがみえるんだね、康成のように美しいところを魅せて欲しいかったなあ、でもそれなりに掬うところは多々あります、

  11. noel2021-01-07 19:36

    芥川さんの書いたおぎんの信仰心に感銘を受けて、伴天連信者になりました。オラショの代わりにノエルを心に秘めて生きて行こうと思っています。これからも、賛美歌ならぬ老ノエルをよろしく!!!

  12. noel2021-01-09 19:22

    このときから芥川作品を読んで、思うようになりましたが、彼の作品には必ずシニシズムが潜んでいるように思われます。それこそ、中学生時代に『鼻』くらいでしか、それも教科書でしか読んでない身にとって、とても新鮮でした。

    この齢になって初めて読む短編というより、芥川作品ですが、なかなかどうして、青いどころか、その卓越したものの見方に感服しています。彼のなかに潜むシニシズムはその時代の空気なのかもしれませんが、むしろそれを逆相に捉えるところに彼の編集アイがあり、真骨頂があるのだと思います。

    逆に言えば、弱冠30そこそこで自分もこんな風に書けたのかと自問するに否としか答えようがありません。わたしは二十歳半ばまでボーっと過ごしていました。いまだ億劫がる性格は治っていないので、皆さんのように俊敏な感性を持ち合わせず、相変わらず奥手のまま過ごしています。

    と、まあ、そんなわたしですが、今後ともよろしくお願いします。

  13. No Image

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